第11話 つまり攻略方法は?

「ヒメ、どうしちゃったんだろうな」


残ったマキに問うと、彼は悲しそうに笑う。


「俺がちょっと調子に乗りすぎちゃったのかも」


そう言って窓の外を見つめる彼の表情に、俺の心は締め付けられる。

うん、シリアスなとこごめん、ふと気づいたんだけど。


「マキってさ、一人称実は”俺”なわけ?」


「っ!」


俺の指摘に顔を赤らめるマキ。

ふむ、なんていうかこれは、結構来るな。かわいい表情だ。

マキは警戒してたり、かっこつけたいときは”僕”を使い、素の時は”俺”を使うらしい。なんていうかその感じが非常に男の子で俺はちょっと感心する。


「イチ兄はなんでそんな恥ずかしいことに気付くわけ! まるで僕がイチ兄に気を許したみたいなそんな!」


ぬおお! 僕に戻ったぞ。

なんだツンデレするのか?

いいぞ受けて立つぞ、わっしょいわっしょい!


と脳内で、一人お祭りをはじめた俺だったが、ヒメのことを思い出し、脳内でお祭りをしているやつらに水をぶっかけてやめさせる。

かわいいかわいい男の娘があんなに悲しそうな顔をしていたのだ。

同居人として、放っておくわけにいかない。

俺の下半身が許しても俺の脳みそが許さない!


「調子に乗りすぎたってどういうこと?」


俺が問うと、マキは静かに目を伏せ、自分の席に戻る。

そして椅子に座ると静かに、語り始めた。


「ヒメはね、僕がヒメ以外に興味を持つのがとてもいやみたいなんだ」


「へ?」


俺は予想の斜め上を行くマキの回答に目を見開く。

なんだって? ブラコンか? いや、シスコンか?


「僕は昔からなんていうかな。女装をした男の人しか好きになれない性癖で。それはヒメが女装をしだす前からだった。物心ついてから、ヒメはその振る舞い、美少年さに周りの人すべてにちやほやされた。直接の親以外のすべての人に性的な目で見られたりもした。ヒメにとってそれは心地いいことだったみたい。だけど、一緒に生まれ、生活してきた僕だけがヒメを特別扱いしなかった」



ほう。



「だから、ヒメは自分にとって完璧な環境を作るために女装を始めた。そう、僕を自分の手中に収めるためにね。実際、僕は女装したヒメから目が離せなくなった。ヒメは世界で、自分が最も優遇されていないと許せないんだ。だから、僕が今回イチ兄に興味を持ってるから怒ってるんだよ」



ふむ。



「あとはそうだなぁ。イチ兄が僕ばっかりに反応してるのも若干怒ってるみたい。だって、自分に反応しない人間、この世から撲滅するっていつも言ってるから」



うーん。

うん、今まで聞いてみて感じだけど、

ヒメって割とお姫様気質!?

うん、ちょっと待って、トラウマとかいろいろあるのかなと思ったら完全自己中心的な内容だったので、戸惑う俺。


「えっと、それって、ヒメは自分が最優先されてなかったから怒ってるってこと?」


「うん、そういうことかな」


えー。

なんたるわがまま姫、もといヒメ。

んーでも、あの見た目なら並み居る男たちが、そして女たちもほっとかないのはわかるな。女にしか反応しない(下半身がね)俺だから、まあ平常心でいられるが、普通一緒に暮らしてたら間違いも起きそうだ。

で、そんなこと起こった日にゃ、その日からヒメの奴隷になる、そういうことらしい。普通、身も心も捧げちゃうよなぁ、あの可愛さだもんなぁ。


「えーと、いかがしようか」


予想とは違ったヒメの不機嫌の原因に、頭を悩ませる俺。


「ヒメは、俺とマキに優遇されたい。じゃないと、俺たちは撲滅される?」


「うん、ヒメの嫉妬すごいから。僕が前に、他の女装した子に目移りした時なんか、その子を落としてメロメロにして自分の眷属みたいにして、女装もやめさせて今もずっと自分のアレとして飼ってるみたい」


アレ。


うん、俺の結婚相手の候補のお一人はなかなか怖い性格の持ち主のようだ。

そして、そんな男のソイツには俺は反応しない。

ということは、もう選ぶ相手一人しかいないんじゃないか!


「マキ……俺」


言いかけて先ほどの自分の発言を思い出す。

待てよ。

俺がマキを選んだら、ヒメは優遇されていないことに気付く。

そしたら、俺はとマキは撲滅されてしまうんじゃなかろうか!!


では、もうあれしかないのでは……。


「ヒメを最優先する演技をする?」


「ああ。演技はダメ。ヒメのやつすぐ気付くから」


んんん、じゃあもうどうしろっていうんだよ!

俺は頭をかきむしる。

詰んでんじゃん、もう残された道は一つしかないじゃん。

俺は本心からヒメに惚れないと生き残れないらしい。


「イチ兄に残された道は一つだよ」


ああ、まってくれマキ。

人の口から聞きたくない。

聞いたらそれが確定してしまいそうで怖いんだ。


だから黙ってくれ。

お願いだから。

俺はそうマキへと告げたいが、なぜだか声が出ない。

ああ、もうほんとに。

もっと日本茶飲んどけばよかった。


そして俺の耳に、絶望的なその言葉が届く。













「イチ兄、女装しよっ?」










へ?


ん?



なんでだよっ!?

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