第6話 新たな扉を開きましょう
女装っていうのはあれだよな。
女物の服を男が着るってやつ。
女物の服ってあれだ、スカートとかだ。それだけじゃないけど。
俺が、それを?
き、着る?
「無理無理無理無理、絶対無理。無理がゲシュタルト崩壊しちゃうくらい無理。無理と言う文字が読み取れなくなってきちゃう」
あまりに無理すぎて俺の頭の中で、無理と言う言葉が躍り狂う。
静まりたまえ、お願いだから。
「そう、だよね」
俺が一人で頭の中の無理と戦っていると目の前から悲しそうな声が聞こえた。え、そこまで、落ち込むことなの?
俺は頭の中の無理をていやっと追い払うとマキへ向き直る。彼はとても悲しそうな顔をしていた。こんな顔を俺がさせてるのか。そう思うと心が下半身が苦しくなる。
「……やるよ」
勝手に口から言葉が出てきた。
俺が少し我慢するだけで、彼女が笑顔になるなら、いいと思った。うん、下半身のイメージが入った。彼ね。ああ、いや彼女が正しいんだ頭がいたくなってきたぞ。
まあ、とにかく、だ。
少しの我慢で他人を笑顔にできるなら、やってやろうじゃないか。
「ほんとに、いいの?」
うっすらと目に涙を浮かべた不安そうな彼。
俺は彼の肩を叩いてにっと、笑った。
「どんと、来いだ!」
「そうと決まったら早速やりましょう!」
隣から大きな声が聞こえて、俺はビビる。
え、ちょっと待って、ヒメも女装するのに参加するの。
「お兄様はいたいけな少女に着替えさせて真っ裸を見せつけたいたちですが?」
そう言われてちょっと青くなる。見た目に騙されててどうも頭が忘れてた。
というかヒメはむしろプロか。
うってつけだな。
「じゃあ、よろしくお願いするよ」
「はいはーい、任せてください! お兄様の初めての女装。このヒメが必ず成功させてみせます」
そう言ってヒメは俺をぐいぐいと引っ張っていく。
「マキはここで待っててねー」
がたん、と扉を閉めたとたん、にこにこしていたヒメの雰囲気が急に変わる。
あれ?
「今回だけですからね」
「は、はい?」
「だから、手伝ってあげるのは今回だけです。世の中にヒメよりかわいい男の娘はいりません。でも、マキちゃんがこの生活に乗り気じゃないのも困ります。だから一回だけです。もう二度と手伝いません」
「う、うん。俺もマキの願いを聞いて仲良くなれたらもう女装なんてしないと思うよ」
ヒメはそういった俺を見て小さくため息をつくと、つぶやいた。
「どうでしょうね」
その言葉の真意を聞く暇なく、ヒメは俺の体をぐいぐいと引っ張っていく。
そして、ひとつの部屋のなかにそのままの勢いで突入する。
もくもくと湯船から上がる湯気。いくつか並ぶシャワーたち。
「風呂!?」
俺は目の前の少女をまじまじとみてしまう。この少女と風呂にはいる? まって、それは興奮せずにいられるのか、主に頭が。
「さて、入りますよ。パンツは残しといていいので他は脱いでくださいね、お兄様」
いつもの調子に戻っているヒメが、脱がそうと俺の服を引っ張ってくる。
俺は焦って反対側へと服を引っ張る。待て待て、
「どうして女装するのに風呂にはいる必要がある」
「無駄毛を処理するんですよ! もさもさのまま、女の子の服を着たいですかお兄様。まさかそういう性癖の持ち主ですか?」
「ち、違います。でも自分で剃るから……ね?」
「駄目です、私がプロデュースするからには完璧な女装にしますよ。それに男の体なんて見慣れてますから。さあ、大人しく観念してください!」
結局俺はヒメの押しと思いの外強かった力に負け、無駄毛だけでなくあちこちをお手入れされることになってしまったのだった。
ちょっとこの辺は思い出したくないので飛ばさしてください……。
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