第24話 みんなでの昼食

それから30分ほどして、なんとか飴を退治してから俺とヒメはダイニングに向かった。

ヒメは食べる前からなんだかげっそりしている。


「私、昼ご飯いらない……」


「部屋で休んでてもいいぞ」


俺がそういうとヒメはふるふると首を振った。


「ううん、マキとお兄様を二人にはあんまりしたくないから、行く……」


じゃあ、明日はどうなるんだ、と俺を問いかけようとした矢先、ダイニングからぴょこっと廊下をのぞく頭が一つ。


「イチ兄、ヒメ、遅いよー」


マキが出てくる。手にナイフとフォークって怖いよ、それ。


「お昼はステーキだってさー」


二刀流でうきうき構えているマキに対し、青い顔のヒメ。おい、お前大丈夫かよ。


「ステーキ、食べたい。カロリー、カロリーオーバー……」


つぶやきが聞こえてしまった。

なんかごめん、聞いちゃいけないやつだった気がする。


とにもかくにも、少し青い顔をしたヒメも含めて、一同そろって昼食となった。


「いただきますー」


目の前に並ぶは霜降りステーキ。

それはやっぱり生肉。いや、この生っていうのは火が通っていないということではないよ!

うーん、どうも俺はクルの料理人魂に火をつけてしまったようだ。ああ、この火は物理的なものじゃなくて……ああもうややこしいな。


「お、おいしい」


ステーキを一口頬張り、目を輝かせるヒメ。

うむ、生の肉はおいしいよな。

俺的にはやっぱり自然と環境にやさしいパック詰め食材よりも生のほうを好んでしまう。


「ヒメ、そんなにがつがつ食べなくても肉は逃げないよ」


まるで綿菓子を食べているかのようなスピードでステーキを食していくヒメ。

顔色もよくなったし大丈夫だろう。


「さて、俺も食べますか」


安心した俺もステーキを食す。

そして、ヒメが綿菓子のように食べていた理由がわかる。


「口の中でお肉が、とけるっ」


舌に触れた瞬間に肉の脂がじわっと広がり、ほとんど噛まずとも飲み込めてしまう。溶けた脂も決して嫌味がなく、深みのある味わいで楽しませてくれる。

これは、あれだ、美味しい。


「いくらでも食べれそうだな」


俺の実家で食べていたような肉とはレベルが違う。ほんとのほんとに高級品。

これ一切れで普通の人間の生活費が何か月分飛ぶんだろう。

考えてしまって俺はぶるっと震える。

これを与えられているということは、俺はそれだけのリターンをマキとヒメの会社にするように期待されているってことだからな。

うん、いや、考えるのやめよう。


「うまー」


とにかく今は、この史上最強に美味い肉を楽しむことが先決だ。



「はー、美味しかった」


ヒメがナイフとフォークを置き、ナプキンで口を拭きながら言う。


「本当にな」


「美味しかった」


俺とマキも同意する。

ん、マキも同意……?


「マキ、全部食べ終えてよかったのか?」


「あ」


マキは自分の前の空になった皿を見つめる。

どうやらおいしすぎて、引き伸ばす作戦を忘れていたらしい。愛いやつめ。


「みなさーん、デザートの時間ですよー」


そこに、クルの声が聞こえてくる。

クルは今回は頭の上だけではなく、アームも出して両手に料理をもって運んできていた。おいおい、何品あるんだよ。


「皆さんの好みの傾向を知るために、様々なデザートを作ってみました! 一口でいいので全部食べてみてくださいねー」


次々とテーブルの上に並んでいく料理に俺たちは3人で息をのむ。

お腹いっぱいだったはずなのに、その料理たちは俺たちの胃を刺激してきて、通称別腹と呼ばれる現象を引き起こしていく。


ただ、それを考慮しても多い。


「クル、こんなに食べれないかもしれないぞ」


冷静に俺が、料理用ロボット、クルに伝えると、


「大丈夫です。残った分はわたくしが食べますので」


という返答。

うん、君もしかしてロボットじゃないのかな!


「味見機能を付けていただいたときに、摂取した食物をエネルギーに変換する機能も追加していただいたんです! ですから、わたくしも食べますよー」


料理用ロボットにスペックかけすぎじゃないか。


「ではでは皆さん、召し上がれ」


クルに促されて食べ始める俺たち。


「カロリー……」


隣でそう呟く、ヒメの悲痛な声が聞こえた。

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