幕間 ただの未来の話①

『イチロー の こうどうはんいが ひろがった』


オールディーな人間であれば、たいがいは聞き覚えのあるようなゲーム音とともに、俺の目の前にその言葉がポップアップする。

俺はそれにくすりと笑った後、小さくため息をついた。

全く、こんないたずらをする人は一人しかいない。


「おい、いたずらなんてするんじゃないぞ――」


ぷしゅーっという音とともに卵型のフルダイブ装置から出た俺は、いたずらな君の名前を呼ぼうとする。

しかし、君はどこにもいない。

お勤めの間ずっと近くにいるからねなどと言っていたのに、どこに行ったんだ全く。


「ああ、イチおきたー」


君の代わりに、小さな可愛いらしい男のこがてくてくこちらに歩いてくる。

ああ、来てたのか。

俺の


「アキ。イチじゃなくて、パパって呼んでほしいな」


俺の言葉に、アキはかわいらしく首をかしげる。


「イチはイチだよ。パパってだれ?」


ちゃんと俺はパパであるのに、アキはなかなか俺のことをそうだと認めてくれない。

やれやれ、お前は自分の親にすごく似てる。

君と同じで、いつだって俺を困らせるんだ。

まあ、それも俺の喜びなんだけど。


「あのね、パパってのはイチのことだよー」


「パパはイチのべつのおなまえ? でも、アキ、ほかにパパってよばれてるひと、たくさんしってるよー」


うーん。

現代において、父親・母親について正確に説明するのはなかなか難しいかもしれない。すでに性の境目はなく、どんな遺伝子からでも遺伝情報が2組あれば子供を作り出せる時代。

お腹で育てる人は少数派だし。

あまりに説明が難しすぎて、俺がうーんと頭を抱えていると、アキはてちてちとこちらに寄ってきて、俺をなでなでしてくれる。


「イチ、あたまいたいいたい?」


「ああ、いや、違うんだ、大丈夫だよ?」


心配なのか泣きそうになっているわが子を安心させるべく俺はにっこりと笑う。するとアキはほっとした顔をして、俺にぎゅっと抱きつく。


「イチ、たいへん、たいへんすぎ、だめ。だいじなおしごとって、ひいじいじ、も、ばあばも、ヒメも、マキも、いってたけど。むりはめーなの」


俺の役目は、オールディーから、少しずつ変化して今に至った自分の記録を書き残すこと。そしてその書き残された記憶は過去に送られ、過去と現在をつなぐ架け橋になる。


「大丈夫だよ、ありがとう。さあ、アキ。イチはもうちょっと仕事頑張るから、近くでいい子で遊んでてくれよ?」


今度は俺がアキの頭をなでなでする。


「わかった、アキいい子にしてるー。イチいってらっしゃいー」


手をふるアキに微笑みながら、俺は再び卵型のフルダイブ装置の中に戻る。

さあ、第二章だ。

自分の記憶をたどる旅を、再び始めよう。


第一章 完

第二章へ続く 

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だぶる・ぱんちっ!(#だぶぱんっ) 篠騎シオン @sion

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