やはり、お人好しの様です
陽愛と喧嘩して二日経った。未だに俺と陽愛は喧嘩中だ。今の所は許す気はない。たまには陽愛にも困ってもらうぞ。
「旭!!! 浮気は許さんぞぉぉ!!」
ドアを勢いよく開けたら、怒鳴り声を上げる暉。俺はそれにびっくりして暉を見る。教室内もそれにびっくりしており、皆の視線が暉に集まっている。暉は何故か怒った様子で此方に速歩で近づいてくる。
「旭よ。浮気をしたのなら、大人しく懺悔しろ」
「いや、なんの話だよ」
まず話が理解出来ない。だって、浮気もなにも、俺は誰とも付き合ってないし。それで何でそれに暉が怒るんだよ。
暉は前の席の椅子を俺の机の方に向けて座り、机に肘を着けて顔の前で手を組むポーズをする。なんだろう、刑事に尋問されてる気分になる。された事ないけど。
「じゃあ、まず、そのお弁当は誰に貰った?」
「うーん。まぁ、うん」
「答えになってねぇよ! お前は今は陽愛ちゃんと喧嘩中なのに! ここ最近手作り弁当を持っていること事態が可笑しいんだよ。ほれ、誰に貰った?」
なんだよそれ、俺が手作りのお弁当を持っていたら可笑しいのかよ。誰に貰ったか、言ったら言ったらこの教室内、いや、廊下に居る奴らから殺気の視線が送られる事は間違い無しだから言いたくないんだけどなぁ。
「母さんが作ってくれたんだよ。たまにはってな」
ここは嘘を言っておこう。母さんが作るはずはない。陽愛ちゃんが作るんだから私が作ったら駄目でしょ、と意味有げな感じに言われた。でも、暉はその事を知らないから多分、信じるだろう。
「ふーん。違ったか。俺はてっきりまたアルシェちゃんに貰ったのかと思ったんだが。うん、すまん、疑って」
「いや、いいよ。別に」
なら、いいや、と暉の勘違いだと分かり何処かに行ってしまった。ふぅ、騙せたな。あいつ変な所で勘が良いな。これからは要注意と。
「ん?………」
スマホから通知音がして、ポケットから取り出して見ると、陽愛からだった。少し戸惑ったが、そっと鞄にしまい無視した。それからも通知音をしていたみたいだが、鞄の奥にしまったから俺には聞こえて来なかった。
暉が出て行って数分した所で、陽愛が教室の引き戸を開けて入ってきた。俺は少し目を其方にやったが直ぐに目を逸らす。え、待って、あいつ、泣いてなかったか?──いや、見間違いだな。多分、目薬でも差したんだろ。………やっぱり、泣いてたのかな。だが、ここからじゃあ陽愛の後ろ姿しか見えない。見に行こうとしても今は喧嘩中だ。見に行ける訳がない。でも、気になる。
そんなもやもやがあるまま、昼休みも終わり、五時間目、六時間目と終わって行き、
「あー、くそぉ…」
駄目だ、気になって授業に集中出来ない。まぁ、無くても授業なんて適当に受け流すけど。
陽愛………
鞄からスマホを取り出す。電源を付けてみたら陽愛からのメールが沢山来ており、少しびっくりした。今もまた陽愛から一通のメールが飛んできた。俺は急いで開く。もう構ってられない、陽愛が泣いてたのなら、多分俺のせい?………なのかな。分かんないけど、そうだったら嫌だ。
『旭。十九時まで帰ってくるな』
「え。どいうこと?」
陽愛が送ってきたメールに俺は首を傾げてはてなを浮かべるだけ。意味が分からない。上の方も見ると文字が一門一句全て同じものしかなく少しビビった。
「これは、帰らない方が良いのか?………うーん」
今は十六時。あと、三時間もあるのか、俺にその間どうしろと。てか、今日は親二人共が遅いから早く帰って飯………まぁ、カップラーメンだけど。それでも珍しく二人共が遅いからゲームをやっていても煩く言う人が居ないから早く帰りたいんだが。
「仕方ない。うーん、暉とゲーセンでも行くか」
今は一人でゲーセンに来ている。暉は美空とデート中とかで断られたから一人だ。ケッ、バカップルが。まぁ、羨ましいとは思わないけど。
また百円を入れて、ステッキを動かしたり、巧みにボタンを押してコマンドを決めていく。金はもう要らない。『GX5』は諦めた。あんな物は大人になってから買えば良いんだ。今はまだ千円の物か、あれだったら百均の物で我慢しとけばいいし。そう考えると俺は何に怒って居たんだろうな。これも、陽愛に謝ろう。
そこで、メールの通知音がする。陽愛からだ。メールの内容はもう帰って来ても良いと言うもの。はぁ、一時間も早いじゃん。まぁ、いいや、帰ろ。
***
「お誕生日おめでとう」
「へ?」
家に帰ってきて、リビングに入ったら早々に陽愛にそう言われた。誕生日? 誰の? 陽愛の誕生日は十二月だから、今は六月…マジで、誰の?
「ごめん、誰の?」
「いや、あんたのでしょ」
「俺?………ん、そうだっけ?」
「何で、自分の誕生日を忘れてるのよ」
陽愛は呆れた感じに言う。うーん、マジで忘れてたけど、本当に今日なのか? 俺の誕生日は。少し考える。………………………
「今日だっけ?」
駄目だ、自分の誕生日が何時なのか忘れてる。まぁ、全く興味が無いから忘れてても仕方ない。
「まぁ、いいから………………はい」
陽愛は顔を外方に向けて、少しだけもじもじしながら四角形で厚みのある箱を渡してきた。白と青のしましま模様のラッピングに包まれている。それに、陽愛の顔が少し赤い気もする。外方を向いてるから髪に隠れてて良く分からないが。
「えっと、ありがとう」
俺はそれを受け取る。陽愛はこっちをちらちら見てくる。うーん、可愛い。本人に言ったら殺されそうだから言わないけどね。
「開けても良いか?」
「………うん」
陽愛から了承を貰えたから、俺は早速開けようとする。案外楽しみだ。陽愛からのプレゼントは………何時ぶりだっけ? 記憶にあるのは中学一年の頃かな。その時も誕生日ブレゼントだった気がする。
「ん? 時計?」
クリアなケースに入ってるは腕時計。
「ごめん、その、結局お金足りなくて旭が欲しがってたの買えなかった」
「いや、いいよ。これはこれでカッコいいし」
「ほんと!?」
あまり目立った装飾品はない、黒一色で少しゴツゴツしたフォルムだ。でも、良い。陽愛が選んでくれたってのが嬉しいから。
「ん。なぁ、まさか、これ渡すのに俺に『
「まぁ、そうだね。本当にごめん、旭。旭が欲しい方は買えなかった」
「だからいいって。俺はこれが気にいったから」
「う、うん」
うーん、本当にこれで良いんだけど、陽愛は納得が行かない様子だ。
「陽愛。ごめんな」
今しか無いと思ったから謝る。この “ごめん” には謝りたかったものを全部込めた “ごめん” だ。
「いや、旭が謝る必要は無いでしょ」
陽愛には伝わってない。それで良い、陽愛に伝わったても伝わってなくてもどちらでも良い。これは俺が謝りたくて謝ってるんだからな。
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