一章:夏休みに入るまで
勉強会………?
「なぁ、陽愛。ここ何?」
「はぁ。何度目? それ聞くの?」
呆れられてしまった。うーん、そんなに聞いたか? 多分そんなに聞いてないと思うんだけどなぁ。三回ぐらいだと思う。
陽愛は呆れつつも教えてくれた。あの一件から陽愛何かと優しくなった。俺が困ってれば直ぐに、どうしたの? と訊いてくる。まだ陽愛は買えなかった事に対して悔いがあるんだと思う。別に俺は気にしなくて良いと言ってるんだけど本人は気にしてしまうらしい。そこは陽愛の優しさが出てると思ってるから最近は何も言わず、陽愛が普通にしてくれるのを待つ事にした。あ、因みに陽愛がくれた腕時計は出掛ける時には必ず付けて行く様にしている。
「なぁ、雛型ここは?」
「………………ねぇ、旭、少しは自分で解きなさいよ」
「うーん。全部分からない場合はどうしたら良い?」
俺と陽愛の間に沈黙が入る。でも、直ぐに陽愛は頭を抑えて呆れた溜め息をついた。
「旭、授業中何してる?」
「いや、特に何も」
「じゃあ、ノート見せて」
そう言われたので、素直に鞄からノートを出して陽愛に渡す。
「………」
陽愛は無言で固まる。でも、捲って行くスピードは徐々に上がって行く。うーん、そんなに変なの書いたかな、普通に先生に書けとか言われた部分を書いてるだけだと思うんだが。
ぱたん、陽愛がノートを閉じる。そうすると大きくて長い溜め息をつかれた。あれ、何かめっちゃ呆れられてる?
「旭。ノートは真面目に取ってるのよね?」
「え」
何故、そんな質問をするのか分からないが、一王寺答えておこう。
「取ってはある。でも、ちょっと抜けてるかもな」
「ちょっとじゃない! かなり、かなりよ!! 何で、どのページもたった数行で終わってるの!?」
怒鳴られた。陽愛は眉間に皺を寄せて睨む様に俺を見てくる。凄く怒ってる。そんなに怒る様な事か? と思うが陽愛は凄く怒っている。
「あのねぇ、これだから中学の頃は何時も赤点“ギリギリ” だったのよ?」
ギリギリの部分だけ強く強調された気がする。でも、赤点ギリギリと言う事は赤点は取ってないんだぞ。勉強も碌にしてないのに、赤点だけは取らない、そこは褒めて欲しい。
「てか、良い点取って何があるんだよ」
「それは、進学とか」
「いや、俺は大学行かないし」
「………」
教えて貰っておいて、身も蓋もない事を言ってるが、全部本当の事だ。勉強して良い点取って何がある? 俺は大学に行く気なんてないし、勉強しても無駄だと思うだけだ。
まぁ、今回は少しヤバいから話は変わってしまうが。母さんに言われてしまったんだ、次の期末テストでまだ赤点ギリギリだったらら小遣いを減らすってな。それは俺にとって一大事だ。親からの小遣いとバイトで切り盛りしてる俺の金銭面。バイトの稼ぎは殆ど陽愛に使われてしまうから、親からのが減るとかなり困る。だから、今の言行は軽率なものだ。せっかく教えてくれてるのにあの言い草はないと今さら後悔している。
「陽愛、ごめん」
こう言う時は素直に謝る。まぁ、許してくれなかった時は母さんに土下座するんだな、それでも駄目だったらもう諦めるしかない。
「よろしい」
「………帰り、シェリエのケーキセット奢るわ」
「うん」
こうやって自分から使う時もあるから、陽愛に強く言えないのだが、でもな、脅して取って行くんだから心の中で愚痴は言っても良いよな!?
