俺と幼馴染の彼女は夫婦以上の仲で恋人未満
南河原 候
一章:プロローグ
プロローグ
「あ、これも」
学校帰りに幼馴染の
艶のある黒髪ミディアムヘアーで、涼やかさがあるが愛らしさもある顔立ち、何処か猫を想像させる。背丈は平均的だ。俺とは頭一つ離れている。それでも胸は豊かで制服の上からでもはっきりと大きさは分かる。容姿でいけば高い方だろうが、人使いの荒らさも人一倍だ。
「
「じゃあ、暇じゃない」
「あれは、小五だったかな~? 旭が夜道を泣い」
「あー!! 分かった! 付き合うから言うな!」
こんな感じに脅されて連れて来られたんだ。『友達と行けば良いだろ』とも言ったが『今日は皆用事があるから無理』と断言された。
黒歴史をバラされたくなかったから俺も仕方なく陽愛に付いてきたんだが、陽愛はさっきから店を転々と回って服をどうのこうの、と言って見ているが回ってきた店で一度も買おうとはしなかった。
結局買わないで店を出るんだから早くして欲しいわ。
まぁ、これを本人に言うと機嫌損ねるから言わないけど。
「はぁ」
「………そんなに嫌なの? 私との買い物が」
「いや、そんなことはないが。昨日やり掛けたゲームを早くやりたくて」
「あんたねぇ、ゲームばっかりやってるからテストが毎回赤点ギリギリなのよ?」
「まぁ、そんな事より服決まったか?」
陽愛はまた『うーん』と唸りながら服を見だして、なんとか誤魔化せた様だ。
本当は嫌に決まってる。たまに『似合う?』と聞いてきて「似合ってる」と本当の事を言ってるのに「またそればっか」と不機嫌になる。その度にめんどくせぇ、と思いながら機嫌直しするのが本当に面倒くさい。
案の定、結局何も買わず店を出て俺達は駅前をぶらぶらしていた。
「うーん、良いの無いな~」
「毎回それだよな、お前」
「だって良いの無いのは本当だし。あ、旭、クレープ食べたいから買って」
「自分で買えよ。俺だって今月厳しいんだ」
まぁ、嘘だけどな。小遣いなら貯めてあるしクレープを買う金ぐらいはある。たまにはこうやって嘘をつかないと本当に扱き使われるだけの存在になってしまう。
「ふーん。嘘はついてないわね?」
「ッ!?……… いや、ついてないけど?」
「なら、良いや。自分で買ってくるね」
陽愛がクレープ屋に走って行き。走って行く陽愛が離れた事を確認したら俺はホッと肩を落とした。
重みのある言い方にひょっとしてバレたかと思ったがバレてなくて良かった……。
「はい」
「え? 俺に?」
陽愛が珍しく人の分を買ってきた事に驚きながらも受け取り、呆然としながら陽愛を見る。
「うん、美味しい!」
美味しそうに食べる陽愛は何時も通りの陽愛に見える。
そうだよな、流石の陽愛でも売店で売ってる物に細工なんて出来ないよな。陽愛からの珍しいご好意だ。素直に受け取ろう。
そう思って一口食べる。うん………甘過ぎたろ!!
なんだこれ、見た目は普通のチョコバナナクレープなのに喉が焼ける程に甘いんだが、これ。
俺はどうやら陽愛を侮っていた様だ。
陽愛は本当に何時も通りの陽愛だった。
そして、俺が顔を引きつらせていると陽愛がクスクス、と笑いだした。
「甘いでしょ!」
「ああ、嵌めたな?」
「うん! 店員さんに頼んだらしてくれたよ!」
腹立つ。この悪い事をしてない満面の笑みが腹立つ! そしてその店員を今直ぐ殴りたい!
