二章:文化祭
文化祭:(上の一)
文化祭。それは高校生活における一大イベントだ。そして、俺が通う高校には一つ文化祭にまつわる噂がある。まあ、良くある男女が何かしたら結ばれるって言う迷信だ。えっと、確か、校庭の木の下で告白だっけ? あれ、後夜祭で告白するとだっけ? うーん、眠たくて頭が回らん。でも、確かそこら辺のやつだった気がする。
***
十月になって来てぼかぼかとした気温が続く様になり、そのせいで眠たくなる事も多々ある。正に今の俺だな。すっごく眠い。後少しで授業になるのにこんなに眠いとは。あ、最近は真面目に授業を聞いてノートを取っているからな。段々と成績も上がってるのに小遣いは上がらず。まあ、でそこはどうでも良いけど。でも、バイトの時給が上がったからそんなに金銭には困ってない。
がら、と音が鳴り引き戸が開いた時、俺の意識は眠りへと着いた。
***
「ねぇ──」
誰かが声を掛けてくる。煩い。俺はまだ寝てたいんだ。
「ねぇ、ねぇったら!」
煩い! 誰だよもう………。
ちょっと苛々気味で目を開ける。だが、まだ寝ぼけている俺はこの声の主に気づいてはいない。
「あ、やっと起きた」
目を開けたらドアップで陽愛の顔が前に現れる。思考提停止。だが、直ぐに身体を起き上がらせ勢い良く後方に下がる。
「び、びっくりしたあ……」
「いや、びっくりしたのはこっちだから」
まさか、起きたら陽愛の顔がドアップであるとは………。
「で、何か用?」
「今さあ、文化祭で何をするかって話で」
陽愛はそこで言葉を切り、黒板を指指す。そこには、
喫茶店。
お化け屋敷。
演劇。
うわあ、見事に定番物が揃ってるな。うーん、お化け屋敷だけは嫌だし、二つから選ぶなら、
「喫茶店で」
「理由は?」
「料理出来ない、顔は強面な方(暉から)だと言われてるから」
「要するに、楽が出来ると」
流石、陽愛だ。俺が言わなくても分かるのはお前だけだよ。理由としては、お化け屋敷は自分が苦手だし、演劇は役が無ければ小道具とかを作らされるか、買い出しを頼まれたりするからバイトの時間が減る。と、そこで喫茶店なら俺は何もしなくて良いと踏んだ。
「ん? なあ、旭、お前──いってえっ!!」
何かを口滑らそうとした暉の頭に思いっきりチョップを入れる。頭を抑えながら此方を睨んでくる暉に睨み返すと、あ、と声を漏らしすまんと謝って前を向いた。
それで良い。俺が最近、お菓子類なら作れる様になったとは言わなくて良いんだ。
「じゃあ、もう一回『喫茶店』と『演劇』で多数決するよ~」
黒板の前に立つクラスの委員長がそう言い、陽愛は自分の席に戻り、そこからは争いが続いた。
元々喫茶店と演劇に票を入れた人達が口論を始め、そこでお化け屋敷に票を入れた人達が巻き込まれて行った。
最終的には喫茶店で決まったけどな。
「まあ、そんな感じで遅れたんで許して下さい」
俺はバイト先である『シェリエ』に来た早々にオーナー兼料理長の結弦さんに殴り飛ばされて、何で遅れたかと訊かれたから正座をして答えた。
殴る前に聞いて欲しかったとは結弦さんの形相を見たら言えなかった。だって怖いし、次は近くにあった包丁で刺されそうだったし。
「ほう、文化祭か」
「懐かしいわね~私達も喫茶店やったっけ?」
「知らん。俺はカツアゲしてたし」
「あー、やってそう」
「ああ? どういう意味だ、ゴラ!」
胸ぐらを掴まれ鋭い眼力で一睨みされる。ひぃぃ! 理不尽だ! てか、そこでニコニコしながら見てるんじゃなくて助けて! 七海さん!
