皆と遊園地(下)

別にお化け屋敷が怖いと言う訳じゃない。でもな、人には得意と不得意があるんだ、俺はが苦手だ。そうつまり不得意がこのお化け屋敷にある訳で、


「で、御託はどうでも良いから入るよ?」

「………ひ、陽愛、やっぱり俺はまだ体調が優れないから」


陽愛は半目で蔑む様な視線を向けてくる。なんだよ、本当に怖くはないんだ、本当にただ暗闇がちょっと苦手なだけなんだ。意識がある状態で視界が真っ暗になるのは、少し怖い……。


陽愛は肩を落として溜め息をついた。そうしら、俺に笑顔を向けてきて、分かってくれたのか、やっぱり陽愛は!


「はい、行くよ~」


うん、分かってた、陽愛はそういう奴だって。仕方ない、ここまで来たのなら、入るしかないか。


***


ピタッ、と何か冷たい物が額に当たる。


「ぎゃゃゃ!!」

「うるさ」


仕掛人の誰かがおどかしてくる。


「うわぁぁぁ!!」

「だから、うるさいって。それに全然怖くないでしょ?」


ふぅぅ、と耳に生温かい風が当たる。


「ひぃぃぃ!! ん? 陽愛!!」


両隣に陽愛とアルシェが居るんだから耳に生温かい風が当たる訳がないんだ。これは、絶対に陽愛だ。クスクス笑ってるしな。


「あ、旭! こ、こここ、怖がり過ぎ! あ、ヤバい、お腹痛い!」


お化け屋敷で高笑いとか何か異様だな。でも、腹立つ! 俺が苦手って分かっててやるんだ、くそ、陽愛には勝てないのか………。



そう、話をしてるとまた耳に生温かい風が当たった。


「ひぃぃ!!……………?」


可笑しい、陽愛は目の前でずっと笑ってるのに何故、生温かい風が耳に? いや、一つしかないな。


「わぁ、本当に怖いんですね」

「怖いんじゃねーよ! 苦手なだけだ!」


なんだよ、こいつまでしてくるのかよ。俺は苦手って言ってるのに何でするの?


それからもに弄られながらお化け屋敷を進んで、出たら先に出口に着いていた暉と美空二人にも笑われた。


「旭はやっぱり怖がりだな!」

「だから、ちげぇよ! 俺は暗闇が苦手なんだ!」

「はいはい~」


くっ、その意味ありげな言い方はなんだ、俺は本当に怖がりじゃなくて暗闇が苦手なだけなんだぞ! なのに全員にやにやしやがって。


それから、ちょっと遅い昼食を済ませて、



「どうする?」

「うーん。もう殆ど回ったしね~」


殆ど回ったて言うか、殆どジェットコースター乗った記憶しかないんだが、そこをつっこんだら駄目なんだろうか? まぁ、何でもいいか。


「旭は何処行きたい?」

「ん。俺は何処でもいいぞ?」

「うーん、なら、もう一度ジェットコースターに行こっか!」


まだ、乗るのかよ。こいつら良く飽きないよなぁ。俺はもう乗りたくないのに。


「陽愛、俺は休んでるから、皆で行ってきて」

「はぁ。美空、暉お願い」

「へーい」「了解~」


何か嫌な予感するから、さっさと逃げよう、いや、無理だったか。既に暉と美空に両腕をがっしりと掴まれて逃げる事は不可能になった。


「陽愛、もう散々乗ったじゃないか。またジェットコースターに乗る必要はないと俺は思うんだ。だからな」

「ここまで、来て何を言うの?」


もうジェットコースターに乗ってしまっている。ここに来るまでも説得をしていたさ、でも誰一人とも耳を傾ける所か『うるさい』と反対に怒ってくる始末だ。発進の合図が鳴る。あ、終わった。もう何度目かの人生の終わりが近づいてくる。


「旭、怖かったら叫ぶんだよ?」

「うるせー、俺はそんなんで叫ばない」


そう、怖いからって叫んだりしない。かもしれないが。


その後、陽愛に『泣き目で叫んでたら楽しい訳ないでしょ』、と言われ言い返せなかった。


***


遊園地からの帰り道に俺はショッピングモールの方に足を運んでいた。勿論、陽愛も居る。後は居ない。そう、ここに来る理由は一つだ。念願だった腕時計を買う為に来た。


「ねぇ、旭、何でここなの?」

「だから、欲しい物買う為だって」

「欲しい物?………!」

「旭! その、えっと、それっていくらするの?」

「え。あー、確か七万か八ぐらいだな」


ちょこちょこ陽愛に使ったり、遊びとかに使ったりしてたからあまり貯まらなかったが、二日前ぐらいに漸く貯まったから今日買いに来たって訳だ。


「あ、旭、その」

「どうした?」


陽愛が袖をぎゅっと強く掴んできた。何か様子も可笑しい。どうしたんだろうか?


「あ、あぁぁぁ!! 旭!? その、私ね!? 服が欲しいな! 買って!」

「はあ? 何言ってんだ。今日は流石に無理だぞ」

「うっ………じゃ、じゃあ! アクセサリー欲しいな!」


やっぱり何か様子が変だ。変にてんぱってる所とか、俺に無理にでも何かを買わせようとしてくる所とかな。


「ごめん、無理。今回は譲れないぞ」

「うっ───そういえばさぁ、よね?」

「ッ!?───そ、そんなの昔の話だ」


あぶねぇ、後ちょっとで恥ずかしさのあまりに叫ぶ所だった。


「いいの? 私の言う事聞かないと皆にとばらすよ?」

「っ………いや、でも、今回は本当に…」

「ふーん、夜一人じゃトイレ行けなくて」

「黙れぇぇ!! それは言うな!」


その後は絶対に聞きたくない。聞いたら絶対に恥ずかしさのあまりに死ぬ。何で陽愛は俺が嫌がる事をするんだよ、今回は絶対に譲れないのに。


「で? いいの?」

「くっ………で、でも………」


駄目だ、陽愛はんだ。ここで断ればまたするかもしれない。くそ、渡すしかないのか。


俺は財布を陽愛に渡した。自分の黒い過去を喋られるよりも、今渡して周りに言うのを止めてもらう方がいい。金はまた貯めれば良い話だ。うん、またな、俺の『GX5』。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る