文化祭(下の一)
「旭さん」
私は宗二旭を呼びながら服の摘まんで引っ張る。そうすると、宗二旭は此方に振り向く。
「なんだよ。こんな場所に呼び出して」
ここは屋上。この学校には文化祭の二日目、夕日と共に告白をすると成功すると言う噂がある。噂は噂。絶対じゃない。そして、今日は二日目の文化祭。私の前には宗二、ううん、旭が居る。
袖を掴みながら、じっと旭の目を見る。
「好きです。貴方の事が好きなんです」
私は率直に伝えた。恥ずかしいかったけど、躊躇わず想いを伝えた。でも、私は気づいてしまっている、この告白は成功しないと───。
***(旭視点)
「嫌だ! 俺はぜっっったいに! やらない!」
「今さらぐずるなよ。諦めろ」
文化祭まで残り一日と来たところで、暉が駄々を捏ね始めた。理由は、美空と文化祭を回ったり出来ないからとか。お前が接客をやるのは決まっていたのに、何で今さらぐずるんだろうな。
「うるせー! お前にはんだ分からんろうな!
「知らん。やれ!」
「慈悲もねぇ………だが、諦めんぞ! と言うかアルシェちゃんが居れば客なんて来るだろ!」
「女性客はどうするだよ」
「そんなの他の奴らがやれば良いだろ! 俺じゃなくても来るだろ! と言うかお前がやれ! 旭!!」
「俺はやらんぞ。顔は強面な方だしな」
「ああ? ただ目が細いだけだろ!」
はあ、煩いなぁ。たっくこんな会話を何回繰り返せば納得するんだ。仕方ない最終兵器を使うか。
俺は陽愛に耳打ちをする。そうすると、『了解~』と言って教室を出て行った。暉は端正な顔立ちだし、誰が見ても多分カッコいいと思うから何とかして暉をやる気にさせないと。
「暉、そろそろ納得しろよ。皆はお前が必要だって言ってんだから」
暉は周りに居るクラスメイトを見渡す。
「知らん! お前らこそ俺と彼女の邪魔すんな!」
「はあ、暉、何やってんの?」
「へ?」
そこで、陽愛と一緒に美空が教室に入って来た。美空は呆れた顔をしている。そして、暴れて俺が抑えてた暉の前まで来ると、腕を組み、眉間に皺を作って強気の目で暉を睨み着ける。
「暉? 皆、困ってるの。大人しく役割に従いなさい」
「で、でも、美空と文化祭回りたいし」
「それだけど、私もクラスの出し物に二日間全部出るから無理だよ」
暉は口を大きく開けて悲壮な顔した。俺が抑えていた腕を離すと直ぐ様に地面に腕を着いた。俺はそっと陽愛の隣まで移動する。
「うそ、嘘だ。高校生活初めての文化祭なのに」
「そうだよ。まだ一回目だよ。私達には後、二年あるんだから、今年は我慢しよ」
さっきまで怒っていた美空の顔が次第と和らぎ、屈み込んでそっと俯いている暉の顔を両手で上げる。
「ね、今年は我慢しよ。そしたら、ゴニョゴニョ」
暉に耳打ちをする美空。次第と暉の顔がぱぁぁ、と明るくなって行くのが分かり、
「ね、今年は我慢しよっか」
「うん!」
あれだけぐずってた暉があっという間に言う事を聞く様になった。最初からやれば良かったな。まあ、めでたしめでたしかな。
「ねえ、旭はやっぱりやらないの?」
「うーん。めんどいし、いいわ」
『ふーん。ま、無理強いはしないけど』
珍しい。陽愛が無理矢理言う事を聞かせないなんて。
「あ! 旭ぃぃぃ!! お前は巻き込んでやるぞ! お前もキッチンの方に入れ!」
「いや、普通に嫌だけど」
「ふっふっふ! 俺は知っているぞ! お前が菓子作れるって事をな!」
「あっそ」
だってなあ、暉が知って居ようがこのクラスには俺が料理下手で通っているからそんな言葉信じる奴なんてまず居ないし。
「ちっ………この前のショートケーキ作れ! やれ! お前も巻き込んでやる!」
「俺はそんな物作れないんだが」
「惚けるな!」
あー、ぎゃーぎゃー煩い。俺はそんな物作れないと言うのに。俺は陽愛と文化祭を回る約束をしているんだ、それを邪魔をされたくないから。すまんな、暉、頑張ってくれ。
「ねえ、ショートケーキってどういう事?」
「え?」
「私の時はただのスポンジケーキだったよね。暉には苺や生クリームも付けたの?」
「いや、だって、あの時は材料無かったし」
「正座」
「え。いや、何で?」
「正座」
「………はい」
陽愛の圧力に負けて俺は大人しく正座した。
何故だ、何故、俺は怒られている? それも教室のど真ん中で。
陽愛は腕を組み、眉間に皺を作り俺を上から見下している。まるでさっきの暉と美空だ。だが、一つ違うのは俺に許しがあるのかだ。
「で、何で私と暉にそんな差があるの?」
「いや、だからね。陽愛の時は苺無くて、それに、暉は買ってくれたから作れたのであって」
「てことは、生クリームはあったんだね」
「へ?」
陽愛の怒りの形相が更に悪化する。ああ、何で俺はこんな事で怒られているんだろうか。暉が勝った! みたいな顔しているが、何に買ったんだろうか。でも、ムカつくから後でボコろ。今は、それより、こっちを何とかしないとなあ。
「じゃあ、同じ物を作るって事で」
「そんなけ?」
「え。でも、そんなに食べたら」
「私は太らない体質だから良いの!」
「いや、それはただ体重計に乗らないで現実………何もありません」
そのまま続けていたら、陽愛以外から殺気が混じった視線を受けそうだったので黙る事にした。怖い、何か今日の陽愛、怖いんだけど!?
「じゃあ、パンケーキでどう?」
「パンケーキ? それで満足するとでも?」「陽愛、俺が誰に教えて貰ってるって言ったっけ?」
「…………あー、うん、良いよ」
陽愛の顔は穏やかになり、どうやら許しは貰えた様だ。良かった、結弦さんにパンケーキの作り方も教わっておいて。
そして、今回の事で分かった事がある。陽愛はスイーツの事になると鬼の様に怒るのだと。長年一緒に居てもまだまだ知らない事はあるんだな。
その日、早速、俺が出来る物を全て作らされた。陽愛は全てをたいらげて満足そうに家に帰って行った。
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