海へ行こう(上の三)
夏休み三週間目にしてバイトと陽愛に扱き使われる───ずっと同じ日々を送る俺ってなんなんだろうな。でも、今日はバイトは休み、それで暉に何故か『来てくれ』と言うメールが来ている。何で、俺を呼ぶんだ? まぁ、どうせ美空と喧嘩したとか、家族と出掛けたかで寂しいとから呼び出したんだろ。仕方がねぇ、陽愛もどっかに出掛けてるから呼び出される事はないたろうし、それに暇だし行くか────。
「一緒にストーカーやらないか?」
「………」
暉の家に来たのだが、早くもバカげた事を言われた。くるっ、と身体を半回転させて後ろを向く。前に足を出そうとすると強い力で肩を掴まれた。
「すまん。言い方が悪かった。美空達の跡を追い掛けないか?」
「それ、どっちみちストーカーだろ!!」
俺は嫌だ。こんな年で犯罪者にはなりたくない!───と思いつつも泣き着かれたので仕方なく理由を聞いてやる事にした。
「美空が俺を抜きでデパートに行ったんだよ!!」
「だから?」
「旭は知ってるだろ! 美空が俺を抜きでどっか出掛けないって!」
美空が暉抜きで行く事────あれ、ない。美空は家族と出掛ける以外は暉を連れて行く。あ、この情報は暉からだ。毎回の様に言ってくるから嫌でも頭が覚えてしまう。いやでも、今まで無かったとはならないだろ、暉に内緒で一人とか友達と出掛ける事だってあるだろうしな。
「気にしすぎだろ。美空だって一人で出掛けたい時はあるだろ?」
「うぅぅ、でも~、俺に『着いて来るな!』って怒ってきたんだぞ? 絶対に何かあるだろ!」
めんどくせぇ………そんなけで何かある訳ないだろ。どうせこの後、浮気、浮気煩くなるだろうし………はぁ。
「多分、陽愛と出掛けてるんだろ」
「………その根拠は?」
「ん。陽愛も今日出掛けるとかで居ないし、俺を連れて行かなかった事はお前と同じだろ」
陽愛が珍しく俺を荷物持ちとして連れていかない事からして、友達と出掛ける時ぐらいだ。あれ、でも美空と出掛けるなら何で俺を連れて行かない? いや、何時もバイトで疲れているからと気を遣ってくれたのかもしれない。陽愛は何だかんだ優しいからな。
でも、もし違ったら───なんだろうか、この胸にあるもやもやは。陽愛が誰か違う男と出掛けてたら、ああ、何か腹立つ。くそぉ、なんだよ、このムカムカは………。
「ん?」
スマホから通知音がした。ポケットから取り出して差出人を見ると、美空だった。内容は───。
ほれ、やる。だけの文と一つの写真だった。その写真には、少し恥じらいながら黒ビキニを着ている陽愛が居た。思考が停止。そんな中、俺の手は勝手に動き、保存を押してまい、我に返った時にはもう遅かった。
「………旭、キモいぞ」
「え? 何で?!」
「いやだって、スマホみながらニヤニヤしてるから。キモいなって」
え、ニヤニヤ? スマホを見るとさっきの陽愛の写真があった。急激に顔が熱くなってきて慌ててスマホをポケットにしまった。おいおい、何まじまじ見てるんだ、俺は………。これじゃあ、変態じゃないか。少し頭を冷やそう。
「なあ、暉。少し早めるか、海行くの」
「お、どうした急に? まぁ、良いんじゃね? 俺も早く美空の水着みたいし!」
「お前らしいな」
ふと、上を見上げる。白一色の天井が目に入る。
ああ、早く海に行きたいなぁ。
***
「陽愛」
「ん。何?」
今は二人で夕飯の素麺を食べている。最近はまた暑くなってきたからなぁ。今日はどちらとも親が不在のため、俺の家で一緒に食べている。たっく、何が町内会だ! 息子の飯ぐらい作ってけ!
「その、なんだ。色とかはもう少し大人しめのがいんじゃないか?」
「え?─────あ、まさか、見たの?」
「何を?」
「惚けないで言いなさい! 見たんでしょ!!」
「だから、何をだよ。俺が何を見たって言うんだよ」
「ふーん。じゃあ、私、海に黒いの着てくね」
「だから、もう少し………」
「! やっぱり見たんだ!!───てか、保存とかしてないよね?」
「してない」
「ほんと?」
「直ぐ消した」
「そう、ならいいけど」
ふぅ、良かった。誤魔化せたな。と言うか保存したって正直に言う訳ないだろ。うん、あれは一生大事に保存しよう。誰の目にも触れない様に。
「そうだ、陽愛。似合ってたぞ」
「!? 何でいま言う!! バカ! 変態!」
陽愛は顔を真っ赤にして睨みつけてくる。よし、珍しく俺が押してるぞ! もう少しだけ弄ってやろ。
「まあ、白とかも良いんじゃないのか?」
「ッ………なら、そうする」
あれ、可笑しいな。そこはまた怒鳴って来るって思ってたんだが。ん?───?! 痛い! 足がぁぁぁ!!
「ご、ごめんなさい!!」
「ふーん。で?」
「今度、何か奢らさせて貰います!!」
「そう、まあ、今回は許してあげる」
そう言うと陽愛は俺の足を踏んでいた自分の足を退けてくれて、
「次、私をからかう様だったら、分かるよね?」
「………はい」
腕を組み、睨み着けてくる陽愛に逆らえなく大人しく返事をした。
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