転けた転校生
「いたた………」
転校生は床に打ち付けた額を抑えながら痛そうにしているぶつけた時にゴツン! と音が上がったから相当痛いだろう。
「あ………!?」
転校生は周りを見て皆が呆然してるのを見たら直ぐに立ち上がり、パンパン、と服やスカートを叩いてから田中先生が居る方に歩いて行き、何かを黒板に書き出した。
だが、教室内はまだ静まり切っていて転校生が何かを黒板に書いてるのを皆はじっっと見て居るだけだ。
「ふぅ。おほん! アルシェ=ディースです! これから三年間宜しくお願いします!」
何事も無かったかの様に自己紹介をする転校生に俺は感心すら覚えた。
転校生が自己紹介をすると同時に田中先生は、はっ! と閉じていた目を見開きアルシェに目を向けたら咳払いをして、
「あー、その、ディースは日本に来たばかりだから、皆色々教えてやってくれ」と、言葉を付け加えたら腕を組んで黒板に凭れかかったまま、また目を瞑った。
それでも、まだ教室はシーンと静かなままだ。
多分、教室内が静かになってる理由はいきなり転けた驚きではなく転校生の容姿にみとれているんだ。
さらさらしている金色の長髪。
愛らしさもある端正な顔立ち。
輪郭を描く頬から顎のライン。
大きくぱっちりと開いた瞳。
どっから見ても美少女だ。肌とかも白くて綺麗だし、出ている所は出て引っ込んでる所は引っ込んでる、もう見た目はモデルに匹敵するだろう。
そして、この静まり切った空気に嫌気が差したのか早く終わって休みたい心からなのか田中先生が口を開いて、
「えっと、ディースは真壁の隣で頼む」
「あ、はい! その、間壁さんは…」
「私だよ~」
軽く手を振って場所を教える陽愛。アルシェもそれに気づいて背筋を伸ばして優雅に席へと歩いて行く。
その歩く姿も優雅で教室内はまたアルシェに目を奪われていた。
***
「可愛いよな~」
「ん。あぁ、そうだな」
「微妙な反応だな」
「そうか?」
いや、まぁね。周りの反応からしたら俺は微妙に感じるかも知らないがそれなりに驚いてもいるし容姿に見とれてたりもする。
まぁ、ただ、あいつより可愛い奴を俺は知ってるから反応が薄いのかもしれないだけだ。
そう考えてると俺が可愛いと思ってる奴が此方へと歩いて来た。
「ねぇ、旭~ちょっと『シェリエ』まで行ってきて」
「俺はお前のパシりでも下僕でもねーぞ!」
「お弁当美味しかった?」
「旨かったけど?」
そう答えるとニコッと笑みを向けてくる陽愛。
ずっと、ニコニコ笑みを向けて来る陽愛が俺に何を伝えようとしてるのかが段々と分かって来て肩を落とした。
「分かった分かった。今からじゃないと駄目なのか?」
「うーん。なら、放課後で良いよ。じゃあね~♪」
浮き浮き気分で帰って行く陽愛。ふぅ、と疲れ気味に息を吐いて俺は椅子に座った。
「目で会話って凄いな、お前ら……」
「ん。そんぐらいお前でも出来るだろ?」
「いや、俺には無理だ。精々怒ってる時しか分からん」
「そんなもんか」
「そんなもんだ」
ふーん、と興味無さげに返事をして席を立ち上がって、
「何処行くんだ?」
「ん。トイレ」
俺は暉に軽く手を振って教室を出て行きトイレに急いで向かった、
***
「あ、
トイレから教室に戻ってる最中、俺は短めの茶髪をポニーテールにしてて前髪を切り揃えてる小柄な体格の女の子。暉の彼女で絶賛喧嘩中と言う──美空と目が合い思わず話し掛けてしまった。
「旭?………何か用?」
暉にあんなこと言ったからなぁ。一応仲直りする様だけ言っとこ。
「なぁ、暉と……」
暉の名前をだしただけで苛立ちの顔を見せる美空に俺は言葉を詰まらせた。
うーん? 何でこんなに怒ってるんだ? 喧嘩って目玉焼きの事だろ? こんなに怒るものか?
苛立ちの顔は徐々に憤怒の表情に変わって行き、段々と憎悪のオーラも出てきた美空に俺は思わず一歩後退りしてしまった。
「で? あの、クズが何?」
「いや、その、暉と仲直りを………ぶふぉ!?」
俺はいきなり腹に強烈な右ストレートを受けてその場に腹を抑えながら倒れ込んだ。
痛い、物凄く痛い………流石に空手やってた奴の拳は真面に受けちゃ駄目だ……
俺は腹に来る鋭い激痛を必死に耐えながら、それを知らんぷりして何処かに歩いて行く美空を見てる事しか出来なかった。
いてぇぇ………あいつ、どんだけ強く殴ったんだ? 全然起き上がれない───さて、さっきからずっと通って行く人達に変な目で見られ、誰も手を貸してくれないこの状況をどう打開しようか。
腹が痛くて身体に力が入らない=自分では何も出来ない。
詰んでんじゃねーか! くそぉぉ、美空の野郎………どんだけ力を込めたらここまでさせられるんだ。流石、元空手家と言うべきか。
そんな事を思ってると、とても澄んだ綺麗な声が聞こえた。俺の危機を聞き付けて来てくれた天使かと思い上を見上げた。
「あの、大丈夫ですか?」
確かに容姿は天使の様な奴が俺の前に立ってる。
転校生か………こいつは何か嫌なんだよぁ。笑顔が嘘ぽいって言うか。わざと愛想を振る舞いていると言うか。
「ん。これが大丈夫に見えるか? 転けた転校生」
「うわぁ、酷い事を言いますね。そんな事を言う人は助けてあげませんよ?」
「要らねーよ」
本当は助けが欲しいが何か、こいつからの助けは何か嫌だ。
この天使みたいな容姿をした転校生に助けて貰うのは悪くはない。悪くはないのだが、こいつには何かありそうで助けて貰うのは嫌だと心が訴えて来てる。
何とか起き上がろうとするが痛みがまだ引いて無く直ぐに痛みが全身に回って力が抜けて床に倒れ込んでしまう。
くそ野郎………起き上がれねぇぇ。
それから、何度か起き上がろうと試してみたが痛みが酷くて直ぐに床に倒れ込んでしまう。
「さっきのこと、謝るなら助けてあげますよ」
「嫌だね。と言うかどっか行け。授業が始まるだろ」
「それを言ったら貴方もですよ? はぁ、仕方ないですね」
やれやれ、といった感じでアルシェはしゃがんで俺の腕を掴もうとしたが、俺はその手を払いのけた。
「そんなに嫌ですか?」
「あぁ、いいからもう行け」
「プライドが高い人は嫌われますよ?」
「そうかよ。行け」
俺はそんなにプライドは高くはない。今だって本当なら助けて貰いたいと心の中では思っているが転校生からの手は借りないと決めたから助けを求めようとはしない。
そして、転校生は『行け行けうるさい人ですね。はぁ、それでは教室でまた会いましょう』と呆れ感じに言って、痺れに切らして何処かに行ってしまった。
それで良いんだ。さて──この動けない状態をどうするか。
その後、なんとか動ける様になった俺は教室に戻ったが授業に遅れた事で先生にこっぴどく怒られた。
***
「で、お前、美空に何したんだ? もし、またくだらん事なら殴り飛ばすぞ?」
放課後、暉に美空に何をしたのかを聞き出していた。マジでどうでも良かったら俺は多分怒りが抑えられなく暉を殴り飛ばす勢いだ。
「えっと、? 何でお前が怒ってんだ?」
「………知りたいか?」
コクり、と暉は頷く。俺はそっと自分の制服を捲り上げて美空に殴られた場所を見せた。
「はあ!? お前それどうした!」
美空に殴られた俺の腹辺りは青紫色に変色していてそれを見た暉は驚愕の顔を浮かべて、バン、と小さく音を立て机に手を着けて立ち上がり。もう片方の手で旭のお腹辺りを指さしている。
だが、俺は冷静に「座れ」と暉に呼び掛けて、暉は大人しく椅子に座る。まだ少し驚いているみたいで暉の顔には冷や汗が出ていた。
そして、俺が椅子に座ると同時に暉が口を開いた。
「ま、まさか、美空にやられたのか?」
「………」
少し間を空けて俺は首を縦に振って頷いた。それを見た暉は申し訳無さそうな顔をして『すまん』と謝ってきた。
「いや、いいよ。もう過ぎた事だ。でもなぁ、ほんとにくだらない事だったら容赦しないからな?」
「………分かった、その時は殴っても大丈夫だ」
うっ、こんなに素直だと何だか此方がやりづらいなぁ。と言うかそう言うって事は本当にくだらない事なのか?
