クリスマスまで──アルシェとのデート

俺は何でここに居るんだろう。いや、答えは明白なんだけれども。今日はアルシェと出掛ける日でここは待ち合わせの場所だ。一時間遅れたけど……。


ここは駅前の階段の下辺り。普段なら通勤に使う会社員や通学に使う学生、その他諸々に良く使われる為に人通りも多い。でも、今日は会社員や学生も少なめ、どっちかと言うと───カップルが多い。


確かにクリスマスまで数日。そう、クリスマスじゃないのにこのカップル率は可笑しい。


右を向けば、カップルが居たり、左を向けばカップルが居たり、前を向いても居たりする。後ろも向けば、いや、後ろには


後ろから手で目隠しをされる。


「だ~れ~だ!」

「…………お前、高校生になってもそういう事するのかよ」

「…………だ~れ~だ!」


押し通すのか。こいつ、メンタル強いな。


おれは後ろを向き、こんな子供過ぎる悪戯をしてきたアルシェを見る。白色のダッフルコートに鮮やか赤色をしたミニスカート。この時期にミニスカートとか寒そうに見えるんだが。でも、タイツをしていれば寒くないのか? 男の俺には分からない。



ちゃんと返しをしなかったからか、アルシェは膨れっ面になっていた。

いや、そこまで子供もでもないだろう。多分、集合時間に一時間も遅れたのに起こってるんだろう。


遅れた理由? 陽愛に見つかって何処に行くのか根刮ぎ聞かれてたから。

最初はどう言おうか迷っててたが、最終的には『買い物』と言ったら行かせてくれた。何で買い物で行かせてくれたのかは分からないが、何かに勘違いしてくれたのならそれはそれで助かる。あながち、間違いでもないし。


「あの!!」

「え。ど、どうした?」


いきなり大声を上げたアルシェにびっくりした。うるせぇ、耳元で叫ぶなよ。


「はあ、何でこんな美少女が居るのに、他の女の事を考えてるですか」

「は? お前、自分で美少女って言う?」

「はい。その通りでしょ? と言うか、他の女は否定しないんですね」

「だって、その通りだし」


「……」

「……」


二人揃って沈黙した後、俺はアルシェから足蹴りをくらった。


「いてぇ! 何だよ、いきなり!」

「いえ、ムカついたので、つい」

「ついって、お前なあ」

「ふん!」


顔をぷいと背けて、前に歩いていくアルシェ。ええ、何なの今日のこいつは………。



***


あれから、駅前を離れ、街の大通りを二人並んで歩いている。ちらほらと気になる店はあったみたいだが、首を横に振って、入ろうとはしない。


まあ、こいつが嫌だと言うんだから入らないが、これじゃあ、ただ街をあるい…………いや、俺達はただ友達として出掛けてるだけで、恋人周りみたいな関係じゃない!


何を考えているんだ、俺は………。


首を振ってそんな邪な考えを頭から引き剥がす。


「なあ、そろそろ、店とかに入らないか?」

「ん。入りたいお店があるんですか?」

「まぁな。ちょっと行きたい所があるんだけど、まあ、帰りにでも。それより今はお前の」

「行きましょう」

「へ? いや、帰りに寄って帰れる場所だし」

「夜八時に予約を取ってある場所があります。言っときますけど、その前に帰らせる気はないですからね?」

「ええ……」


本当に帰りにちょっと寄れれば良い場所なんだけど、こいつの目は本気だ。俺を二十時まで帰す気は本当に無いらしい。


彼処、二十時過ぎまでやってたかな? スマホで確認してみる。


どうやら、丁度、二十時に終わるらしい。何て間の悪い……。


行きたい場所には陽愛へのクリスマスプレゼントを買いに行くつもりだったから、余り連れて行きたくはないが、この際、連れて行くしかないか。



「分かったよ、行くか」

「はい」

「……何故、くっつく?」


両腕を使われ片方の腕が行動不能になっている。それ同時に腕に柔らかい感触が伝わってくる。


「陽愛とどっちが柔らかいですか?」

「へ? いや、俺は何も」

「顔がニヤけてましたよ」

「ッ!?」


顔を横に向かせる。今さら、遅いけど、もしまだ顔がニヤけてるなら見られたくない。


「離せよ」

「なに恥ずかしがってるんですか? 何時も陽愛としてるじゃないですか」

「何時もじゃない! それに、あれは、昔からだから慣れてるだけだ」


それに、最近はやたらと腕を組んでくるから、何度もされてると羞恥心は消えてしまう。


あれ、そう考えると別に大丈夫なんじゃないか? やられてる事は同じだし、感触だって同じぐらいだから、俺は何に気恥ずかしがって居たんだんだろう。


今は不思議と何も感じない。むしろ、何も感じない。まだ陽愛とした時の方がドキドキともしたし、ずっとこうしてたい独占欲もあった。


はあ、やっぱり好きなのかな。陽愛のことが。



「また、陽愛の事を考えてたんですか」

「ん。だとしても、お前に不機嫌な顔をされる覚えはないぞ」

「ふーん。バカ」

「はあ? だから、お前に───!?」


腕が更に締め付けられる。ヤバい!? 腕にとても柔らかい感触が!!


おいおい、流石にやり過ぎだろ!


「お、おい、止めろよ」

「何がですか?」

「いや、だから、そんなにくっつかれると」

「はい。それで?」


こいつ、惚けてる?………………くそ。


流石に口にだして言うのは無理。ぜっったいに嫌だ。だからと言ってこいつが惚けるのを止めるとも思えないし…………。


「歩きづらいから止めてくれ」

「…………へたれ」

「へ? 何て言った?」


気のせいかな、へたれって聞こえた気がするんだが……。


「へたれ、根性無し、腑抜者、嘘が下手、もてあそび野郎………まだ、続けますか?」

「いえ、もう結構です……」


とても胸にグサグサ刺さる言葉をどうもありがとう。お陰で、お前に対する憎悪が増した気がするよ。


「ん? 弄び野郎!?───待て、俺が何時何を弄んだって言うんだ?」

「そんなの決まってます。私や、どっちもです!」

「は? お前と陽愛?」


何だそれ、俺が二人を弄んだ?……………訳が分かんねぇ……。何を弄んだんだろう? ………………考えてもない埒が明かない。止めておこう。


「っ!?」


ぎゅぅぅ、と腕を締め付ける力が強くなる。でも、不思議と痛みは無かった。むしろ、柔らかい感触が腕に強く伝わってきた。



くっ、陽愛で慣れてるからと言っても、これは流石に無理がある。


「それ以上は止めて下さい……」


少し泣きつく感じにお願いをすると、


「仕方ないですね、少しだけ緩めてあげます」


本当に少しだけ緩めてくれた。でも、腕はアレに埋まったまま。これは、もう、耐えるしかないのか。

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