第5話 少年(男装の麗人)からの攻撃

はい、それからのことを話すとですね。

叩きのめされました。

敵意を向けてきたとてもかっこいい赤い目の少年、うん、少年と呼ぶのはあれだな、女の子だし、仮に麗しの彼女と呼ぼう。

でね、彼女はね、俺の話を聞くことなくそれはもう一撃で、木剣でざしゅっとやってくれました。


はい、昏倒。

お休みなさい。

医療用ロボットが飛んでくる救急の音を聞きながら俺の意識は沈んでいった。

ピーポーピーポー


「いや、でも、そんなことって」


「お兄様をみてください、こんなに顔のバランスがいい。マキの願望も達せられるかも」


「そう言われてみると……いや、でもそんなことって。だってこの人あの地域出身なんだろ? 受け入れてもらえるはずが」


「とにかく一度やってみよう? マキが参加してくれないと私も張り合いないの」


もぞり。

遠くからそんな会話が聞こえてきた。

願望? あの地域? そして張り合い?

よくわからない言葉だらけで、覚醒したての俺の頭は混乱する。

なんにしろ、麗しの彼女の気分はさっきより落ち着いているようなので、俺は少しほっとする。

さすがにまた殴られたくはないからな。



「あれ、お兄様。起きてらっしゃいますか?」


俺が体の動作を確認するためにもぞもぞ動いていると、少女がそれに気づく。うん少女、男の娘。あれ、この子の名前は聞いてないな。


「あー、うん、今起きた」


先程の会話は聞いてないことにした方が多分賢明と思った俺は今起きたということにする。


「よいしょっと」


体に勢いをつけて寝かされていたベッドから起き上がる。そして大きな伸びをひとつ。まだぼんやりしているが、どこにも痛みがなかった。


「平気そうですね、よかった」


微笑みかけてくれる男の娘。うん、美少女なのに俺の体はなぜ反応しない、なんなのだ!


「おう。あ、そうだ、お前…らの名前聞いといていいか?」


麗しの彼女の方はマキという名前を聞いていたが、直接彼から聞いたわけではないので、あらためて二人に聞き直すことにする。

すると、二人はベッドの近くへと寄ってくると自己紹介を始めてくれた。


「お兄様、私はヒメと言います。よろしくお願いします」


ふわりとドレスの裾をもってお辞儀するヒメ。


「僕はマキ。イチ兄よろしく」


木剣を支えにして、毅然とした態度でこちらを見つめてくる、マキ。

それにしてもヒメとマキか。

本当に見た目に近いような名前を認められてるんだな。つまりあれだ。

この姿が二人の本質って訳だ。


「いい名前だな、よろしく」


俺はそう言って二人の方に両手を差し出す。その手を少し顔を赤らめたヒメがすぐに握ってくる。そんなヒメの様子を見たマキも渋々といった様子で手を握って来た。


「さてと、じゃあまずはなにから始めるか」


手を離して、俺はぱんと自分の手のひらを合わせる。新生活だぞ、いろいろやらなきゃいけないことがあるはずだ。掃除当番とか料理当番とか決めないと。


「お兄様、お願いしたいことがあります」


そんな張り切る俺に、くぐいっとヒメが顔を近づけて言う。


「な、なに?」


その真剣な眼差しに俺はちょっと引き気味になる。なんだ、俺何かされるの殺されるの? それとも、俺の苦手なトイレ掃除でも押し付けられるの?


「さあ、マキ。お願いしましょう」


「う、うん……」


お、お?

ものすごい視線だったわりにお願いするのはマキの方なのね。

いいぞ、お兄さん、マキちゃんのお願い事なら何でも聞いちゃう。仲良くなりたいし、下半身もうずくしね。


「あ、あ、あの……」


顔を真っ赤にして、言葉を紡ごうとしているマキ。

俺は彼女に心の中で頑張れ、頑張れとエールを送る。

言ったら君の勝ちだぞ。

お兄ちゃんが叶えちゃうぞ。


ふるふると震えるマキ。

ついに大きく息を吸って、言葉を俺に向けて紡ぐことに成功する。







「イチ兄! 女装して!!!」






へ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る