第2話 お迎えの車
『迎えの車が到着いたしました』
空港内で一人でパントマイムのようなことをやっていた俺の耳に、人間にかなり寄せてある合成音声が届く。
どうやら迎えが来たらしい。
どうせ、昔の人間が想像するようなあのくそつまらない、つるりとした機械が運転するカプセルみたいな乗り物なんだろ、と思って空港の玄関を出た俺は、
本当に素晴らしいものを目にすることになった。
黒塗りの高級車!
黒塗りの高級車です(大事なことなので2回言います)よ、奥さん。
このオールディーな装い、現代では一般では許可されていないこの車からの反射に、車から出ている排気ガスまでが俺の興奮ポイント。ただの高級車にしてはちょっとばかし長くて大きいけどな!
もう、今や、この手の車にリアルな世界で乗るには一回数億のお金がかかる、環境庁からなにからいろんな省庁に申請をして、許可をとって、排出した排気ガスの分、お金なり企業努力なりでペイしなければならない。
つまりなにが言いたいかっていうと、本当に大変なんだよ、この車に乗るのは!
「やっぱり、この車に乗ってきて正解でしたね、会長」
「そうじゃな、目のきらきらが違うわい。わしには、なにがいいかわかんがな」
興奮している俺を観察するためか、車から二つの人影が降り立つ。
一人は優雅なドレスをまとった、美しい女性。
もう一人は、白いひげを蓄えた老人。
俺の運命をこれから握るお二人だ。
白髭老人は、日本最大の会社であるところの会長。で、女性の方は社長を勤めている。
ほんと、普通は雲の上の存在なんだが、俺の、というか俺たちのオールディーな感覚を希少に思ってくれていろいろと補助してくれている。
ありがたいことだ。
「さてさて、イチロー君乗りたまえ」
「あ、はい」
俺のお気に入りな自分の名前、イチロー。
ほんと、古風で気に入っている。どうだ、羨ましいだろ?って、これ聞いてる時代の人的には全く羨ましくないのかもしれないが。この時代では、こういう古風な名前も特権であったりするんだ。中身とあってない名前はつけられないことになってるしな。俺の名前ってすごい。
などと、自分の名前の自慢はそこそこにして、促された通りに俺は黒塗りの高級車のちょっと長いやつ、りむじんとか言うのか、昔の人は。に乗り込む。
広い社内を見回すと、りむじんの一番奥、運転席に背を向けた形で二人の人間が座っていた。
一人はぶすっとした表情で。
一人は目をキラキラさせて。
俺がそんな二人を見つけて入り口で立ち止まる。えっと俺はどこに座れば……?
逡巡していると後ろからどすんと押され背中に衝撃が走る。
「もうっ、早く入りなさいよ?」
色っぽい声が後ろから聞こえる。
どうやら、社長さんが俺のことを押したようだ。
そして、押された反動で俺は、二人の人間の体に正面衝突……するところだったのだが、二人の人間はすっと隙間を開けると、俺がぶつかるスペースがあく。
はい、こんにちは座席さん。
君は硬いかい?
いや、柔らかいな。
柔らかい座席にすりすりしていると、後頭部が痛いほどの視線攻撃に合う。
やめて痛い痛い、突き刺さってるって。
頭を上げると、俺のことを覗き込む二人がいた。
一人は目のくりりんとした、巻き毛のかわいらしい少女。
そしてもう一人はむすっとした表情の少年。
俺はその二人の間で頭いったりきたり、いって戻って。はい、次は少女、少年、少女、少年……。
「さて、イチロー君。それでは選んでくれたまえ」
いつの間にか乗ってきていた会長が座席にゆったりと腰掛けながら言う。
俺はくるりと、地面の上で半回転して会長のほうに向く。
「はい?」
留学から帰ってきて話があると言われていた俺は、会長に聞き返す。
なんだ、なにを選ぶっていうんだ?
まあ、ぶっちゃけ一話でみんなにはぶっちゃけてるから、正直これいらないと思うんだけど、デフォルトだから一応やっときますね。
「君が相手に選んだ方をうちの跡取りにするからね」
ええええ!
はい、お疲れ様でした。
俺、ほんとどうなるんでしょうな。
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