第8話 はじめての口づけ

その状況。

王子様に抱き止められたお姫様のような状況に俺の頭はショートする。

ねえ、なんだろうね、うん。


うるうるとした目で俺を見つめていた王子様は、重いだろうにそのまま俺をお姫様だっこで運ぼうとする。

ちょっと待って、俺ダイエットとかしてない……ってそうじゃない!


「お、おろして……」


か細い声しか出ない。

ほんとにこれじゃ、お姫様だ。

俺は小さく咳払いをすると、俺を抱き上げている王子様の顔を窺う。

綺麗な顎のライン、透き通った瞳、小さな唇。端的に言って美少年。

はあ、ほんと王子様だな。


「おろしてくれ」


俺が少し語気を強めて言うと、王子様は微笑んで俺の事をおろしてくれる。

でもそれは王子様にとって、予定通りだったようだ。


「ほら、見てごらん」


王子様の声に俺は正面を向く。

そこには、鏡にうつった女性と先程まで俺を抱き上げていた王子様がいた。

うん、女性。

俺の代わりに彼女がうつっていた。

俺が目を見開くと、鏡の中の女も目を見開いた。


うん、信じたくないがとんでもなく鏡の中の女は美しかった。


「美しいだろう?」


鏡のなかで王子様の顔が女の耳元に近づく。

俺の耳に囁きが届く。

甘い声に脳がとろける。


「僕は……」


そして、俺の手をとる王子様。

先程ヒメにされたのと同じシチュエーション。

その彼の動きに俺はときめく。

どうも俺は今自分の格好に心が引っ張られているのかもしれない。


「君みたいな子に忠誠を誓いたいな」


そして、俺の前にひざまずく彼。

俺の手を自分の顔に近づけ、口づけをした。


俺のなかでなにかが弾けた音がした。


ぱあん!


口づけされた部分から熱が広がり、体を満たしある一点へと、集合する。


そのことに気づいた俺は頭のなかが真っ白になる。


「ご、ごめん!」


俺は彼女の手を振り払い、走る。

トイレを探すんだ、いたいけな少女相手にこんなもの見せるわけにはいかない。

そして、俺はぴっちりなドレス姿。

目立たないはずがないよね!


まずいまずいまずい


「あっ!」


どてんと前向きにつんのめって転ぶ。

足が少し擦りむけた。

でも、俺の下半身はおさまらない。

俺は転んだついでと、自分のはいていたヒールを脱ぎ捨てると、トイレを探してとりあえずぺたぺたと走り出す。


「トイレならそこいって右ですよ、お兄様ー」


どこからかヒメの声が聞こえる。

うん、やっぱり男なんだな。

俺がどういう状況かわかってるらしい。


ごめん。

でもナイスフォロー。


俺は目の前に現れたドアをあけ、中に飛び込む。そこは、少し豪勢なトイレで、腰から上の部分に鏡があった。

俺はそこにうつる自分の姿を見て興奮してしまう。

さらに、血が集まってしまう。


その状況に俺はへなへなと座り込む。

悲しみが体の中へ広がる。

それでもおさまらない下半身を持つ俺が、どうしたのか。

ここでは察してくれと言う他ない。


ごめんな、意外と描写できる場面少ないな……

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