第3話 ヒロインは✖の✖

とりあえずデフォで驚いておいたけど、ほんとどうすっかなこれは。

オールディーなラノベだと、跡取りと結婚するとかってなるんだよなこのパターン。


「でな、君さえよければ跡取りになったほうと結婚してほしいんじゃよ。本当に君さえよければな」


はい、会長さん。

そんなこと言いながら、デバイスで俺の家族への寄付というか補助の額の桁をいじらないでください。

怖いです。

普通に脅しですよね、それ。


「えーっと、あのー」


うん、腹決めちまおう。

最近の感覚じゃ、性別なんてものは結婚にはあまり重要ではなくなっている。

手術次第じゃ、もともと男に生まれた人間でも妊娠できるし、そもそも十分に発達した現代の科学環境では、わざわざお腹に子供を宿す必要もなく、人工子宮で事足りる。

この世界じゃLGBTなんて別にマイノリティでもなんでもありゃしない。

過去の世代だって隠れているだけでそれなりにいただろ? な?

変わってるのがステータスの世の中で、マイノリティは隠れない。

だって、自分の希少さをアピールしたほうが優遇されるから。


うん、だがな。

俺の感覚はいたってオールディー。

そういう環境で育ったという条件以上に、俺の感覚は先祖返りしているらしい。

だから、俺の体は基本的に女にしか反応しない。

そういう事情だから、すまんな。

そういわれれると選択肢は一つなんだ。

そして、今後の憂いを絶つために、腹決めついでに俺は相手も勢いに任せていってしまうことにする。

そうだな、読者のみんなに言うことはたいして内容のない話でごめんよってことだ。

うんうん。これでこのお話は終わるぜ。

さあ、俺、言っちゃおう!


「俺の選ぶのは……すみません。女の子のほうです」



俺はぶっちゃけて言ってしまう。

だって、女の子以外好きになれなそうなんだししょうがないよね? ね?

などと思っていると、目の前の大人二人がにやりと笑う。


「それはどっち?」


目の前でハモる二人。ハーモニー。

って、おいおいちょっと待て。


「女の子と言ったら片方しか……」


俺は、後ろを振り向いて二人をもう一度見比べる。

ん? あ? え? あれ?


少女と少年。

見比べる。

目で見ていても全く何の疑いも持つことなく少年と少女だ。


でも、ちん……ちょっと待って、この言葉は規制かかるか。

俺の下半身のほうの目で見ますとね。

なんというか、ハイ。

俺、少年のほうに反応してるんですよ。

え、マジどうして。

俺の性癖どうした。

オールディーどうしたよ、発動しろ。


困って俺が再び、二人のほうを振り返ると、にやりではなく、二人は今度はにんまり笑っていた。


「まあ、君もわかったじゃろ。どういう状態か。君のそっちのほうは目と違ってよくわかっているようじゃからな」


あごで股間を指さされ、俺は反射的に手で隠す。

怖い、あごからなんか出そう。


「えっと、そのつまり……」


股間を抑えながら俺が確認するようにお伺いを立てると、社長が長い黒髪をふぁさっとなびかせ、妖艶に微笑んだ。


「つまり、あなたに少年に見えているほうが私の娘、少女に見えているほうが私の息子ってことよ」


うん、はい。


はい…




はい……




端的にいって思考停止です。

目で見た情報と体が反応している情報とかみ合ってないんです。

女装とか男装とか、性転換とかいろいろ簡単にそして認められるようになった世の中だけどね。

性転換していない人で、ここまで完璧な男装女装ってないよ。

男装女装? ううん、いや、この少女は、うんそう、男の……娘。

そう、オールディーなラノベで出てきた非現実の存在、男の娘ではないだろうか。

そしてこの少年は……!

うん、ごめん。

男の娘の対義語ってなんていうんだろうね。

ともかく男装女子っていう概念では片づけられない感じの普通に美少年。

で、いつか自分はイケメンになることが決まっているんだよね、と言ったような雰囲気を醸し出している。

のに、俺の下半身、どうしてこっちに反応するの!


ちょっと待って混乱。


もう、ダメ……


俺は先ほどと同じく座席さんに引っ付く。

柔らかい座席さんは俺のことを何も言わず、包み込んでくれた。

ありがとう、俺の味方は君だけだよ。


「ショートしとるな此奴は。面白い奴じゃ」


「そうですね。まあとりあえず、3人の新居に行きましょうか」


後ろで大人たちが話しているのが聞こえる。

おい、勝手に話を進めないでくれ。そう思うが、俺の負荷がかかりすぎた頭は体に指令を送ることが出来ない。

ぶるんとエンジンがかかり、オールディーなりむじんは出発した。

俺は新居なる場所に連れ去られることとなってしまったのだった。


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