#27 新しい授業と…<Ⅳ期>

翌朝、ルナが目を覚ますとステラが自分に抱きついているのに気が付いた。

ルナはため息を吐きながらステラを引っぺがすとあることに気が付く。

「あれ?なんだか体が軽い…?」

昨日の疲労が嘘のように消えていた。それは体力回復ドリンクの効果なのか、それとも吸血鬼の能力の一つなのかはわからないが体が軽いことに越したことはない。

ただ一つ、ステラのべったり具合が不安なところで人前でもあんな感じだとおかしいと思われるに違いないし、もし二人のときに遠くから見られていたらとなるとそれなりに面倒そうだ。

さすがに吸血鬼関連のことにはならないはずだが、小さなほころびが大きなキズになりかねない。

特にまだ序盤…というかまだ準備段階なのだからなおさら気を付けていきたい。序盤のキズほど大きく広がるというのはよく言われている。


まぁ、それはさておいて。いつものように朝食を作ることにした。

考えたいことは山積みではあるがなるべく日常通りの生活を続ける必要がある。

ステラを起こすことも考えたが、普段から寝坊しがちのステラを起こしてもあまり利点がない。

勿論、抱きついたりしてこないように調整しておきたいという気持ちもあったが。


朝食を作り終えると、ソフィーがやってきた。

「おはよう。ルナ。ステラの様子はどう?」

「おはよう。ステラは昨日私が寝る前に目を覚ましたよ。でも、またすぐ寝ちゃってぐっすり。」

「ほんとよく寝るわね…。ネルさんみたい…。」

「そうだね。でも、ネルちゃんと違って立ったまま寝たりはしないけどね…。」

ステラのことを気にかけつつ他愛のない話をしながら朝食の準備をする。

「さて、ステラを起こしましょうか。」

そして、昨日は失敗したステラを起こすほぼ毎朝の恒例行事へ移る、はずだったのだが…。

「むにゃ…。おはよー。」と先にステラが起きてきた。

「「…。」」二人は驚いた様子でその光景を見た。

すると「ソフィー!」とステラがソフィーへ飛びついた。

「えっ!?わぁっ!」ソフィーは反応しきれず、抱きつかれて床へ倒れこむ。

ルナは何だかデジャヴを感じつつも、内心ほっとしていた。

この様子なら行動は問題なさそう…かどうかは若干怪しい気もしなくはないが、ソフィーにも同じ行動をしたということはステラなりに何かしら理由があるということなのだろう。

