一章:本当の始まり
アルシェは旭を嫌う
私は可愛い──
自意識過剰とかでは無く皆がそう言うし私自身も自分が可愛いと思う。
私、アルシェ=ディースは可愛くて仕方ない人気者の高校生である──
***
私は日本人のお母さんとアメリカ人の父のもとに生まれたハーフだ。お母さん譲りの美貌とお父さん譲りの金髪が合わさって私は日本の学校では浮いた存在になっていたが、苛めとかはなかった。むしろ皆に慕われていた。
周りの大人でも同級生でも年下の人でも年上の人でも皆、私を可愛いとか綺麗とかを言って私を褒め称えてくれる。それが嬉しくて皆に慕われてるっていう環境が何よりも失いたくないものだった。
そして、高校生になる時にお父さんの転勤があって違う町へと引っ越す事になった。それは良い機会と思い新しい高校生活を楽しもうとした。
でも、転校初日の最初は本当にドジを踏んでしまった。まさか足を引っ掛けて転ぶとは思ってもいなかった。
最初はヤバい、と思ったけどここで慌ただしくしたり「い~たい~!」なんて古典的なドジっ子の様な事はしない。したらしたで引かれる場合もあるからそんなマヌケな事は決してしない。
もう、ここは平然を保って黒板に自分の名前に書いて自己紹介をするだけ。本当は恥ずかしくて今にでも逃げ出したいけどこんな所で逃げだしたらもしかしたらそのまま陰キャラになってしまうかもしれない。まぁ、可愛い私を放っておくバカは居ないけどね。
「ふぅ。アルシェ=ディースです! これから三年間宜しくお願いします!」
どう! これでもう転けた事に気にする人は居ないでしょ! こんな可愛い女の子が自己紹介したんだから!
教室内を見渡すと皆は呆然としてる様に見えるが、見てる目はうっとりしてるか凄いものを見た様な感じに目を見開いている生徒多数居る。
ふふ……皆、みとれてるわね。
そして、先生に言われるがままに真壁陽愛と言う女の子の隣の席に座る。
「宜しくね」
「はい! 宜しくお願いします!」
ここは明るく返事を返す。まず印象を良くしないとね。
それから休み時間には途絶える事は無く違うクラスの人達も来て質問攻めにあった。でも、これにも慣れてるからしっかりと受け答えをしておく。
はぁ、皆から尊敬をする目線を浴びるだけで私の心は満たされる。
でも──ここ学校で私が知る限り一人だけ私にみとれない奴が居る。
そう───私を “転けた転校生” と呼ぶ宗二旭と言う男が。
そいつと初めて会ったのは廊下だった。教室に戻る途中で何故か倒れてる宗二旭を見つけて声を掛けた。
黒髪短髪、目に少しかかるぐらいの長さ、顔立ちはまぁまぁ整ってる。特別カッコよくもないし、ぶさいくでもない。普通ってところね。目つきが少し鋭い感じ。体格はしっかりしてて大きい。そんな人が何故か廊下で寝ていた。最初は変な人って思ったけど、何か苦しそうな顔をして立ち上がろうとしていたから何か違うと思い声を掛けてやった。
「大丈夫ですか?」
「ん。大丈夫に見えるか? 転けた転校生」
イラッとした。この転けた転校生と言う響きにイライラした。でも──ここでイライラを外にだしたら作った印象を壊してしまう事になるから笑顔を作りもう一度声を掛けた。
「うわぁ、酷い事言いますね。そんな事言う人は助けてあげませんよ?」
これは半分は本心から言ってる事──宗二旭から尊敬の目線は受けない、と言うより嫌われてる感じがして思わず本心が出てしまった。
それから宗二旭と口論が始まり、意地でも私からなのか誰からの手も借りたくないプライドの高いの人なのかと思い、もう直ぐ授業も始まるから放って私は教室に戻った。
それから数分後にお腹を抑えて教室に戻ってきた宗二旭を見た。
***
「旭、今から購買限定のシフォンケーキ買ってきて」
「………あのな? 毎回言うけど俺は陽愛のパシりじゃないからな?」
「良いじゃん、どうせ旭は私には逆らえないんだし」
「………」
陽愛の言葉で口を紡ぐ宗二旭。この二人の上下間系は面白い。反抗する宗二旭を一瞬で弱みで脅して直ぐに従わせる陽愛には何時も感心する。
それでも学習能力がないのか宗二旭は毎回逆らおうとして結局負けている。
「あ、そうだ。旭、美空がな! シェリエのケーキ無料券ありがとうだってよ」
「な!?───お前! いま言う事じゃないだろ!」
「ふーん。そんなのあったんだ」
「いや、その、あ! 母さんが福引きで当ててきたんだ!? だから、あの時は持って無くて………」
「で、言う事は?」
「………………はい、奢らせて貰います」
「よろしい」
やはり面白い。陽愛が何とも言えない威圧感をだしてそれに怯える様に素直に従う宗二旭───この二人は見てて飽きないわね。
これを毎日見たい、と思ってしまうが陽愛も宗二旭のお財布事情を知ってる為に週三回しか行われなくて少し残念。
このやり取り、たまに恋人かなって思うけどこの二人は付き合ってないと言う。それは本当みたいで宗二旭の友人の暉も呆れながら違うと否定された。
そこで不満が生まれる。何故宗二旭は私には告白をしてこない?
