怒る時は怒る

「あ、旭」

「………」


陽愛が俺を呼ぶ。でも無視だ。それでも陽愛は諦めずに俺を呼んでくる。


俺だって怒る事ぐらいある。陽愛はあれからも何度も俺にせがんで来て昔の事で脅して何かを買わせようとしてきた。そのお陰で『GX5』を買える金が無くなってしまった。俺はそれで怒った。いい加減にしろ、と。確かに渡す俺も悪い、だけど、欲しい物を買おうとしてるって分かってるのに弱みで脅して買わしてくれないんだ。誰だって怒ると思う。


「旭!」

「………」


そこからは俺を呼ぶ声はしなくなった。多分諦めたんだろう。今回は本気で怒ってるからそう簡単には許さないぞ。


***(陽愛視点)


旭が怒ってしまった。勿論、怒った理由は分かってる。私が悪いだって。でも、旭にを買われてしまったら全部が無駄に終わっちゃうからどうにか買わせない様にしないといけないの。


「旭」


駄目元で旭に声を掛けてみる。案の定、返事は返ってこない。相当怒ってる。後二日で仲直りしないといけないのにこれは、大丈夫かな?


***


「うーん。旭なら直ぐに許してくれると思うんだけどなぁ」


旭とどう仲直りしたら良いか分からなく美空に放課後、何時ものファミレスで相談をしている。喧嘩なんて小学校以来だからどう仲直りをして良いか分からなかったから、何時も暉と喧嘩しては仲直りを直ぐしてる美空に相談したってわけ。


「多分、無理。旭、今回は相当怒ってるから」

「そんな事ないでしょ、相当だろうが陽愛が可愛くお願いすれば良いでしょ!」

「か、可愛く?」

「そうそう、上目遣いとか可愛い格好をしたりして旭が無視出来ない現場を作れば良いんだよ!」

「うーん。そうかな」


旭は私なんかに見向きもしないと思うんだけど。それでも、やってみようかな。後二日で仲直りしないといけないんだから、手段なんて選んでられないしね。


「えっと、可愛い格好って何すれば良いの?」

「うーん。メイド服とか?」

「え? メイド服!?」


私は“メイド服” という言葉にびっくりして机をバンッ、と手で叩き立ち上がった。


「そんなに驚くこと?」

「いや、だって、メイド服ってあれでしょ、その、えっと、女の子がご主人様にご奉仕する」

「んん? その、ごめん。多分想像してるのとはちょっと違うと思う」

「そ、そっか。じゃあ、何するの?」


どうやら、私が思っていたメイドは美空が言うメイドとは違うみたい。メイドってご主人様に逆らえなく拒否権無しに───!?


首を横に振って想像をした光景を頭から完全に消す。


「まぁ、メイド以外にも色んなの可愛い服とかもあるから、着てみたら?」

「着てみたらって、何処で着るの?」

「うーん。うち?」

「え。美空の家にあるの?」

「うん。まぁ、あるよ」


美空の顔からして、多分この事は訊かない方が良いんだと思う。うーん、暉かな。


「ん?」

「どうかした?」

「………やっぱり無しで。家に来るのは無しで!!」

「え? 何で?」

「いや、だって………サイズ合わないじゃん」


あ、そっか。美空と私は背丈が違うから、私が着たらキツいのか。でも、何で美空は私のを凝視してるんだろう? それも、少し嫉妬が含まれる目線で。


「やっぱりいいな~、陽愛は大きくて!!」

「えっと、それは背か………胸のどっちを言ってるの?」

「そんなの決まってるでしょ!  胸だよ! 胸!!」


怒鳴り気味で言われてしまった。どうせなら、背の方が良かったけど、やっぱり胸なんだ………。これからめんどくさくなる事を覚悟して美空の話を聞く。


「ねぇ、何でそんなに胸大きいの?」

「何でって言われても。うーん、遺伝?」


私のお母さんも大きい方だから多分そっちの遺伝で大きくなったんじゃない? 美空は下向き、自分の胸を凝視する。


「はぁぁぁ」


少しすると美空は凄く重たい溜め息がをした。思わず身体の動きが止まってしまった。重いし、長いよ!? 段々と話もずれてきたし、そろそろ帰りたい。


「もう、さぁ、その胸で旭を誘惑したら?」

「いや、それは流石に」

「そっか。旭なら直ぐに落ちそうだけどね~」


落ちる? 何に? 分からない。それでも、対して気にならないから訊かないけど。




「………旭」


今回の旭は相当怒ってる様に見えたから、許してくれるだろうか。何時も通りに昔の事で脅しても良いだろうけど、何かが違う。そんな事で仲直りしても更に旭との仲が悪く、広がって行くだけな気がした。


「陽愛」


子供を叱る親の様に私の名前を呼ぶ美空。身体が思わずビクッと震えてしまった。


「な、何?」

「旭の事なら陽愛が一番理解してるでしょ?」


その答えには少し戸惑ってしまう。私が旭の事を一番理解してると言われれば、してないと答えてしまう。でも、今は誰よりも旭の事を知ってると言いたい。


「うん」


この頷きが出来ただけで何だかとても嬉しい気持ちになれた。旭の事なら誰にも負けないぐらい知ってる。その証拠に昔の事なら何でも覚えてるもん! って、何で威張ってるんだろう。


「ならさぁ、旭がお人好しなのも分かってるんだから、素直に謝れば良いじゃん」

「………だって、旭が珍しく怒ってるから、どう謝れば良いか分からないじゃん」


だから、と呆れた様子で首を落とす美空。


「旭なら絶対に許してくれるって! あいつは陽愛には甘々でしょ?」


私に甘々なのかは知らないけど、今まで喧嘩した時も素直に謝れば旭は何時も許してくれていた。だったら、今回も──。


「うん。甘々なのから分からないけど、素直に謝ってみる」

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