無論、朝食後ステラはソフィーにちょっとしたお仕置きをされたわけだが、それについては割愛することとしよう。


そんなことがありながら、支度を終えて、教室へ向かう。

お仕置きのせいかステラのテンションが少々下がっている。

その表情を見てルナの悪戯心が顔を出した。

「そう言えば、今日から新しい授業だったねー。」とニヤニヤしながら言うと、

「えっ…!?聞いてないよ!」と絶望したかのような表情で落ち込むステラ。

勿論、ほとんど寝ていたステラに対しては言ってもいない。というか、言うタイミングがなかった。とはいえ直前に言われてもどうしようもない。

ステラのテンションはさらに低くなった。


教室につくと、いつもよりざわざわと騒がしかった。

言わずもがなだが、今日から新しい授業が始まるということで不安に思っている生徒も多いようだ。そんな様子を見てステラもカタカタとなんだか小刻みに震えている。

そこまでおびえることではないはずなのだが…。

とりあえず日陰の席に座り少々の予習をしておくことにした。

ほどなくして先生がやってきて授業が始まる。

当然、初めての内容なのでルナは真面目に授業を聞きつつノートをとる。

考えたいこともいろいろあったがさすがにそんな余裕はなかった。

先生の話の切れ目にふと目線を移すと、何だかやる気がなさそうだったり飽きたかのような顔をした生徒があちこちにいる。

後でソフィーに聞いた話だが、遠征組はこの授業を先行して行っていたらしく、復習のような感じとのことでどうやらルナ待ちだったらしい。

でも、顔色があまりよろしくない人が数人いた。おそらくその時の記憶がほとんど消滅しているのだろう。


そんなこともあったが授業については特に特筆することもなく終えて、昼食の時間になる。

ステラの表情はなんというか…やつれているように見えるが気のせいだろうか。

とはいえ、常日頃からしっかり学習などしておけばこうはならないだろうから自業自得ではある。

ただ、そんな状態でもステラの食欲は変わらないようで、大量のご飯を口いっぱいにほおばっていた。


午後の授業も新しくなっていた。

まずは全員が魔法少女に変身する…といっても着替えるだけのような気がするが、それはそれとして、学園内にあるいくつかある森の内の一か所へ移動した。

授業の内容は的あてだった。

典型的な赤と白の的や、白黒の的。それから魔物を模した看板のような的が配置されていて、それにダメージを与えるというシンプルなものだった。

勿論、魔法少女の看板があったり一般人や動物などのダミーの的もあったりして仲間などを間違えて攻撃しないように敵を倒すという一歩進んだ実践的な演習である。

今日からはしばらくこういう演習をするらしい。

個人戦、チーム戦、チーム内対戦などバリエーションもあり、チーム外の人ともたまに組んだりすることで別チームであってもそれなりな連携が取れるようになるという利点もあるらしい。

ただ、後でわかったことだが難点もある。

ひとつは、あまり多くの生徒を一度に行かせることができないことだ。

慣れてこれば人数を増やせるのだが、慣れないうちは誤って攻撃してしまったりして危険なので人数を少な目にするらしい。

それと、待ち時間が長いこと。

一度に多くの生徒を入れられないということは、必然的に待つ必要が出てくる。

しかも、ざっくりと時間のみを決める時や、的のノルマを達成するまでなど、それぞれそこそこ時間がかかるので順番が後でも先でも待ち時間ができてしまう。

勿論、うまく時間を使えばよいのだが屋根はあるものの、場所は屋外。

となると中々やることも限られるためうまく使える生徒は少ない。


さまざまな説明を受けて、ルナは周りの反応を見てみると少しざわついている。

どうやらみんなにとっても、初めてやる演習らしい。

早速演習が始まる。

今日は感覚を掴むためなので10分ほどで帰ってくるようにとのことだった。

それを聞いてから最初の数人が森へ入っていった。

待機所でみんなは耳を澄ませてどうにか中の様子を窺うことはできないかと静かにしていたが全くと言っていいほど何も聞こえないらしく、徐々に雑談が増えてくる。

ルナは一応、かすかに聞こえていたのだが、様子というほどではなかったのと意味がなさそうなので途中であきらめた。


10分後、最初に入った生徒たちが出てきて次の生徒が入っていくと、みんなが一斉に演習の内容や感想を聞くために集まる。

色々質問責めにあっていたが、すべてを総合すると一回目だからまだよくわからないけど、あまり心配するようなことはないとのことだった。

しかし、いろんな条件が付け加えられたりすると、厄介なことになるかもしれないとも言っていた。


さらにしばらくたって、ルナの順番が回ってきた。

ルナは「ふーっ。」と少し息を吐いてから森の中へ入っていった。

森の中は鬱蒼としている…というには程遠いが、管理が行き届いているようにも見えない。でも、ある程度しっかりした道もあるといった具合で程よく自然が残っているような感じだ。

とすると、初心者から中級者ぐらいの任務の難易度ぐらいだろうか。

しかし、空はあまり見えない。木漏れ日もかなり少な目でルナにとっては悪くない環境だが、それ故うまく加減をしないと木が数本じゃ済まないだろう。

的あてなので、とにかくダメージさえ与えれば石でもいい。

つまり極論を言えば魔法を使わなくてもいい。が、そういうわけにもいかないので、命中力重視でいくことにした。

と、ここで目の前に魔物の的が出てきた。かなり近い。

とっさに魔法でナイフを出して切りつけた。

すると、的が消えた。なるほど、飛び道具でなくてもいいらしい。

とはいえ的の中には木の枝に引っかかっていたり、空中にあったりすることもあるので飛び道具も必要ではあるようだ。得手不得手や、状況などで的や魔法を選ぶ必要もある…ということか。

