皆と遊園地(中)

「明日か」


一人部屋でそう呟いた。部屋の壁に飾ってあるカレンダーの六月八日の所に『十一時三十分に集合!!寝坊したら弁当抜き!』と俺では無く陽愛が書いた文字がある。俺が何時も夜遅くまでゲームをやって居るから念を押しての事なんだろうけど、意味は無かったと思う。結局いまはゲームやってて深夜一時だし、まだ眠気も来ないから多分俺は起きているだろう。


案の定、深夜三時まで起きており、朝方起こしに来た陽愛にこっぴどく怒られた。


***


「はぁ、あれ程やるなって言ったのに何でやるかなぁ」

「仕方ないさ、ゲームだもの」

「いや、理由になってないし………」


陽愛は少し深い溜め息をついて額を指先で抑えて首を横に振った。

ジーンズ系のショートパンツ、黒のストッキング、白色のオフショルダーだ。あれ、あまり変わってない? 精々上の服が変わったぐらいで他は何時もと一緒だ。でも、可愛い。


「陽愛、可愛いよ」

「………ありがとう」


陽愛は照れ臭いのか少し頬を朱色に染めて、顔を隠す様に下向いてしまった。暫くすると陽愛は腕を組んできた。これは昔からの癖だ。二人だけの時ははぐれない様に手を繋いだり、腕を組んだりしていたから今もその癖が抜けないだけだ。でも、あまりくっつかないで欲しい。腕にが腕にいちいち当たって気になってしまう。


***


「お、夫婦も来たか」

「「誰が夫婦だ」」


待ち合わせ場所に来ると暉がふざけた事を言い、それを否定する言葉が陽愛とかぶってしまった。


「息ぴったりじゃん」

「はいはい」


暉の言葉には適当に答えておく。暉は『ちぇ~』とつまんなそうに口を尖らせている。陽愛はいつの間にか離れており美空と話していた。


ジーンズジャケットに赤色のフリルスカート、膝まである黒のロングソックスと、明るい美空らしい服装だ。それに比べて暉は、紺色のワークシャツにジーパンだ。もう少しおしゃれした方が良くね?


「暉、もう少しおしゃれしろよ」

「ん? あぁ、そうだ───って! お前も同じ服装だろ!」


うーん、ノリツッコミか、十九点。

まぁ、確かに暉の言う通り、違うと言ったら服の色だけで後は全部暉と同じ服装だ。おしゃれをするぐらいなら俺は違う物にお金をかける派だからな。


くいくい、と袖を引っ張られた。引っ張られた方に顔を向けると、天使が居た。前髪をピンで止めてあり、黒色の服の上に亜麻色のキャミソールワンピースを着ているアルシェ。普通に可愛いんだけど………


「おはようございます!」

「………おはよう」


挨拶をし終わると俺は押し退けられて美空がアルシェに抱き付き、


「おっはー! アルシェ! ってか、可愛い!」

「わぁ~本当だ。やっぱり外人さんはどんなの着ても似合うね!」

「いえ、お二人の方が凄く可愛いですよ?」


押し退けられた俺は暉の横に行き、三人がきゃっきゃしてるのを見ていた。


「お前、なつかれてるな」

「誰にだよ」

「そりゃあ、アルシェちゃんに」

「そうか?」


俺は逆にあいつに嫌われてると思っているんだが、そうか、本当のあいつを知らないからそんな事を言えるのか。だからと言って本当の事は言えない。言ったとして信じては貰えないだろうが、それで陽愛に何か告げ口をされたら………


「旭? 何考えてんだ? 行くぞ」

「え。あぁ、悪い」


陽愛に言われたらと考えると………いや、今はよそう、それより今は目の前の事にだけ頭を向けないとな。


それから、電車とバスを使い遊園地へと俺達はやって来た。


***


「まず何処行く?」

「ジェットコースター!」

「パイレーツ!」

「私は何処でも」

「ん。じゃあ、ジェットコースター」


二対一でジェットコースターに決まり、暉は『クソやろう! こう言う時ぐらい親友の味方しろよ!』と嘆く様に言ってくるが無視だ。暉に同意するより陽愛に同意した方が何かと得だしな。でも、正直、行きたくない。いや、これは怖いとかじゃなくて単に並ぶのが面倒なだけだ。だから、絶対に怖いとかじゃないぞ!



