第14話 なるほど、そういうことね
「イチ兄、なにしてんの……」
キッチンへ向かった俺を追いかけてきたマキが、料理用ロボットがぐったりしているのを見て、口を覆う。
まるで、殺人事件でも目にしたかのような表情だな。
俺は、殺してないぞ。
「料理用ロボットをだまらせただけだ。壊してないし、殺してないぞ?」
「いや、まあそれはわかるんだけど……。ていうか、イチ兄が住むんだから一般家庭の料理用ロボットと違ってキッチンに入っても怒らない設定になってるよ?」
「へ?」
あ、うん、ごめん。
そっちのなにしてんの、なのね。
「それより僕は、イチ兄があのたくさんあるコードから停止コードをこの短時間で当てたことに驚きだよ。なに、イチ兄犯罪者?」
「いやいや、違う違う! 海外で留学生活してた時に料理用ロボが自炊させてくんないから覚えた技なんだ!」
「料理用ロボットの強制停止自体が法律的にグレーゾーンだよ。やる人いないから問題になってないだけで」
「うぐ」
痛いところをつかれる。
いやいや、というかそんなことはいいんだ。
それよりパーティーのためのクッキングだ。
俺はキッチンの中を物色する。
ふと、ヒメは追いかけてきていないことに気付いてマキに問う。
「ヒメは?」
「一応、来るとはぼそっと言ってたけど、その前にトイレだって」
なるほど、トイレか。
男のトイレはそんなに長くないから、すぐに来るだろう。
俺はそう思って再び食材の吟味にかかる。
うーん、どうにも食材が少ないな。
粉と果物くらいしかない。
「俺が来ることを想定してた割には、食材は少ないのな」
ぽろっと出てしまった俺の言葉に少しムッとするマキ。
なんだ、悪いこと言ったか?
「食材はね、必要な分だけ頼むシステム! 貴重な生の食べ物を無駄に腐らせるなんてさすがにうちの会社の財力があってもしない。というか人間倫理的にそれはNG」
この時代では、昔のような原料そのままの食材を生という。今の時代、一般的に食材と呼ばれるのは、どろどろの状態の液体のようなパック詰めされたもの。これを料理用ロボットが非常においしそうな食事に変えてくれる。肉の味のものも、野菜の味のものも、人間の健康にちょうどいいように調整された化学合成品だ。それが現代の食事。
というか、普通に諭されてしまった。ごめんなさい。
うちの実家にはいつも何かしら自給自足で得た食材があったもんだからつい……。
俺は改めて食材を見る。
ふむ、日持ちのするものはそれなりに用意してあるのね。粉ものと果物の缶詰と、あとは調味料か。足りないものはしょうがないから、料理用ロボットの使う生じゃない素材を活用して……。
俺が頭の中で料理の工程をいろいろ考えていると、なにやら目の前にいるマキがごそごそと体の後ろで不審な動きをしていた。
「マキ?」
「は、はいっ」
マキは名前を呼ばれると、明らかに後ろの手を中心に据えて持っているものを見せないようにした。
ほお、これはなにか隠してるな?
「なに、隠してんの?」
「こ、これは!」
俺は、隠そうとするマキの手を容赦なくつかんで前に出させる。
これは!
これは……。
ごめん、マキ。
君の性癖ちょっと引くよ、やっぱり。
マキの手には、フリフリのエプロン。
「これ、俺に着てほしいわけ?」
あきれ顔で尋ねる俺に、マキはきらきらとした目で尋ねてくる。
「着てくれるの! 裸で?」
「うん、裸までは予想してなかったよ……」
若干引き気味の俺が、もう一度エプロンをまじまじと見ていると、急に目の前のマキが、俺を押し倒すように倒れこんできた。
え、なに、大丈夫、熱中症!?
と思いながら、支えていると、具合は悪そうではなく、顔が、どんどん俺へと近づいてくる。
後ろには下がれない。
後方は壁だ。
急展開、かべどん?
これは、オールディーな少女向け漫画雑誌で見たかべどんなのか!
俺が別の意味で興奮していると、近づくマキの後方で、目を見開くヒメがいた。
あ、うん。
そういうことか。
マキ、これが君の作戦なのね。
納得した俺は、体の力を抜く。
すると——
俺の唇に柔らかい感触が、触れた。
えっ?
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