#6 ルナ救出作戦 <Ⅰ+期→Ⅱ期 潜伏期>
ルナ消息不明の情報が指導担当の教官からクラス全員に伝えられたのは討伐任務から帰還した直後。ちょうどルナが吸血姫の一次覚醒をするかどうかのタイミングだった。
その情報によってクラスに激震が走る。
何せクラスの一員がいなくなった。ましてやほぼ安全な任務でそういうことになった。ルナが経験のない魔法少女であったことを差し引いても驚かないほうがおかしいだろう。
「ルナは大丈夫なんですか?」
「捜索などはしていないんですか?」
「いつ捜索作戦をするんですか?」とクラスの生徒が一斉に質問をぶつける。
「教官!今すぐ救出に行かせてください!」
そう言ったのは『ソフィー=クラティス』。
ソフィーはルナの幼馴染で親友。魔法少女としてはルナより3ヶ月ほど先に見習いから昇格した。見習いのころから魔力が開花し、現在はクラスのエース的な存在である。
面倒見がいい所があり、特にルナに対しては人一倍気にかけていて魔力が開花するように毎回特訓に付き合っている。ルナが見習いから昇格する際にチームに加入させた経緯もある。
「お願いです!ボクたちの大切なチームメイトなんです!」
そう言ったのは『ステラ=トゥインクル』。
ルナが見習い時代にできた親友で、魔法少女としてはソフィーと同じ時期に昇格した。もともとはソフィーと2人でチームを組んでいたがルナが昇格して二つ返事でチームに加入させた。寮では同じ部屋に住んでいる。
二人はルナを助けるためにお願いをするが、
「ダメよ。許可できない。」と教官は首を横に振った。
「「どうしてですか!?」」と二人は声を合わせて理由を聞いた。
「あなたたち今任務から帰ってきたばっかりでしょ?休息が必要だわ。それに今日は満月。いくらあの森が危険じゃないって言っても大丈夫とは限らないわ。」
「それならいっそう早くいかないと!ルナが危険にさらされているかもしれません!」とソフィー。
「一刻を争うんです!お願いします!ボクたちを出撃させてください!」とステラ。
「はぁ…。仕方ないわね…。いいわ。許可してあげる。」と教官は二人の熱意によって折れた。
「「ありがとうございます!」」
「でも、一時間はこっちの準備も必要だからその間にできるかぎり休息をとること。それから出撃前に私の前に顔を出すこと。できたらでいいけど誰かの協力を仰ぐこと。それと必ず団体行動をとること。いいわね?」
「「はい!」」
「じゃあ一時間後に準備できたら来なさい。」
「よかった…。許可が下りた…。」と安堵するステラ。
「まだまだ安心しちゃだめよ。安心するのはルナを無事に見つけて帰ってきてからよ。」と気を引き締めさせるソフィー。
一先ず二人ははやる気持ちを抑えて休息することにした。どのみち一時間は救出に向かうことができない。救出に協力してくれる人を探してもいいが自分以外のクラスの状況がわからないのと、満月であることにより望み薄。自分たちのクラスで探そうにも全員が討伐任務から帰ってきたばかりで疲弊している。
まずは休息を取ってそのあとで余裕のありそうな人に声をかけるといった方法しかないだろうと二人は考えていた。もちろん見つかれば御の字である。
二人は40分ほど仮眠をとり、一緒に行ってくれる人を探すために教室へ向かった。
教室には遅い時間のため寝るために一部は寮にもどったものの、討伐の後の反省会や分析、手当てなどでまだ多くの生徒が残っていた。
「ねえ!みんなにお願いがあるんだけど一緒にルナを助けに行ってくれる人いない?」
「ボクたちの大切な仲間でしょ?できたら参加してほしいな!」と二人は呼びかけるも
「今はちょっと私たちも結構つらいから明日以降なら…。」という予想通りの返答だった。
そんな中「わたしはぁ~協力するよぉ~。」とふわふわした声がした。
その声の正体は『ネル=スリーピィ』だった。
ネルはルナ、ステラ、ソフィーの友達でクラスメイト。クラスの中では最年少でみんなの妹的な存在。魔力が非常に高く学年でもトップクラスの持ち主。そのため特別待遇(飛び級のようなもの)で学園に入学した。
高い魔力を持っているがよく寝落ちしてしまうことがたまにキズで、一度眠るとめったなことがない限り起きない。そのため友達といわれる存在は意外と少ない。れっきとしたお姫様であるためクラスメイトからは眠り姫と呼ばれている。ちなみにネルはどこででも寝てしまうのだが時には立ったまま、歩きながら眠ることもある。
「でも眠くない?大丈夫?」とステラが聞くと
「眠いけどぉ~頑張るよぉ~。」
何ともふわふわしているが参加してくれるらしい。
「お嬢様が行くなら私もお供します。」
そう言ったのは『ヴァイス=シュヴァリィ』である。
ヴァイスは魔法少女学園の生徒ではなく姫騎士である。小さいころからネルと共に生活をしていて姉のような存在と自負している。魔力がほとんどないため騎士学園に入学し、一人前になってすぐに学園を出てネルの守護および面倒を見ている。ちなみにネルが友達が少ないのは半分ヴァイスの影響である。というのもネルに話しかけようとするとヴァイスが警戒し、それが圧力となってそれ以上の関係にならない。ルナたち三人についてはネルが一瞬で心を開いたためヴァイスもネルには逆らわず警戒を解いている。
「ヴァイスさんがいるなら姫も大丈夫そうね。」ソフィーはそう言ってほかにも協力してくれる人がいないかと教室を見渡すがそれ以上の協力してくれる人は見込めなかった。
時間になり教官のもとに4人が集まる。
