第4話 姉と妹の金銭問題
シンクによりかかったまま考え込んでいたら、由真の声が耳に届く。
視線を上げると、仏頂面の由真が口を尖らせ菫を見ていた。
その表情は不満げだ。だが、海人と出て行かない所を見ると、今日はこの家に居ることにしたらしい。
「出て行け」「出て行かない」と争うのが不毛に思え、菫もその話題に触れないようにした。
時刻を確認すると八時を過ぎている。
「……何か作るわよ。好き嫌いあるの?」
「ない……。ピーマン以外」
「子供か!」
「まだ十四だから」
不機嫌を露わにしていたのに、腕を組み、ふて腐れている由真が可愛かった。子供らしい好き嫌いに菫は笑ってしまう。
「玄関にスーパーの袋あったでしょ? 持って来て。それで作るから」
「……うん」
一瞬、考える仕草をした後、由真が素直に玄関へと向かう。どうやら、相当お腹が空いているらしい。それを確認すると、菫は自分の寝室へと向かった。
一階には縁側に面している居間と繋がっている台所。その隣には仏間がある。そして、縁側を通り抜けた家の奥、そこが菫の寝室だった。
もう一部屋何も置いてない部屋があるが、そこは菫の荷物置き場になる予定だ。
二階には三部屋。
二階は由真の好きにして言いと伝えてあるため菫は関与しない。初めての二人暮らし。お互いがある程度の距離を保たないと上手くいかない。
そう考えて、一階と二階でプライベートスペースを分けることにした。
菫は、まだダンボールが積まれたままの寝室に入る。調味料と書かれたダンボールを探し、中から塩や胡椒。コンソメや醤油などを取り出す。
「……米もいるよね。食べ盛りだろうから」
菫は普段、夜に炭水化物を摂取しない。その分、朝と昼に回している。そのため、夕食はいつも軽め。そういう生活をしていると、一人の時と違ってメニューに迷ってしまう。
しかも、今時の十四歳の夕食がどんな物かわからなかった。
「あ、あの子、学校が給食かお弁当かどっちだろ……聞かなきゃ」
海斗の出現で時間は押した。すぐに、この後の予定を組み立てる。
手早く夕食を作り、食べながら必要事項を由真から聞き出すことにする。その後、お風呂に入れて就寝。大人ぶってはいるが、まだ子供だ。夜更かしは許さないでおこうと菫は決めた。
調味料と米を持って居間へと戻ると、由真がなぜか立ったままでいる。
「テレビでも見てたら? すぐ出来る物にするから」
そう言うと、鍋を忘れたと思い出し寝室に取りに行こうと歩き出す。だが、相変わらず不機嫌な刺々しい声が菫の背中に投げかけられた。
「本当に作れるの? 別にコンビニでも構わないけど? そっちの方が美味しいだろうし。私、ママ以外の手料理嫌い。お金ちょうだい。買ってくるから」
振り返ると、当たり前のように由真が手を差し出していた。どうやら菫の料理が嫌らしい。これも反抗期だろうかと考え、それは出来ないと首を振る。
「そんなお金はありません」
今からそんな疲れたサラリーマンみたいな生活をすると、お金がすぐに無くなってしまう。特にコンビニは……手軽で行きやすい。新商品は美味しそうだし、余計なお菓子まで買ってしまう。
そんな暮らしをしていると、瞬く間に破産だ。
まだ生活能力のない由真に菫の気持ちはわからないだろう。お金は簡単には稼げない。皆、働きたくないが、生きるために必死に働いていると、それを教えなければならない。
「なんでよ? パパとママの保険金と遺産があるでしょ? 独り占めする気なの? 今すぐにお金出してよ! 私はそのお金で暮らすわ。あなたの世話にはならないもの。お互い全て分けて干渉なしにして。あなたは、必要な時だけ保護者として責任を取ってくれたら良いわ」
自分の権利だけ主張する由真に、菫はため息を吐く。
どうやら由真は、お金の管理も全部自分でしたいらしい。一人暮らしのように、この家に住みたいと主張を始めた。
「あのね、お金は無限じゃないの。保険金はあなたの今後の生活費と学費よ。大学まで行きたかったら学部にも寄るけどそんなにもないわよ。……そこに座りなさい」
菫は言葉で説得することは由真のためにならないと、現実を付きつけることにした。何事も最初が肝心。
由真がその気なら、菫も考えがあると動き出す。
由真が怪訝な顔をする中、寝室に戻るとダンボールを漁る。探しているのは大切に保管してある茶封筒。
それを手に居間に戻ると、由真がどこから持ってきたのかポテトチップスを開けて食べていた。それを菫に分ける気はないらしく、一人でポテチの袋を持って離さない。
「最初から説明するから、良く聞いて自分で判断しなさい」
そう言って、ちゃぶ台の上に通帳を三冊置いた。
「これが、あなたの全財産よ……全て弁護士の武井先生に確認して貰ったわ。嘘だと思うなら先生に電話でも、会ってでもして聞いてきなさい」
由真は怪訝な顔を最初見せたが、訝し気に通帳を手にしていく。
だが、一冊、二冊目、三冊目と見ていく度に顔が強張っていった。
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