#31 睡魔に負けてね <Ⅳ期>

 今朝の目覚めはいつもよりすがすがしいような気がした。

 最近はいろいろ考えることが多すぎてあまり熟睡できていなかったが、ようやく目下の悩みが一旦解決してしっかり眠れたのもあるのだろう。

 でも、気を引き締めなければ。今日は作戦を実行に移すのだから。

 そのためにも、ステラには働いてもらう必要もある。

 それと、改めて少々調べておくべきことができた。

 土壇場だが調べておかないと致命傷になりかねない。

 リスクはできるだけ減らしておくのが鉄則だが、動くとなれば多少のリスクは覚悟しておかなければならない。

 できることは少ないができる範囲のことはしてきた。後は、うまくいくことを祈ろう。

 不本意だが、今日は休むことになりそうだ。

 まぁ、後日ソフィーに教えてもらうことにして…何とかなるだろう。多少長くなるだけで。

 とりあえずいつものように準備だけしておかなければ。変な勘繰りを受けてしまう可能性がある。正直、それは説明がめんどくさくなるので避けておきたいのだ。


 朝食を準備し終えたルナは寝室へステラを起こしに行く。

「グルルルル…。」と犬が威嚇しているようないびきをたてて寝ているステラ。

「(ほんとに大きな犬みたいだなぁ…。でも今日は忠犬になってもらわないと。)」

 そんなことを思いながらステラを起こした。

 最近は以前と比べて起こすのに手こずることは少なくなった。手こずる時は、前日夜更かしをしすぎていたか休みの日、それかほんとにやる気のない日ぐらいだろうか。

 このおかげで最近はほんの少し朝に余裕ができて心のゆとりができた…気がする。

 ステラはすんなりと起きてテーブルに座って朝食を食べる。

 ルナも食べつつソフィーを待つ。

 するとやがてソフィーが部屋に入ってきた。

 いつも通り挨拶もそこそこにして、ソフィーとステラに今日も欠席することを伝えた。

「今日も休むの?授業進むけど大丈夫?」とソフィーが心配すると、

「うっ…。」となぜかステラがダメージを受けた。

「そうなんだけども、ちょっとやっておきたいことが残ってて…。でも、ソフィーちゃんが今度教えてくれると信じてるからきっと大丈夫。」とソフィーを持ち上げておくと、

「そんなこと言われたら断れないな~。」と悪戯っぽい笑みと照れが入り混じった表情を浮かべる。

 これで今日も自由に動ける。

 後、大体15時間後ぐらいだろうか。それに向けてルナはギリギリまで準備をする。


 ルナは二人が教室へ向かったのを見送ると、ルナも目的の場所へ向かう。

 それは図書館だった。

 ルナは図書館で調べたいことがあった。それはアンチマジックアミュレットの性能について、つまりヴァイスの装備について調べたかった。

 場合によっては作戦の成功率が格段に変わるため、失敗できないルナにとっては重要なことである。

 ルナは装備系の本が並ぶ棚へ向かい、アンチマジックアミュレットに関する本を探す。

 案外、魔法少女もアンチマジックアミュレットを装備する人が少なくない。

 よって、関連する本もそれなりの数取り揃えられている。

「…これにしようかな。」

 ルナが手に取ったのは『アンチマジックアミュレットの基本』という本だった。

 ルナは図書館の読書スペースを借りて読み始めた。


 アンチマジックアミュレットは主に攻撃魔法を打ち消すもの。

 魔法少女が身に着けると自分が魔法を使った瞬間打ち消してしまうこと。

 だから、一部に特化したものを装備するべきということ。

 などなど、細かく説明してあった。

 ルナは読み進めていくと、アミュレットの種類について記述があった。

 それは先ほどの普通のアミュレットと特化型のアミュレットについてだった。

 普通のアミュレットは魔法攻撃を打ち消すのに対し、特化型はある一定の魔法を打ち消す効果がある。

 特化型は基本的に状態異常をきたすものについてのものが多い。例えば、睡眠、麻痺、石化エトセトラ…。

 つまり、攻撃ではなく補助魔法を打ち消す。

 ヴァイスがこれらの装備をしているのは不明だが、そういったものをたくさん身に着けている様子はない。もしかしたら見えていないだけかもしれないが。

 と、思いながらさらに読み進める。

 そうすると、最後にこんな記載があった。


 アミュレットはつけていると安心というわけではない。

 特に攻撃にも補助にも属さない魔法に対しては対策ができない。

 さらに、特定の魔物・魔族の能力である歌、視線など使は魔力を使用するが魔法ではないので注意する他ない。