そんな思いが通じたのか、七海さんは結弦さんの後ろに立ち肩にぽん、と手を乗せる。ああ、これで助かった。七海さん、何時も変な人だって思っててごめんなさい。前に厨房で結弦さんとイチャコラしてたのも忘れます。
「ゆづくん、やるのは良いけど、その後の掃除が大変だから止めてね」
「………分かった」
結弦さんは、ぱ、と胸ぐらから手を離して、俺は尻もちを着いた。はあ、助かった。でも、何でか釈然としない。店長、それは本気で言ってないですよね?
「店長、さっきのあれは」
「………………(ニコッ!)」
七海さんは満面の笑みをして行くと早々にホールに走って行ってしまった。あの野郎………後で絶対仕返ししてやる!
「おい、何棒立ちしてる。やるぞ」
「あ、はい!」
結弦さんがさっき焼いておいた生地をオーブンから取り出す。香ばしい匂いが鼻を擽る様に通ってゆく。この香ばしい匂いを嗅ぐと自然とお腹が鳴ってしまう。
さてと、俺も配置に着きますか。
俺は結弦さんの横に少し離れて立つ。じゃないと結弦さんに邪魔だと怒られてしまう。
「………」
いつの間にか、目の前に美味しそうにデコレーションされたケーキ達が並んでいた。いつの間に作ったんだ? と何時も思う。
結弦さんは天才と表すべきか、いや、それしかない。結弦さんがスイーツ類を作る早さは尋常ではない。ふと、後ろを振り向けば、さっきまで生クリームや添い付けする苺を準備してた結弦さんの机の上には既にケーキ(飾り付け済み)が置かれている。
実家が料理店の様で小さい頃からずっと作り続けて居たら出来る様になったとか。今でもそんなので納得はいってない。だって、そんなけでここを回せれる訳がないんだから。
俺はそれにちょっと飾り付けを手伝うだけ。半分に切った苺とかハーブをケーキの隣に置くだけの仕事だ。そんなので給料を貰えるんだから、楽だよなあ。
と、思ってはいけない。結弦さんは確かに作るスピードは早い。でもな、それは天才だから出来る事で凡人の俺は着いて行く事は出来るはずもない。
飾り付けが終わったと思ったら、次のやつが並べられ、また出来たと思ったら、次の次の次のやつまで作られている事もある。それに別々の飾り付けをするんだぞ、楽な訳がない。
慣れてきた今でも追い付かせる精一杯だ。
「ふう」
疲れ気味の息を吐く。仕事は終わり、今は結弦さんと厨房の椅子に座り休んでいる。
「なあ、お前はクラスの出し物を手伝うのか?」
「自分は何もしませんよ」
飾り付けを手伝うだろうけど、それは別に言わなくて良いと思ったから言わない。
「ふーん。あれだったら教えてやろうか? 菓子の作り方」
「え」
意外だ。前に冗談で、教えて下さいよ~、と言った時にはマジギレされたから、今の発言は驚きだ。
「その代わり、俺から教えて貰った事は他に教えるな。これが守れるなら教えてやる」
『
「うーん。いいっすわ。そこまで…」
「俺に教えて貰う。いいな?」
言葉を遮られ、俺の胸ぐらを掴んで言う結弦さん。最早、脅しだ。何でそこまで教えたがるのか分からないんだが、ちら、と斜め下を見たら、強く握られた拳があった。仕方ない、大人しく教えて貰うか。
「はい。お願いします!」
「よし、なら今から教えてやる」
「え。今から?」
「なんだ、不都合か?」
今は夜の十九時。帰れば陽愛が夕飯を作って待っててくれている。俺はやはりそっちを優先してしまうみたいだ。
「すみません。明日からお願い出来ませんか?」
「分かった。まあ、はよ帰ってやれ」
「ん? はい!」
結弦さんの言葉に何か引っ掛かる部分があったが気にする事は無く俺は帰宅した。
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