文化祭(下の二)

今日の学校は何時も以上に活気立っている。それは当たり前か、文化祭だし。


ここの学校は一般解放されており、文化祭が始まった瞬間、凄い勢いで人が入って来て何処の売店や出し物も人で溢れそうになっている。案外、ここの文化祭は人気があるみたいだな。


**


「じゃあ、次あれ買ってきて」


陽愛が指指した方向にはフランクフルトの出店がある。この前に、焼きそば、たこ焼き、クレープ、とか食って来たのにまだ入るのか。


「流石に太………痛いぃぃ!!」


陽愛が足を踏んでくる。それも今日は珍しくヒールでその踵で踏んで来るからとても痛い。格好も何時もに比べたらお洒落をしていると思う。首元を隠すまでの黒色のハイネックニットにベージュ色のマキシスカートといった感じだ。いや、改めて見たら何時も以上のお洒落だった。俺も今回はそれなりにお洒落をしてきている。紺色のテーラードジャケット、中には白色のTシャツを着ている。下はライトブルー色のジーンズを履いている。自分なりにはお洒落をしたと思うし、陽愛も『うん、良いんじゃない?』と言ってくれたし。


「何? 何か言った?」

「何もない! 何もないから止めて!」

「ふん! なら、さっさと買ってきなさい!」

「はいっ!」


陽愛が足を退けると、俺は急いで出店の方に向かって走って行った。たっく、人が心配して言っているのに何で怒るんだよ。




「はあ」

「何に溜め息ついてんの?」


さっき買ってきたフランクフルトを片手に言う陽愛。俺はそれをちら、と見てまた溜め息をつく。


ああ、これからは控えるとか言っておいて俺を扱き使い過ぎなんじゃないのか? 確かに夏休みの間は良かったけど、二学期に入ってからは前みたいになって来た気がする。


「まあ、良いけど、次は学校の中に行くよ」

「ええ、中はもっと人居るぞ?」

「はあ、仕方ないな」

「!?」


陽愛が手を繋いできた。それも恋人繋ぎと言われる指を絡ませて手を握るやつだ。陽愛は特に何も思って無さそうだが、これは俺にはキツいものだ。でも、嬉しいから振り解けない。我慢するしかないのか。



**


学校の中に入ったら、やはり人は外の倍は居り手を繋いでないと本当にはぐれそうだ。と言うか、何でこんなに人が居るんだろう? 中にはそんなに人気の………。ある。あるわ、俺達のクラスだ。彼処には暉はともかく、アルシェが居るからなあ。行くなら後回しにするか。


「さて、クラス見に行こっか」

「え。行くの?」

「まあ、様子見で」

「………」

「ん? 嫌なの?」

「いや、そういう訳じゃないんだが。混雑してそうだなって」

「うーん。そうかな? まあ取り敢えず行ってみよ」

「そうだな」


余り行きたくもないんだが、陽愛が行きたがってるし、行くしかないのか。




自分達のクラスに向かうに連れて人の混雑が増えて来て中々前に進めない。

やはり、暉とアルシェあいつらが客を呼んでいるんだろうか。


だが、俺はそんな事を考えてる程、冷静ではなかった。何故なら、さっきから陽愛から柔らかい感触が伝わって来るからだ。これは、確実にアレだよな。


「ッ!?」


人の混雑に押されて更に陽愛に引っ付かれて、更に女性らしい丸みと柔らかさが腕に伝わってくる。


ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!? あれ、前はどうしてたっけ? ああぁぁぁ!! 考えられない! くそ、耐えるしかないのか………。


