文化祭:(上の二)
「よし。暉くえ」
「うん。それは今から実験台する奴に言う言葉ではないぞ!」
「はあ、文句言わずくえ!」
「ええ………仕方ないな」
暉はフォークを手に取り、俺が一から作ったショートケーキに刺す。一口サイズぐらいをフォークで取って口に運ぶ。
「………正直に言って、旨い」
「ほんとか?」
「いや、マジで、旨い」
暉は旨いと言ってくれるが、何だか不満足そうな顔をしている。やはり、お世辞で言ってくれたんだろうか、陽愛は美味しいと言ってくれたんだけどなあ。あれもお世辞だったか。
「そんなに不味いのか?」
「いや、旨いんだって」
「じゃあ、何でそんなに不満足げな顔をしてんだ?」
「だって、よう……美空より旨いだもん! 可笑しいだろ! つい最近まで真面に料理が出来なかったんだぞ! 菓子を作るのが上手くなったってのは知ってたけど、上手くなり過ぎだろ!!」
怒声を上げて早口で言う暉の勢いに押されて『お、おう』としか返事が出来なかった。
それは褒めているのか、彼女より作るのが上手くなっていて怒っているのかどちらなんだろうか。いや、もし彼女よりの方だったら怒られる理由が無いから怒り返すのだが、もし褒めてくれていたんだったらそれをするのも悪い気がして言い返せない。
「で、こんなの作って文化祭で出すのか?」
俺は首を横に振る。すると暉は不思議そうに首を傾げた。
「じゃあ、何で作ってるんだ?」
「脅されたから?」
「おど、え? あー、陽愛ちゃんにか」
今回は違う、結弦さんからだけど、言っても分からないだろうし、そのまま陽愛だと解釈してくれてた方が良いし黙っておこう。
「まあ、何でも良いけど、進展あったか?」
「ん? 何の?」
「何のって………」
呆れ顔になる暉は肩を落とし、はあ、と深い溜め息をつかれた。
「陽愛ちゃんとのだよ。あれから少しでも進んだかって」
「………」
首を横に振る。暉は口を尖らせつまんなそうな顔して、ふーん、と意味ありげな返しをしてきた。
する訳がない。だってその気持ちは奥底に閉じ込めて居るんだから。それを、思い出させやがって。
俺が黙りを決め込んでいると暉からこんな事を言われた。
「陽愛ちゃん、告白されたってよ」
「え!?」
俺は驚き、椅子から勢い良く立ち上がる。その時に机に膝をぶつけたが、それを気にする事はなく暉に訊いた。
「おい! 断ったのか! それは断ったのか!?」
「それは、知らない」
「はあ? 何で知らないんだよ」
何で告白された事は知っててその先走らないんだよ。
暉はショートケーキを食べながら、
「でも、もぐもぐ、自分で、もぐもぐ、訊けばもぐもぐ、良いだろ」
途中、途中、物を食ってて何をいっているか分からなかったが、自分で訊けばか、確かにそうなのだが、どう訊けば良いんだろう。
「なあ、どう訊けば良いと思う?」
「うーん。ストレートに」
暉に訊いた俺がバカだった。それが出来ないから訊いたのに。
「はあ、帰るわ」
「ケーキサンキューな!」
**
「………」
今は陽愛と一緒に皿洗い中。陽愛がスポンジで食器を洗い、水で流したら俺がそれを受け取り布巾で拭いて行く。
帰ってきたのは十五時頃、今は十九時だ。未だに告白されてどう答えたのかを訊けていない。いや、だって、どう訊いたら良いか分からないし。
「旭、私さあ、告白された」
「ッ!? ふ、ふーん、それで?」
自分が訊こうとしていた事を陽愛から言われびっくりしたが、何とか平常心を保てて、続きを訊いた。
「断ったよ」
その言葉だけで今まで心に掛かっていた重りが外れて、嬉しい気持ちが心に広がった。
「そっかー! そうなのか! まあ、陽愛は断ると思ったよ!」
「? う、うん」
やべぇ、嬉しい気持ちが溢れてくる。顔に出てないだろうか、そこが心配だけど多分にやけてるだろうな。えへへ、陽愛は断ったのかあ。
***(──視点)
私は最近、日記を書いている。今まで日記を書いた事が無いから何を書けば良いか分からないけど、取り敢えず”自分の変化について”書いている。
これはその中で一番新しいページだ。
最近、一人の男の子を見ていると顔が熱るのを感じる。何故だろう?。今までそんな事はなかった。見てても、こいつね、程度だった。はあ、どうしてしまったんだろうか、私は。変わったのはやはりあれからかな。助けて貰った時。そう、あの時から気になって仕方がなかった。たまにお弁当を渡してあげるけど、その人には既に作ってくれる人が居て、邪魔だと私は思ってしまう。でも、その人は受け取ってくれる。ちゃんと空にして。もしかしたら棄ててるのではないかと思ったけど棄てず食べてるのをこの目で確認した。嬉しい、嬉しい、凄く嬉しい。その人が旨かったと言うだけで歓喜が溢れてしまう。ほんっと、どうしたんだろうか私は。
旭、貴方はどうして私の心を揺らすの?
貴方のせいで私がどれぐらい苦労してるとも知らずに。
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