「教官。このメンバーで行くことになりました。」とソフィーが報告した。
教官は確認をとる。
「ほんとに大丈夫ね?」
「はい!」とソフィー。
「もちろんです!」とステラ。
「ええ。」とヴァイス。
「すぴー…。」といつの間にかネルは寝てしまっていた。
「えっ!?さっきまで起きてたのに…。」とステラはずっこけ、ソフィーはやれやれといった様子で首を振った。
「お嬢様が寝てしまった以上私も行くことはできませんね…。申し訳ないけど…。」
そう言ってヴァイスはネルを抱えて部屋へ行ってしまった。
結局ソフィーとステラの二人で行くことになった。
「二人になってしまったのは仕方ないわね…。」ソフィーは少し落胆した様子で言った。
「とりあえずこれを。」
そう教官に言われて渡されたのは小型の通信機だった。
「森は比較的安全だけど満月だし、ルナがいなくなったこともあるから何があるかわからない。ルナが無事なことに越したことはないけど、まずは自分の身の安全を第一に行動して。単独行動は厳禁よ。もし何かあったり危険を感じたら躊躇しないで連絡して。それからルナを発見した場合も連絡しなさい。」
「「はい!」」
「とにかく無事に帰ってくるのよ。気を付けて…。」
そして二人は森へと向かった。
森に到着した二人。
「この森にルナはいるんだよね…。」
「ええ…。そのはずよ…。」
二人はそう短く言葉を交わして森の中に入っていく。しかし、その日の森の様子は異様だった。
「なんか静かすぎない?」その違和感にステラが気づく。
「そうね…。前に来た時より様子がおかしい気がする…。」ソフィーもその不気味さに気付いていた。
捜索から15分後・・・
ルナはいまだ見つからない。それどころかもっとおかしいことが起きていた。
「おかしい…。絶対おかしいよ!魔物が何匹かいて、襲い掛かってきてもいいはずなのに一匹たりとも見当たらないなんて!」
何度も言うがこの日は満月。魔物たちの活動が活発になり、凶暴さも増すはずなのだがソフィーたちは魔物に全く遭遇していないのだ。
「それどころかネズミとかリスとかがこの森にいたはずなのにそれすら見当たらないなんて…。何か森に異変が起きてるとした思えないわ。」
まるで生き物が消えてしまったような状況にソフィーたちの不安が募る。
「とにかく落ち着こう…。ルナを早く見つけてあげないと…。」
目的はルナの救出。ルナを見つけなければ話にならない。森の異変も気になるが目的を忘れてはいけない。目的を再度確認して静かすぎる森の中を進んでいく。
さらに15分・・・
二人は森の中心部に到達した…のだが。
「ここまで来て手がかりなしか…。」ステラは落ち込む。
「森は広いからそう簡単にはいかないとは思ってたけどこんなの初めてよ…。」ソフィーも不安な様子を隠しきれない。
二人はさらに奥に進む。すると急に開けたところに出た。
その一帯だけまるで誰かが意図的に作ったかのような広場があった。周りは多くの木が生えているにも関わらずその広場のような場所には一本も木が生えていなかった。
何にも遮られていない月明かりがそこに降り注ぎまるでスポットライトのようである。
その中心にルナが横たわっていた。
「ルナ!」二人は急いで駆け寄る。
ソフィーはルナを抱きかかえる。
「ルナ!ルナ!しっかりして!」ソフィーは必死でルナを揺らして呼びかけるが意識がなく反応もない。
「お願いルナ!目を開けて!」ステラも必死で呼びかけるも反応がない。
「ルナ…。お願い起きて!ルナーッ!」ソフィーがそう叫び、涙を流す。
その涙のしずくがソフィーの頬を伝ってルナの頬にぽたりと落ちた。その時だった。
「ぅう…ん?」ルナがうめき声をあげて、ゆっくりと目を開けた。
「「ルナ!」」それに気づいたソフィーたちは安堵の表情を浮かべながらルナに呼びかけた。
「ルナ…。無事でよかった…。」「ルナ…。大丈夫…?」
ルナは親友二人の顔を認識した途端に涙を流し
「ソフィーちゃん…。ステラちゃん…。ごめんなさい…。私、もう――」
そこまで言ってルナは再び意識を喪失する。
「「ルナ!」」二人の安堵した顔が一瞬で曇る。
「早く学園に運ぶわよ!」ソフィーはそう言ってルナをお姫様抱っこをして森の出口へ向かう。
ステラはそれを追走しながら通信機で学園に連絡をした。
「こちらステラ。ルナを発見しました。一度意識を回復したものの、現在は意識がありません。今から学園に帰投します!」
通信機からは「了解。受け入れ態勢を取っておくわ。帰ってくるまで気を抜かないように。」と返ってきた。
二人は来た道を走って急いで戻る。ソフィーは時折ルナの様子を観察するが、かろうじて呼吸はしているものの浅めの呼吸をしている様子を確認してさらに加速する。
ほどなくして学園に到着し、「ルナをお願いします!」ソフィーはそう言って受け入れ態勢をとっていた教官たちが引き継いだ。
「ルナに何事もなければいいんだけど…。」ステラがそういうとソフィーも静かにうなずく。
しかし、本当に運び込むべきだったのは学園ではなく教会だったことに気付くものはこの時点では誰もいなかった。
「私、もう――」ルナが最後まで言えなかったがこれが最初で最後のヒントだった。
「(私、もう人間じゃなくなっちゃった)」
ルナはこう言いたかったのだが言えなかった。
ソフィーとステラがもしこの小さなヒントを拾うことができたならこの事件はここで終わっていただろう。
だが、現実はあらゆる
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