そうルナは一人で的を探して攻撃を当てつつ、分析をしながら森を散策する。

時折、リスなどの小動物と軽く戯れもしながら的を探していたが、ここで演習終了の合図があった。

「もう10分たったの!?」

色々手探りだったということもあって、かなりあっという間という感覚だった。

これからもこの演習がしばらくあるだろうから、その中で慣れていけばいいだろう。

そんなことを考えながら、ルナは急いで森の出口へ戻っていった。


それからしばらくして、今日の演習が終わった。

途中で何人かが森の中で迷ってしまい捜索するハメになったが、それ以外は特にトラブルはなかった。

先生によると、毎年序盤の方は何人かが遭難するのが定番らしく、捜索もそれに伴う恒例行事とのことだった。それに学年に一人はとんでもない方向音痴がいたりして、その人を探すのが大変とも語っていた。

余談だが、捜索にかかった最長記録は100時間ほどだったらしい。


そんなこともありつつ、ルナたちは三人で寮へ向かう。

帰り道はもっぱら先ほどの演習のことが話題の中心だった。

本来ならば待ち時間は退屈らしいのだが、今日は初めてだったということで情報交換のため質問したりされたりでとてもじゃないけど他のことを考える暇がなかった。

できれば、今後のためにいろいろ方策を練っておきたかった。

と、ルナは内心考えながら話していた。


部屋についても話の内容は今日の演習の話題だった。いろいろ話をしていると自分が気づかなかったことなどもありつつ、そこからあちこちに話が脱線したり飛躍したりして話題には事欠かなかった。

そんなことを話しつつ、夕食をとりながらチームで動くときにはどういう風にするだとかまだ早い気もする作戦会議のような話もした。

ソフィーは話をある程度話し終えると、「結構有意義な話できたね。」と少し上機嫌だった。

しかし、ルナにとっては全くそうではなかった。

ルナは今後どのように行動をしていくか考える必要があるのだが、授業中は新しいことばかりで考える時間が取れなかった。

つまり、夜しか考える時間がない。にもかかわらず、ソフィーと遅い時間まで話をするということはさらに時間が削られるということになる。

ただ、どうにか切り上げるというのもできそうにないし、不自然だろう。

よって、ルナはただただ我慢するしかなかった。


夕食も食べ終わり、片づけも終わって、さらに時間が経ってようやくソフィーの話が終わった。

ソフィーは喋るとたまに止まらなくなるのかもしれない。

かなり夜も更けてしまっていて、日付も変わっているかどうか。そんな時間になっていた。

「ちょっと喋りすぎちゃって遅くなっちゃったね…。それじゃあまた明日!」とソフィーが手短に締めくくって部屋を出た。

ちょっとどころじゃないよ…。と言いたげにルナは渋い表情をソフィーが出て行った後に顔に出す。

大き目のため息をついたその時、背後から猛獣ステラがルナに襲い掛かろうとしていた。

しかし、それを察知したルナはひらりと躱してもう一度ため息。

ステラは抱きつこうとしていたらしく、躱されたことによって体をドテッという効果音と共に床へダイブしていた。

その様子にルナは「再調整したほうがよさそうだなぁ…。」と困った表情でつぶやいた。

ただ、暗示がどうやら効きにくそうということもあって、まずは話をすることにした。

「ねぇ、ステラ…。誰もいないとはいえちょっとべったりしすぎじゃないかな…。もし、そんなところを誰かに見られたらおかしいと思われちゃうでしょ…?」

「ん~…、でもルナが好きなのは事実なんだし~?いいじゃん?別に。」

「いやいやいや。周りは魔法少女しかいないんだよ?ばれちゃったらどうなるか…。」

「確かにそうだね。ごめん…。」

と、ルナの説明にステラはあっさりと納得したようで、ルナは胸をなでおろす。


「…じゃあ、寝よっか。」

ルナが時計を見ると、いつもならとっくに就寝している時間をかなり過ぎていた。

睡眠をとらなくても生活にはあまり支障はないものの、色々整理をするためには睡眠が必要で、特に今日一日は新しいことが多くあった。それを考えると整理したくなるのも無理はない。

正直なところ、優先順位をつけたり方針の決定、方策を練ったりなど今後のために緻密な戦略を立てておきたかったのだが、今日は時間の都合もあって諦めざるを得なかった。


こうして、いつもより長い一日が終わった。

この日も例によってルナはステラの抱き枕となっていたが、疲れなどもあってか寝苦しさを感じる前に眠りに落ちていった。

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