「? 旭、汗凄いけど、大丈夫?」

「ああ、大丈夫、大丈夫」

「なら、良いけど。凄い人だね。うーん、明日はサボろっかな」

「あはは」


伝わってくるアレのせいで思考が全く回らず、苦笑する事しか出来なかった。




**


「おお、すげぇ」

「うわあ、凄い」


教室に着いた瞬間、俺と陽愛は感心の声を漏らした。

教室の引き戸は開きっぱなしになっており、そこを出入りする客は止む事はない。


と言うか、文化祭始まってまだ一時間ちょいだよな、そんな直ぐに広まるものなのか? うーん、そこが謎だが今は気にする事ではないし、順番が来るまで待って居よう。


「ん? 陽愛ちゃん!?」

「あ、夕ちゃん」


短い髪をツインテールにした小柄かな女の子が混雑を通り抜けてこっちに来た。淡い緑色のエプロンを着ており、下はブラウン色のフレアスカートを履いている。

俺は知らないが、陽愛は知っている様子だ。でも、服装が内のクラスの出し物の制服を着ているから同じクラスの奴なんだろう。


「あ、宗治君と一緒か~」


あっちは俺の事を知ってるみたいだが、俺はやはり知らない。うーん、やっぱり思い出せないわ。


「何かあった?」

「その、人手が足りなくて。………ごめん! 宗治君! 陽愛ちゃん借りてくね!?」

「は? え」

「え、ちょっと!?」


陽愛は夕ちゃんと言う奴に強引に引っ張られて行き、繋いでた手も引っ張られた勢いで離されてしまった。

混雑している中を走って行かれてしまい、追い着こうにも追い着けなかった。


茫然とする。

一人取り残されてしまった。さっきまであった陽愛の手の感触やアレの感触は微かに残っている。


「ええ………」


陽愛、陽愛が連れて行かれた………。まあ、うん、諦めよう。今年は無理だったんだ。来年一緒に回れば良いんだ。


がくっ、と肩を落として列から外れようとした。前の方が騒がしくふと、目を向ける。


そこにはさっき陽愛を連れてった奴と同じ服装をしたアルシェが大勢の人に囲まれて居た。


「えっと、あの、通して下さい!」


何か困っている様子にも見えるが、陽愛が連れて行かれて気分が最悪な為に助ける気にもなれない。


そこで、アルシェと目が合った気がした。

直ぐに目を逸らす。気のせい、気のせいだ、もうここには用が無いから早く退散しよう。でも、何か嫌な予感がする。あー、ざわめく声が段々近くになってきてる。首を少しだけ後ろに捻ると、アルシェがこっちに向かって走ってきていた。不思議にアルシェが走る方向には人は居らず、皆壁に避けていた。


おいおい、そこは避けずに止めてくれよ。


俺はこの先の事が読めたから走って逃げようとするが、既に遅し。がしっ、とアルシェに腕を掴まれた。あー!! くそ、仕方ない。陽愛が居ないんだ、付き合ってやる!


「行くぞ」

「え。あ、はい!」


掴まれた手を握り直し、左手に柔らかい手の感触が伝わってくる。



**



「ハァハァ………ふう、ここまでこれば良いだろ」


俺達は全速力で走り、たまにちょっかい掛けて来る奴は無視をするか退かしてでも通って、学校の校舎裏まで逃げてきた。


「で、お前は何で出てきたんだ?」

「それは、買い出しを頼まれて」


買い出し? こいつにか? あの行列はこいつのせいもあるのに行かせるのか。いや、行かせるか、幾ら何でもあの量を十数人でさばける訳もないし、料理する方は絶対に追い着かない。うん、適任だ。暉は多少でも客を惹く材料として居るから残したのか。


「じゃあ、買い出し行くぞ」

「え。一緒来るの?」

「お前が嫌なら行かないが、どうせ陽愛が解放されるまで暇だし、行こうかと」


一通り行く理由は答えたが、これでも嫌と言われるなら行くのは止めて陽愛が解放されるまで一人で時間を潰すか。


くいくい、と服を引っ張られる。


「その、暇潰しなんですか?」

「まあ、そうなる」

「………」


あれ、何か怒ってる? 

身体をふるふるさせて顔を俯かせて、強く拳を握っている。これは、怒っていると判断して良いんだろうか。だとしたら何で怒っているんだ?………………分からん。


「じゃあ、荷物持ちで来て下さい」

「ああ」




で、何でこうなる?

買い出しに行くのに裏手から学校を出て来たのは良いのだが、出てからずっとアルシェに腕をがしっ、と両手を使われホールドされている。陽愛程では内がちゃんと胸辺りに柔らかな感触が腕に辺り、少し顔が熱くなるのを感じた。





それから、何とか買い出しは終わり、クラスに戻ると昼休みが入っており人の混雑はなく教室に入れた。

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