「あ。そろそろ帰らなきゃ」
今は学校の図書室。そして時間はとっくに十七時は過ぎている。うーん、結構付き合わせてしまったな。
陽愛はどうやらお母さんから買い出しを頼まれてるそうだから、シェリエはまた後日になり、俺は買い出しにお供する事になった。
***
お互い夕食、風呂とかを済ませて今は陽愛の部屋でまた勉強中だ。何時もなら俺の部屋でやる事が多いのだが、外は暗くなるからと俺が今回は陽愛の部屋に来た。白無垢な壁で床は薄く桃色が入った白色で、上から白色のカーペットが敷いてある。ベットの色とか布団も白色だ。陽愛曰く、『シンプルが一番』だそうだ。でも、ベット側とかには熊のぬいぐるみとか猫といった動物のぬいぐるみが多少なりと目につく。そこは女の子らしいと思ってしまう。後は本棚があるぐらい。その中は参考書が多いが漫画とかもある。
「うーん。ここ何?」
陽愛は手を止めて持っていたシャーペンを置くと、呆れた様子で俺の方に近寄って来て、何処? と訊いてきた。陽愛は風呂上がりだから良い匂いがする。ん、シャンプー変えたのか? 前と違う匂いがする。でも、良い匂いには変わりない。って、俺は変態か。そんな事より勉強に集中しよう。
「ねぇ、聞いてる?」
「ん。ごめん、聞いてなかった」
「はぁ。じゃあ、もう一度だけ説明するわよ? 次はちゃんと聞きなさい」
「はい」
陽愛の優しさに甘えてもう一度説明を聞いた。それからも陽愛に聞きつつ、自力で問題を解いたりして時間が進んで行き………。
「ん? 陽愛?」
肩に重みがあると思ったら陽愛が凭れ掛かっていた。すやすや、と気持ち良さそうに寝ている。壁に掛けてある円形の時計に目をやるの、二十二時になりそうだった。陽愛は何時も二十一時に就寝するから、限界が来てしまったんだろう。俺は何時も零時過ぎまで起きてる事があるから別にどうって事ないが、これ以上陽愛に無理をさせるのもあれだし、帰るか。
陽愛を起こさない様にこ~っそりと動く。身体が動かせる様になったら、まずベットの方の布団を捲る、そしたら陽愛を抱っこしてベットまで連れていく。最後に布団を掛けてあげる。言っとくが、何もする気はないからな? 陽愛にそんな感情を──抱いた事をないとは言わないが、後ろから視線を感じる時に襲う程バカじゃない。だからと言って無いなら襲う訳でもないからな?
俺は振り向いて視線の正体を見る。ドアを少し開けてこちらをじっと見ている陽愛に似た若い女性に見える人。陽愛のお母さんだ。四十過ぎてるとは思えないぐらい肌には潤いがあり、若々しく見える。これで俺の母と同年代と言うのだから凄い。俺の母さんは、まぁ、鬼だ。あれは人間じゃない。
「あの、何してるんですか?」
「チッ………うーん、何も?」
あれ、今、舌打ちしなかった? え、何でしたの? 舌打ち………。
「あの、何で今、舌打ちを?」
「ん。したかしら私?」
あー、あのとぼけ顔はこのままとぼける気満々だな。この人は何時もそうだ。俺が陽愛の部屋に来ると大抵こっそり見ている。でも、陽愛も俺も気づいているから意味はない。
「ふふ、旭君、今日はもう遅いし泊まって行く? 勿論、陽愛の部屋で!」
「泊まる訳ないでしょ。と言うか家隣ですし」
「………はぁ、さっさと既成事実作れば良いのに」
「え? 何て?」
「いえ、何も」
ちゃんと聞こえていたさ、でもなこれは無視をしないといけないと思ったから聞こえてないふりをした。この人は娘をなんだと思ってるんだ。
「旭君。陽愛を襲ったりしないの?」
「しません!」
もう隠す気が無いのかドストレートで来た。まぁ、言い切るけど。しないってな。
「ふーん、陽愛なら喜ぶと思うわよ?」
「いや、喜ぶとかじゃなくて。そう言うのは二人の了承があって───いや、もう良いです」
これ以上この人と話してると何か違ものが出てきそうになり話を中断させた。陽愛のお母さんは不満げな顔していたが、無視だ。これ以上構って要られない。
「では、お邪魔しました」
「うーん、陽愛をお持ち帰りする?」
もう、俺は黙って玄関のドアを開けて、スタスタと早足で出て行った。
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