「む、無理………」

「情けねぇ。あんなけで倒れるとか」

「うるせー、人には得意と不得意があるんだよ!」

「まぁ、怖がりな旭は置いておいて、もう一回乗る?」

「乗ろう! 乗ろう!」

「へ?」


はっはっは、暉、何の冗談だ? こんな親友を見てまだ乗ろうとするのか?


「すまん、俺はやす───へ?」

「旭、行くよ!」


陽愛に腕を引っ張られ、そのまま問答無用にジェットコースターに乗せられた。逃げれなかったんだ、暉の思惑なのか知らんが両隣を陽愛とアルシェでしっかりと固められており、逃げれなかったんだ。


それから、何回も並んでは乗せられの繰り返しだった。


「む、無理………吐く、うっ」


ベンチに横たわる。今にでも腹から口へ朝に食べた物が戻り返ってきそうだ。うっ、視界がぐわんぐわんしてきた、気持ち悪りぃ。俺ってこんなに乗り物弱かったけ?  そんなはずは無いと思うんだけどなぁ。


目の前に誰かが座ってきた。ぐわんぐわんする視界でも服の形状は見られ、短パンだからこれは陽愛だろう。


「大丈夫?」

「気持ち悪い」

「トイレ行く?」

「そこまでは、大丈夫だ」


段々と意識もはっきりしてきたし、これなら直ぐに動ける様になると思う。


ぽんぽん、と陽愛が軽く膝を手で叩く。


ん? これってまさか………


「いいよ、乗せて」

「………」


俺にも羞恥心はある。こんな人目が多い場所で膝枕なんてして貰う程、バカじゃない。と思いつつも陽愛の膝に頭を乗せる。いや、だって、枕あるなら使った方がいいかと。


「………」

「………」

「やっぱ、いいや」


だけど、直ぐ差恥心が耐えれなくなり、止めた。陽愛は何処か不満げそうだけど、何かあったか?


「旭、もう大丈夫なの?」

「ん。あぁ、もう大丈夫」


まだ少しぐわんぐわんしてるけど、歩けない程じゃな、ん?


陽愛がぐいっと引っ張り無理にでも寝かせようとしてきた。


「えっと、陽愛?」

「まだ大丈夫じゃないでしょ、もう少し休んでなさい」

「えぇ」

「何?」

「いえ、何もありません」


起き上がろうとすると直ぐに「駄目」と怒ってくる陽愛。それに何故か逆らえなく身体から力を抜いてしまう。可笑しい、今日一番可笑しいぞ。陽愛が珍しく俺を心配する目で見てくる。目は潤っていて、身体はふるふる、と震えている。そんなのに、心配してくれてるのか、中学二年から俺に対する扱いが酷くなってきたと思ってたけど、陽愛はやっぱり優しいな。


「陽愛、もう大丈夫だから」

「ほんと?」

「おう、ほら、皆の所行くぞ」


身体を起き上がらせ、ベンチからも降りる。そうすると陽愛もベンチから立ち上り、俺の 腕に抱き付いてきた。はぁ、何時もこれぐらい可愛げがあれば良いのになぁ。本人に言ったら絶対に怒られそうな事を思いながら皆が居る場所まで陽愛に案内をして貰う。



前言撤回。え? 何がって、全部だよ。陽愛が心配してくれたのは少しはあったんだろうな、いや、ここまで来るとあったか疑わしいぐらいだ。美空と暉は必死に笑いを抑えようとしてる様に見えるが、全然抑えられてない。クスクス笑いやがって………一応、陽愛は笑いを隠すどころかおもいっきし笑ってる。アルシェは首を傾げて『何、この光景?』みたいな目で皆を見ている。


『お化け屋敷』


そう書かれた看板がある。見た目も雰囲気はある。ここは正真正銘の『お化け屋敷』だ。

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