第21話 3人での朝食

「いやだ、僕も2人と一緒に食べるんだ!」


なんとか体のもりあがりを抑えて、沈めて俺が屋内に戻ると、ダイニング前でなにやらマキとヒメが言い争っていた。

喧嘩はよくないが、ヒメの目にもう涙の跡が見えないことに俺は安心する。


にしても、衝撃の発言だった。

ヒメは今、目の前にいて喧嘩しているその人間を愛している。

愛ってなんだ。

人を好きになったことすらない俺には、よくわからない。


「おい、どうしたんだ?」


俺は二人に声をかける。

ヒメに少しだけ反応してしまったために話しかけるのは恥ずかしかったが、マキの時みたいに1週間も引きこもるわけにもいかない。

うん、悩みすぎる前に特攻だ。


「お兄様、聞いてくださいよ。今日は私がお兄様と過ごす日なのに、マキが一緒にご飯を食べたいって」


「ご飯くらいいいだろ? それとも僕に自室で一人さみしく食べろっていうのか?」


「でもでも、私の日なのですよ。不公平だと思いませんか?」


怒るヒメ。今にも地団駄を踏みそうだ。

でもなんだろう、さっきあんな話を聞いたからか、本気で怒っているようには見えない。

僕はそんな2人の喧嘩に小さくため息をつくと、二人に向けて言う。


「いいだろう、ご飯くらい3人で食べれば。不公平っていうなら、明日のマキの日も3人で食べることにすればいい」


「え」


今度はマキがちょっと不機嫌そうな顔になり、ヒメが顔を輝かせる。

ヒメは本当は俺なんかといるより、マキと一緒にいたいに決まっている。

そう思うとこの交代制の提案をしたのは彼女にとって迷惑だったのかもしれない。

俺の顔を立ててくれるためにこの提案に乗ったのだろうか。


「なんだ、いやなのか?」


俺がからかうように聞くと、マキはうつむく。


「せっかくイチ兄と二人っきりになれると思ったのに」


小声で言うヒメ。

そうか、作戦会議だな。

にしてもヒメを俺に惚れさせるって作戦はなかなか難しそうになってきたな。でも、それを好かれている本人であるマキに説明もできないし……ううむ、難しい。


「皆様! ご飯は食べられないのですか?」


ダイニングの前で団子のように止まっていた俺たちに声をかけてくるロボットが一人。


「クル! 珍しいのね、出歩いて」


ヒメが言うと、クルは嬉しそうにクルリと回る。


「はい、朝食は作り終えましたので散歩に出ようと思いまして」


「ロボットなのに散歩?」


俺が驚いて聞くと、クルはふふふっ、と笑う。


「運動は必要ないですけど、料理人には季節を感じることが必要ですからね」


季節を感じるとかすごいAI積んでるな。


「それよりも皆さん、ご飯本当にお食べにならないのですか? わたくしの料理になにか問題でも?」


心配そうに俺たちを見つめてくるクル。おお、なんだ心が痛むぞ。


「いや、そうじゃなくて、ちょっと相談事があってね」


「でしたら! 早く! 食べてください!」


俺の言葉を聞き終わるか否かのタイミングで、クルは体の側部から腕をにょきっと出し、伸びるアームで俺たちをダイニングの中に押し込める。

そして自分は入り口ドアをふさぐ形で一時停止。

目の部分の液晶には通信中の文字。


「食事を持ってくるようにメイドロボットに伝えましたので! 皆さんゆっくり食事をお楽しみくださいね!」


そう言ってクルはアームを胴体に収納し、庭に向けて走っていった。2足歩行ではなく、体の下にローラーがついているので走るが適当。円筒に半円の頭がくっついているのが各機能を収納した状態の、彼だ。

ん、彼女か? 性別どっちなんだろう。ま、人間なのによくわからない双子もいるんだから、ロボットの性別なんでもっとわからないよなぁ。

ってなことを、正面にいるマキとヒメを見ながら思う。


「それじゃあ、飯食うか」


「マキ、ご飯食べている間だけですからね」


「わかったよ、食べている間しか、ヒメとイチ兄とは一緒にいない」


俺と二人は、この間と同じ席に座り、メイドロボットが食事を運んでくるのを待った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る