 この数文が目に入ってきたときルナは思わず笑みをこぼす。

「なるほど…。だったら…。」

 そう。ルナは魔眼と言霊が使える。

 これらはアンチマジックアミュレットでは対策ができない。

 やはり念のために調べておいてよかった。そう思いながら部屋に戻り、作戦の微修正を加えはじめる。

 ヴァイスの意識をうまくそらすことができるかが作戦のキーだったし不安材料だった。

 それを解決できたことはすごく大きい。


「よし、これでいいかな?…いや、でも見直しておかないと。」とルナは修正を終えてから10回目の見直しをしている。

 心配なのはわかるがそれでも見直しの回数が多すぎる気がするが。

 そんなことをずっとしていたせいでかなりの時間が経っていて、ふと気づいた時にはもうすぐ二人が部屋に帰ってくる時間になっていた。

 ルナは焦って片づけをして、体裁を整え終わったその時に二人が帰ってきた。

「あ、お帰り。」ルナは何とか間に合って内心安堵しつつ、表情に出ないように二人を迎える。

「ただいま~!それじゃあ、さっそく…。」とソフィーがノートを取り出し、今日の授業内容や事柄を話し始めようとする。

「あ。ごめん、ソフィー。実は今日ステラと二人で話がしたくて、また今度…ね?」

 ルナはソフィーがいると困るためどうにか帰ってもらえるようにお願いをする。

 ステラに作戦内容を話すことが必要なのだが、もちろんソフィーがいると話せない。

 それにソフィーと喋ると、かなり時間的な余裕がなくなってしまう。

 さらにステラが作戦を理解するための説明時間がどのくらいかかるかが見えないため、できるだけ早く帰ってもらいたいのだ。

「え~?私抜きで秘密の話ってあやしいなぁ…。」と若干頬を膨らませ、不満をあらわにするソフィー。どうやら帰りたくないらしいが、ルナはどうしても帰ってほしいと思っている。

「今度お昼ご飯おごるからお願い…ね?」

「え…!?おごってくれるの?」

「あ、ステラのことじゃないからね。」

「え~…。」

 そんなやり取りがあったりで、交渉に30分ほど要したがなんとかいつもより早く部屋に戻ってもらうことに成功した。

 さて、ここからステラに作戦を仕込まなければ。


「ねぇ、ステラ。少し手伝ってほしいことがあるんだけどいい?」

「いいよー。」

 ステラは何も聞かずに二つ返事で了承してきた。さすがに何をするかぐらい聞いた方がいいんじゃないかと思ったが、ルナはステラのマスター。ステラが断ることなどできない。

「やってほしいことというのは…かくかくしかじか…」

 ルナはこれから行う作戦のことを細かく丁寧に説明する。

 ステラの理解度が心配なので時折質問がないか挟んだりしたので、そこそこの時間がかかった。

「…というわけなんだけど、わかった?」

「とにかく、見つからないように攫って、見つからないように旧校舎に閉じ込めればいいんだよね?」

 心配は杞憂だったようで、端的ながら的確な理解をしていた。

 いつも筆記試験の成績はよろしくないのだが、遠征では活躍しているということは勉強方面ではない実戦方面は強いのかもしれない。

「ちゃんと理解できたんだ…意外だなぁ…(ボソッ)」

「ん?ルナ、何か言った?」

「ううん、何にも。あ、そうだ。最後にちょっとしたおまじないをかけておかないと。」

「おまじない?」

「ステラ、私の眼を見て…。」

 そう言ってルナは擬態を解いて魔眼を発動させる。

 ステラはルナの眼から目が離せなくなる。

 ルナはいくつかの命令をステラに聞かせ、魔眼の解除と共に擬態した。

「これでよし。」

「???」ステラはきょとんとしているが、これで本人の理性が飛んでいても無意識にその命令通りに動くようになっている。


「うーん…。魔眼を使うには擬態を解かなきゃいけないんだよねぇ…。」

 ルナはこの問題点を見落としていた。

 しかし、今日行動に移さなければタイミングがだいぶ先になってしまう。どうにか解決策を見つけなければ…。後1~2時間しかない。

 ルナはピンチに陥るものの、考えを巡らせる。

 先ほどの擬態が解ける瞬間を思い出した。

 擬態を解いてから体が変わるまで少しタイムラグがあった。

 眼などはすぐ変わるのではないかと考えて、ルナは鏡の前で確認してみる。

 するとルナの考えた通りに眼はすぐに変わり、体は変わり終わるまで約10秒かかった。

 それならば擬態を解いたら魔眼の能力を吸血鬼の特徴が現れるまでの数秒、いやコンマ数秒で使い、すぐに擬態すれば問題のではないかと思い、ルナはすぐに練習に取り掛かった。


