喧嘩の理由

俺の前で美空がオレンジジュースを片手に座っている。

陽愛達と行く前に美空からメールが来て俺は陽愛には悪いと思いつつこっちを優先した。


暉にあんなこと言ったからなぁ。それにまだ詳しく喧嘩の理由も聞いてないし。この際だ、最後まで付き合うか。

そう思い俺は美空の話に耳を傾ける。


「その、ごめん。おもいっきり殴っちゃった」

「それは良いんだが、暉と本当に何があったんだ?」

「ん? 暉から全部聞いてるんじゃないの?」


ある程度だけ聞いてはいたが全部ではないため俺は首を横に振る。

それに美空は少しきょとん、としてたが直ぐに顔を戻し俺と目を合わせてくる。


「まぁ、あいつがと歩いてるの見てさぁ、最初はそんなこと知らなかったから浮気かって思って後をつけたの」

「それなら別に大丈夫じゃないのか? 後で知ったなら浮気じゃないって分かったんだから」

「良いから話を最後まで聞きなさい」


言葉を遮った俺は美空に怒られ身体を縮ませて『はい』と答え大人しく美空の話を聞いた。つくつぐ、俺って弱いなぁ。と思ってしまう。


「まぁ、だけなら良いんだけど、その後が腹立って」

「その後?」

美空の言葉に首を傾げつつ話を聞く


「帰り際に従妹の子がね、頬にキスして『お兄ちゃん大好き~!』って言って抱き付いたの、それで暉はデレデレしてるもんだから我慢の限界が来て」

「?──ちょ、ちょとまて。暉がそんな事を許すのか?」


また遮って悪いがこれだけは気になった。美空を溺愛してる《暉が他の女子とそんな事》は絶対にしないはずなのに何でそれを許したのかが俺は気になった。


美空は小さく頷きその表情からは嘘をついてる焦りは無く俺は本当らしいと信じた。



俺は少し顔を下に向けて考え込む。


もしそれが本当なら暉は決してしてはいけない事をした事になる。でも──長年、暉と居てそんな美空を裏切る行為なんてするはずがないって俺は知っている。本当に暉はそんな事をしたのか?


「なぁ、一つ訊くがその相手ってじゃないよな?」

「え、何で分かったの?」

美空は俺の言葉に驚愕していて、その表情を見た俺は納得の溜め息をついて肩を落とした。


やっぱりそうだった。前に『従妹に俺の事尊敬してくれる子が居てさぁ! それがめっちゃ可愛いの! 俺をお兄ちゃんって慕ってくれて一人子の俺には良い響きでさぁ!』と、こんな感じ珍しく美空以外の事で自慢げに話をするから覚えていた。


そして、この喧嘩の真相を知ったら俺は呆れ返った。


「お前なぁ、いくら暉が好きだからって九歳の女の子に嫉妬はないだろ」

「うぐっ!……………そ、そんなの分かってる。九歳に嫉妬とかみっともないって」

「なら、何で謝ろうとしなかったんだ?」

「いや、それは、その………」

美空は段々と顔が俯いて行き、顔の様子も顔が俯いて行くに連れ暗くなって行き、最終的には机と額くっつけて泣き出してしまった。


あー、はいはい、分かった分かった。美空も引っ込みがつかなくてどうしようかって悩んでたのか。

何と無く美空の様子で察した俺は軽く手で頭を抑えてやれやれ、と首を横に振り溜め息をついた。


「はぁ。もう謝れ、お互い謝って終われ」

「………………何か、その言い方に腹立つけど、そうする。話してスッキリしたし、そろそろ帰るね」


美空が立ち上がると同時に俺も立ち上がってそのまま二人でレジまで行き、


「すまん」

「良いよ。今日は奢ってあげる」

そんな会話だけ挟んで、俺達はファミレスを出て行った。



***


「………ねぇ、旭に訊きたい事あるんだけど」

「え。ど、どうかしたか?」


さっきまでお互いに沈黙していたからいきなり話し掛けられ焦ってうわずった声で答えてしまった。


「? まあ、何でも良いけど、何で、そこまでして暉に手を貸そうとするの?」

「そうだな~、これと言って理由はないんだが、暉が落ち込んでる姿見てんのは釈然としないんだよ。あいつは元気で居るのが一番だ」


本当に暉が落ち込んでるのは釈然としない、何時も元気でヘラヘラしてて俺に話し掛けてきてくれるそんな暉が俺は好きだ。


「ふーん。なら──」


美空 は足を止めてクルッと回って俺の方を向いて少し前屈みになりながら、


「じゃあ、?」

「は? 陽愛?……………そうだなぁ、可愛い奴で、人を扱き使う奴かな。現に『買い物したから迎えに来い』ってメールが来てるし」

俺は陽愛から来たメールを見せながらそう言う。俺は陽愛に行くという返信を送ってからスマホをポケットにしまい、


「すまん。行くわ」

「うん。またね…………ほんっと、陽愛には甘いわね」

「? そんじゃあな」

俺は最後に美空が言った言葉が何だったのか聞き取れなかったが、陽愛を待たせると後が怖いから急ぎ足で陽愛の元に走って向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る