「えっとな。最初は確かに目玉焼きの事で喧嘩してたんだけど、その、従妹の子と居る所を見られて」
「浮気か?」
「違うわ! たっく………何で美空もお前も勝手にそう思うんだ…」
あー、何か経緯が分かった気がする。暉の今の言葉からして美空も俺と同じ様に暉が浮気でもしたのではないかと疑ったのか? この言いぐさだし多分あってるだろう。
「美空もそうやって『浮気』だって決めつけてきてな。幾ら誤解だって言っても聞いてくれねーしよ。ほんと、困ったもんだ」
あってたか。それに弁明もしてるし、美空が怒る理由がいまいち分からないんだが………
「あ。そうだ。陽愛ちゃんが校門前に来いって言ってたぞ」
暉はふと、思い出した様に言う。
「そうか。まぁ、美空に土下座でもしておけ。そしたら許してくれるだろ」
「話を聞く前に殴られたらどうすれば良い?」
「………」
俺は黙って立ち上がり鞄を持って陽愛が待っている校門に行こうとした。その時に暉が『おい! 待てゴラ!』と声が聞こえたが耳を手で抑えて聞こえないフリをして早足でさっさと校門に向かった。
***
「ひ……?」
校門で待っていた陽愛に声を掛けようとした。
俺は一緒に居る奴を見たら言葉が止まった。
何で、あの転校生まで居るんだ? もしかしてあいつも一緒に来るのか?
「あ、やっと来た。遅いかったから一杯買って貰おっと」
「一瞬、俺にとって聞き捨てならない言葉が聞こえたが気のせいか?」
「ん。気のせいじゃないけど?」
「はは………あまり金ないんだけど?」
「ふーん。昨日嘘ついた癖にそれでも無いって言うの?」
陽愛は手を前に出してニコニコ、と俺に笑顔を向けてくる。
ここで財布を出したら俺の負けになる。今度こそ、俺は陽愛に勝ってずっと欲しかった物を買うんだ!
そう、意気込みを入れたが結局、『秘密ばらそうか?』の一言で俺は負けて鞄から大人しく財布を渡した。
はは………昨日やつバレてんのかよ。
「いやっほーい! アルシェ! 早速行こ!」
「え? いや、でもそれ………」
「良いの良いの! 早く行こ! 彼処のケーキ美味しいから!」
陽愛はアルシェの手を引っ張ってシェリエと言う喫茶店に行く方向に歩いて行った。
たっく。人の金なんだぞ……何でそんなに気楽で居られるんだ…
そう思いつつ自分の財布にいくら入ってて何処まで消えるかの心配をした。
「ん。あ、陽愛」
「どうかした?」
「すまん。用事出来たから二人で行ってくれ。財布は明日返してくれれば良いから」
俺は陽愛にそう言ってから美空から届いたメールの場所に向かった。
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