 数十分後…

 作戦開始時間が迫る中、どうにか習得できたようだ。

 ギリギリになってこんな問題があるとはと思っていなかったが、何とか解決できてルナは胸をホッとなでおろす。

 あとは平静を装うためにできるだけ心を落ち着かせる。

 少しでもいつもと違う様子だとヴァイスは感付いてしまう可能性がある。

 しかし、時間が経つにつれ緊張感が高まってくる。

「(きっと大丈夫…。あんなに確認したんだし…。)」

 ルナは自分にそう言い聞かせて覚悟を決めた。

 そうしてルナは「ふぅ…。」と大きく深呼吸をしてドアノブに手をかけた。

 ドアを開け、周りを見わたす。

 無論、深夜なので出歩いている生徒はゼロに等しい。

 学園の創設当初はセキュリティが万全とは言えない状態で、時折魔物が侵入して来たりしたこともあったようで見回りもしていたらしいが、今では遠い昔話となっているため見回りもいない。

 少なくとも

 ルナは誰もいないことを確認してから部屋を出る。あくまでも慎重に。

 もし誰かにあってどこに行くのか聞かれたとしても、眠れないから散歩をしにいくとか何とでも言い訳はできる。

 廊下を進むとやはり今夜もヴァイスはそこに立っていた。

 少し近づいたところでこちらの気配を感じたのかこちらを向いた。

「ルナさん、こんばんは。今日ここに来たということは…。」

「ええ…。今日も『眠れ』なくて…。」

 ルナは一瞬だけ魔眼を発動し、言葉に魔力を乗せた。これでかなり強力になるはずだ。

 効果は外から見ただけではわからないが、

「…っ!?」

 ヴァイスは一瞬視界が歪むほどの強い眠気に襲われた。まるで睡眠魔法にかけられた時のような。

 でも、アンチマジックアミュレットはつけているし、魔法をかけてくる相手はルナしかいないのだがそんな素振りすらなかった。

 ヴァイスは若干混乱と困惑があったがすぐに平静を取り戻す。

「そ、それでは始めますね。」

「それで『眠れ』ればいいんですけどね…。」

 ルナは追撃をする。

「…っ!?」

 ヴァイスはまた眠気に襲われる。ただ、今回は先ほどより視界がクリアだったのか

「今、ルナさんの眼が紅く光ったような…?」と思い、ルナの顔を見る。

 しかし、ルナの眼は紅くなっていなかった。

「(…見間違いか?でも一瞬だけ紅く光った気もしないでもないが、眠気のせいか?)」

 ヴァイスは疑問が浮かんだものの、だからと言ってネルの友人に証拠もなく斬りかかるなんて騎士としても人としても失格の行為である。

 よって、ヴァイスは気のせいとか見間違いということにしておくことにするしかなかった。

 もしこの時、斬りかかっていればこの先の悲劇につながらなかったはずだったのだが…。


 ヴァイスは眠れないルナの前で強力な眠気に耐えつつ、かつ自分が眠ってしまわないように眠り方を教えることとなった。

「まずは、初級編…から…。」強い眠気のせいで話すことにも支障をきたしている。もう一押しで眠らせることができるだろうが、あくまでも自然な話の流れの中で寝落ちさせたいとルナは思っている。

「まず…眼を軽く…瞑ります…。そして…深呼吸をして…心を…落ち着かせます…。」

「それだけですか?」

「ええ…まずは…これを…試してみて…ください…。」

「これで『眠れ』るといいのですけどね。」

「そ、うで、す、zzz…。」

 ルナはうまく最後の一押しを会話に入れ込み、ヴァイスを寝落ちさせることに成功した。

 ルナはあらかじめ決めておいた合図をステラに送る。

 数分後、ステラの気配が部屋の中に移動してきた。どうやら手筈通りに部屋に侵入したらしい。

 さらに1分後、ステラの気配とネルの気配が遠ざかっていく。無事、攫うことに成功したようだ。

 あとは、無事に用意した場所に誰にも見られることなくたどり着くことを祈るのみとなった。


 一方その頃…

「ねぇ…、なんだか最近出番ない気がするんだけど…。」

「リム様。仕方ありませんよ。所詮脇役なので。」

「にしても少なすぎない?」

「あと数話先に出番がある予定ですので、それまでお待ちください。プリンの用意がありますが召し上がりますか?」

「食べるー!」

「(ちょろい。)」

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