そうだよな。こいつが何の意味も無く物を買ってくるはず無いよな。はは……クソ、またはめられた…
「うっ………」
「そんなに無理なの? まぁ、替えてあげないけど」
「要らねーよ。うっ、甘い」
生クリームやチョコしか入ってないのに何でこんなに甘いんだ。砂糖もかけている様にも見えないし、不思議で仕方がないんだけど……。
「おい、これに何入れた?」
「ん。店員さん曰く「これを振り掛けると凄く甘くなるんですよ!」って。まぁ、最後の方は声が小さくて聞き取れなかったけど。大丈夫だよ、他の人も頼んでたし」
「そ、そうか」
その最後の辺りが気にはなるが、他の人が頼んでたのなら大丈夫か。
俺はそう思って甘いのを我慢して全部食べきった。
「───ってな事が昨日あってさぁ、そのクレープは甘い過ぎるわ、夜はやけに身体が熱いわで、散々だったわ」
昨日の出来事を友人の
黒髪を耳に掛かる長さにしてて、端正な顔立ちの俺の友人の暉。いや、腐れ縁の悪友かな。
「なぁ、やっぱり陽菜ちゃんとお前、付き合ってるだろ」
「いや、だから……付き合ってないって。毎回言ってるだろ?」
暉もだが他の人達もそんな事を良く俺達に訊いてくる。その度に『付き合ってない』って答えるのに誰もがまた訊いてくる。
単に俺達は幼馴染なだけで距離感が近く感じるんだ。だから付き合ってもない。それに今は扱き使われる存在になりかけてるし。
「で、俺にそんな惚気話して何が言いたい?」
「惚気てねーよ。なんだ? また
「ああ? あんな奴の話なんてするんじゃねー!! あー!! 思い出して来たらまた腹が立つ!」
頭をくしゃくしゃさせて大声を上げる暉。
その光景は呆れてみるしかない。だってこんなに苛ついておいて直ぐ仲直りをするんだから誰だって呆れるだろ?
「あんにゃろう。目玉焼きに醤油かけるって言うんだぞ! 普通はソースだろ!」
「あー、はいはい」
この通り、喧嘩な原因も些細な事だから更に呆れるんだ。それで、仲直りをしたら惚気だすから更に立ちが悪い。
それに目玉焼きの事で喧嘩をするのも五回目だと思う。余り覚えたくもないから覚えてないが、一回目は確か………焼き加減だったかな?
覚えてねーや。
「でもさぁ、好みなんて人それぞれだろ? ソースでも醤油でもどっちでも良いじゃん」
「まぁ、そうなんだけどさぁ……………… 美空に怒鳴っちゃったから、どう謝ろうか悩んでて」
今度は肩を落として落胆としだした。暉は一度落ち込むと中々立ち直らないからこうなると面倒くさくなる。それも美空との事だから落ち込む度が更に悪化する。
「仕方ねーな。美空には俺が話をする様に言っといてやろうか?」
別に俺が何かやらなくてもこいつらなら直ぐに仲直りしそうだか、一番付き合いの長い暉だからこそ落ち込む姿は余り見たくない。暉も良く俺を気に掛けてくれるから俺も困ってる暉を放ってはおけないんだ。
「ほんとか!? やっぱり持つべきは『親友』だな!」
さっき程とは打って変わり明るい笑みを浮かべて俺の肩をバンバン叩く暉。
「痛いって! お前なぁ少しは手加減して叩け。と言うか、叩くな」
「あ、すまん! すまん!」
手を合わせて謝って来る暉。俺もそこまで怒ってないから許した。
「あー、でも──」
暉は安心した顔をからまた不安げな顔を浮かべて何か言おうとするが「その、えっと~」と何か言いづらそうにしてる。
「まだ何かあるのか?」
「いや、まぁ、その。えっとな、美空──」
そう、暉が何かを言おうとした時に教室の引き戸が開いて、俺達はそっちに顔を向けた。
担任の田中先生が入って来て「お前ら~
暉も『話はまた後で』と言って前を向き。話の続きは休み時間へと持ち越しとなった。
田中先生は皆が座ったのを確認して、もう一度教室を見渡す。
「よし。欠席者居ないな」
これがこのクラスの出席の取り方だ。先生曰く全員の名前を呼ぶのが面倒くさいんだとさ。
何時も思う。それで良いのか、先生として──と。
「あぁ、だりぃな~、お前らさぁ、何で学校来るの?」
黒板の前にある教卓に肘を着けて手の平を頬に当てながらそんなことを言う田中先生。
何言ってんだ、この人…………。
先生としてあるまじき言葉を言う田中先生は大きな溜め息をついて外方を向いた。
それに対して皆は田中先生が動くまで黙って待っているだけ。この田中先生はこうなると窓の外を見るのが飽きるまで何もしないから皆も何も言わない。いや、言っても聞かないから意味がないんだ。
「あ、そうだ。転校生居るんだった」
ふと、何か忘れていた事を思い出す様に言う田中先生。
それだけは、忘れちゃ駄目だろ。先生……
それを呆れた視線を先生に送る皆。だが、先生はそれに動じず、いや、気づいてないだけかもしれないがそのまま話を進行させた。
「まぁ、良いや。入って来い」
まぁ、良くはないと思うが今さらツッコミを入れても仕方ないので入ってくる転校生に目を向けた。
ガラッ、と引き戸を開けて入って来ようとした転校生は────転んだ。
教室内は何とも言えない微妙な雰囲気になってしまった。
多分、ドアのレールに爪先を引っ掛けたんだろう。
「え。あ、わあ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます