#16 暗い晴天 <Ⅲ期 変異期>

 ピピピ…。今日も目覚まし時計の音に起こされるルナ。ルナは目覚まし時計を止める。

 しかし、寝ぼけていたのかカーテンを開けてしまう。

「きゃあっ!!」

 朝日をもろに浴びたルナは短く悲鳴を上げて即座にカーテンを閉めた。

 ルナは感じたことのない感覚だった。

 以前までは不快感だった日光の感覚。今回はそれを超えた感覚、つまりだった。昨日までは多少浴びてもこんな感じではなかったはずなのに…。

 ルナは気になりながらも洗面所へ向かって自分の姿を確認する。今日は変化がないのかと思ったルナだが微妙な違和感があった。

 じっくり見てようやく些細な変化に気が付いた。わずかではあるがもともと白かった肌が一層白くなっていた。

「最近日光を浴びてないから白くなった…?」

 ルナはそう結論付けて朝の支度に取り掛かっていく。

 そこへソフィーが部屋へ訪問してきた。

「あ、おはよう。ソフィーちゃん。ステラはまだ寝てるよ。」

「ええ。そうでしょうね。でも今日はいいのよ。」

「え?どうして?」

「だって今日は珍しく午前の授業がないからね。」

 ルナはそれを聞いて凹んでしまった。朝に弱くなってからもしっかりと早起きをしているルナ。できることなら一秒でも長く寝ておきたい。今日はそのチャンスだったのにそれを逃してしまった。

「…それで、何の用…?」ルナは涙目になりつつソフィーが部屋に来た要件を聞くことにした。

「ああ、そうだったわね。今日の午後からの演習なんだけど、ルナも復帰することになってるからそれを伝えに来たの。」

 長らく実戦から離れているルナ。一人での練習は少しばかりしているものの、多人数になると動きが変わってくる。体調が戻ってきたことも考慮して復帰が決まったのである。

「そっか…。うん、わかった。」ルナは了解して途中だった朝の支度を再開するとソフィーも一緒に手伝ってくれた。

「ルナ。これ終わったら二人でクレープ食べに行きましょうよ。今日はクレープ屋さんが来てるらしいの。ステラはまだ寝てるでしょうし、どう?」

「へぇ~。気になるし一緒にいk…。」

「クレープ?ボクもいく!」

 先ほどまで起きる気配のなかったステラがベッドから飛び出してきて話に割って入ってきた。

「ひゃあ!ステラ寝てたんじゃなかったの?」

「なんだかクレープを二人が抜け駆けして食べに行く夢を見ちゃって起きてみたらほんとにそうなってたからあわてて飛び出したんだよー。」

「相変わらずの食い意地よね…。起きてしまったものは仕方ないし三人で食べに行きましょう。」ソフィーは呆れつつ、発言を訂正した。


 そうして三人は制服に着替え、ルナは日傘を装備して移動販売で来ていたクレープ屋へ行き、クレープのメニューを見る。

「いっぱいあって悩んじゃうね…。」

「そうね…。どれにしようかしら…。」

 と考えるルナとソフィーの傍らで一言も発せず真剣に悩んでいる様子のステラ。

「じゃあこれとこれお願いします。」

 ステラはまだまだ決定に時間がかかりそうなので先に決まったルナとソフィーは先に注文をして、クレープの焼き上がりを待つことにした。店員さんは手際よく注文に合わせてクレープを作っていく。一方のステラは

「ボクはどうしようかな…。これいいなぁ~。でもこれもおいしそうだなぁ~。」と少々大き目な独り言を発しながら悩んでいた。

 ほどなくして二人のクレープが出来上がりソフィーが受け取ると少し離れた木陰のベンチに腰を下ろして苦悩する様子のステラを遠巻きに見ながらクレープを食べる。

「ステラが決める前に早く食べよ?でないとまたあんなことになるよ。」

 ソフィーがそう言って食べるように促してきた。

 というのも、ずいぶん前の話なのだが同じように三人でクレープを食べに行ったことがあり、その時は三人で食べあいっこをすることになっていたんだがステラの食い意地が凄まじかった。

 その時はまず一口ずつステラが食べることになったのだがその一口がかなり大きくて三枚のクレープそれぞれを一口で三分の二食べてしまい、さらに中の具をすべて全部持って行ってしまうという非常識極まりないことをしでかしていた。

 このとき、ソフィーとルナは二度とステラと一緒に食べ物はシェアしないと心に決めていたのだが今回はシェアしようと絶対に言ってきて、またあの悲劇を繰り返す可能性があるため少し速めのペースで二人仲良くクレープを食べあいながらステラのせいで長くなっていく行列の行方を観察していた。


 二人がクレープを食べ終わって10分後、さすがに考えすぎて怒られたステラは少ししゅんとした様子でクレープを買ってきた。

「あー!二人ともクレープ食べ終わってる!二人のも味見したかったのにー!」

「いやいやいや、ステラ待ってたら今頃、中にあったアイスが完全に溶けてるわよ…。それに前にあんなことしておいて味見させると思うかしら?」

「へ?何のこと?」

 ステラは二人が自分を待たずにクレープを食べ終えていることに抗議の声を上げるが、ソフィーは正論で返し以前のことも理由の一つだと言うも、そのことに関してはステラは全く覚えていなかった。ステラ、恐るべし。