いや、理由は明白───宗二旭は私を嫌ってるからそんな事はしてこない。それでも私は不満に思う。
この学校に来て一日たりとも告白されなかった日はない。まぁ、毎日あり過ぎてそろそろ多分全男子生徒(彼女持ちを除く)人達からは告白はし終わるからやっと放課後は休めると思う。まぁ、稀に彼女持ちの男子からも告白は受けたけど全部断った。
私に釣り合う男はこの世には居ない。理由なんてないこんな可愛い私と釣り合う男は存在しないだけ。いや、もしけしたら理想が高いだけかもしれない。
ルックスや収入では決めない。いや、少しはそっちで決めるかもしれないけどそれより一番優先なのは私をどれだけ愛してるかだ。
それが何より一番優先。私は皆に愛される存在で──その中で一番私を愛してくれてる人が私と釣り合う人になる。
愛してるってのは誰でも言えること。物あげるとかお金を積むとかは愛じゃない。それは気を引こうとしてるだけ。
愛をどう説明したら良いか分からないけど、物やお金じゃ証明できないもの。だと私は思っている。
***
「なぁ、転校生」
「ッ───またそれですか? 何時になったら名前で呼んで貰えるんですか?」
人の通りが無い廊下でいきなり後ろから話し掛けられ少し怒り口調で宗二旭に言葉を返した。
この人はまた私を名前では無く “転校生” と呼ぶ。
イラッとする。宗二旭に転校生と呼ばれるとイライラしてたまらない。言っとくけど、これは恋心から来るものでは無く単に私の好きなお母さんからの名前を呼ばない宗二旭にイラついてるだけ。
「で──なんですか?」
「いや、その、お前。嘘をついてて楽しいか?」
「は? 嘘って何がです?」
「いや、だから、作り笑顔をしてまで愛想を振り撒くのか?」
その言葉に私は口を紡ぎ目を泳がせて動揺を隠せていなかった。
そりゃあそうだ。今までバレなかった事が何故かこの宗二旭にはバレてるんだ。
「いや、すまん。間違ってたのなら謝る。でもな、何かお前見てると違和感があって──?」
私はそこで宗二旭の口に人指し指を当て口を止めた。
「ふーん。ねぇ、貴方はこのままキスをされたらどう思う?」
「え?」
私自身も何を言ってるのか分からなかった。宗二旭は疑問に思ったから訊いてきただけだから誤魔化しは効いたはずなのに私は誤魔化す事なんてしないで宗二旭の首に腕を回して間近でみつめてやった。
宗二旭は困惑気味の顔───普通なら嬉しいでしょうにこんなに可愛い私からキスの申し出がでるんだから嬉しくてたまらないはず。まぁ、唇にはしないけどね。
「す、すまん。それは止めてくれ」
「………なんで?」
私はその答えに少し驚いたがその言葉が来るとも思っていたから平然と聞き返す。
「それは、その、分からないが、止めてくれ。それにキスを軽々するもんじゃないぞ?」
うわずった声で言ってくる宗二旭。怯えてる? いや、驚いている感じかな。
「ふっ──本当にする訳ないでしょ?」
「そ、そうだよな。じゃあ、そろそろ──?!」
そう、宗二旭を油断したところで唇にキスをしてやった。
別に良い。キスなんてしてもしなくても同じ事だし、まぁ、それでもファーストキスだったから少し恥ずかしいけど今はそれを押し殺す。恥ずかしくなるのは後、今は宗二旭の反応を見る。
驚愕の顔を浮かべてその場に座り込む宗二旭。その顔には絶望や焦りも見える。
ふふっ───楽しい。
はぁ───私って嫌な女ね。でも、やった以上後悔はしない。それを上手に使うだけ。
「ねぇ、いまの事を陽愛に言っても良い?」
「え、いや、それは!」
「止めて欲しい?」
少し間はあったが、宗二旭は小さく首を傾げて頷き。
「なら、私の言う事聞ける?」
ここはかなり間があったけど、ここもちゃんと頷いた。
「じゃあ、まず一つ──この事は口外しないこと。まぁ、喋って一番苦しむのは誰か分かってると思うけど。後はスマホ貸して」
私は宗二旭のスマホに自分の電話番号とメールアドレスを入れたらその日はそれだけで終わった。
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