 ちなみにステラはクレープを2分かからず完食。相変わらず早い。


 そんな感じで午前中を過ごした三人は午後に行われる演習のため、移動を始めた。

 この日はルナも参加するため久々に更衣室で演習用の服装に着替える。

「(さすがに日傘はダメだよね…。)」ルナは更衣室に日傘を置いて演習場に出る。

 この日は快晴。容赦なく日光が演習場に降り注ぎ、その場にいる人間もその光を浴びることになる。そう、吸血鬼へと変化しつつあるルナにも。

「…っ!」

 ルナは日光を浴びてひどい嫌悪感におそわれ、さらに若干体がだるく気分が優れない感覚がある。しかし、これ以上演習を休むわけにもいかないため我慢して出席するしかなかった。

 そんな状態で演習が始まる。

 とは言ってもこの日のルナのポジションは後方から前線のサポート。比較的安全なところから遠距離魔法で攻撃したり防御魔法や補助魔法を扱う。

 しかし、ルナは調子が出ない。いつもよりも魔法の威力や効果が心なしか低い。

 その理由だがルナははっきりとわかっていた。

「(やっぱり日光にあたると弱くなるんだ…。)」

 吸血鬼は日光に弱い。ルナも吸血鬼化の途中とはいえ半吸血鬼状態。影響は避けられないのだ。

 もっとも、ルナは吸血姫になっている途中のためこれでも影響は少ない。通常の吸血鬼化であれは今頃は体が灼けるような痛みや苦しみを感じるのだが、さすが吸血姫というべきか日光に対する耐性が非常に高いためこの程度で済んでいる。


 休憩の時間になるとルナは木陰へと向かって休む。ソフィーたちもやってきた。

「ねぇ、ルナ。今日なんだか魔法の調子悪いよ?」

「うーん。久しぶりの演習だから力加減が難しくて…。」

「ルナ。あなた少し顔色悪い気がするんだけど大丈夫なの?」

「うん。平気。ちょっと疲れちゃっただけだと思う。」

 やはり常にそばにいる二人はルナの異変に気が付いたようだが、ルナはごまかしながらなんとか話をしのいでいく。


 少しの休憩の後、演習が再開される。ポジションの変更はないが時間が経つにつれて前線の戦闘は激しさを増し、それに比例して大技を使うことも多くなっていく。

 ルナもそれに合わせてギアを上げていくのだが、日光の影響で調子が上がらずギアもなかなかあがらない。それに戦術を変えて後衛を崩しにかかる生徒もいて、その相手をするのも精いっぱいだった。相手も怪我をさせようとは思っていないのでかく乱だったりが主で攻撃は控えめではあるのだがルナにとっては厳しい戦いであった。

 それでも何とかこの日の演習をこなし乗り切った。


「お疲れ様。ルナ。」

 ソフィーがスポーツドリンクを渡してねぎらいの言葉をかけてきた。

「うん。ありがと。」ルナは渡されたスポーツドリンクを飲む。奇跡的に色が赤みがかっていたため問題なく飲むことができた。

「久々だったけど、演習どうだった?」

「うん。なんとなく実戦のことを思い出せたけど、なかなかうまくいかなかったよ。やっぱりブランクもあったりして、うまく調子も出なかったしね。」

 更衣室でそんな話をしながら制服へと着替える。

 ルナはふと体のだるさがなくなっていることに気付く。

「(あ…。やっぱり吸血鬼化の影響があったんだ…。)」

 ルナは改めて日光の影響を再認識することになった。


 三人は更衣室の外で合流して今日の演習を振り返りながら寮へと戻っていく。今日は全員反省点があったらしく、部屋で反省会が行われることになったが、

「おなかへったー!」

 ステラのこの一言により、一先ず夕食をとってからという話になった。

 ただ、今日は朝に本当は作る必要のなかった朝食があったのでそれをアレンジして夕食にした。

 食べ終わると反省会が始まった。三人思い思いの反省点や意見があったようでなかなか白熱し気付いた時には消灯の時間が迫っていた。

「ふぅ…。続きはまた明日にしましょう。今日はもう帰らないと。じゃあまた明日。」

 そういってソフィーは自分の部屋へと帰っていった。

「ステラ。先にシャワー浴びておいで。私はここ片づけるから。」

「あ。うん。じゃあ頼んだよー。」そう言ってステラはお風呂へ向かった。

 ステラがお風呂に入ったのを確認してルナは片づけに取りかかりながら、暗い表情をしていた。

「(まだ5日目のはずなのにもうこんな症状が出るなんて…。)」

 ルナは吸血鬼化のことで頭がいっぱいだった。

 ノートの内容を思い出しながら今後のことを考える。しかし、どうにもならない。

 答えは使えない手段しかない。ならばいっそ受け入れるのか。そんなことまで考え始めるルナ。すると、

「ルナー?どうしたの?」

「うっひゃあ!」

 ステラがルナの顔を覗き込んでいた。

「あ、いや。その…考え事をしちゃっててさ…。あはは…。」

「もー。ルナはたまに考えすぎちゃうから…。もうちょっとシンプルに考えることも必要じゃない?それじゃおやすみー。」

 そういってステラはベッドへダイブしていった。

「(そんなシンプルな問題じゃないんだよね…。)」

 ルナの不安は募るばかりであった。

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