クリスマスまで──アルシェとのデート(終)

それから俺はアレを耐え抜いて、目的地に到着した。


アルシェはまだ俺にくっついたままだ。いい加減離れて欲しい。


「あのさ、いい加減離れてくれない?」

「嫌です」

「離れて…」

「嫌です」


俺の言葉を遮るアルシェ。ここまでくるとさすがに振り払ってでも離したくなる。でも、まだ話し合いで解決するならそれがいい。


「離れ、!」

「嫌と言ってるのが分かりませんか?」


また言葉を遮られてしまう。おい、まじで振り払うぞ。万が一、億が一、陽愛にこの現場を見られたら…………うん、離そう。絶対に。


「……はあ。もう、好きにしろ」

「言い方はあれですけど、まあ、諦めてくれたのならそれでいいです。さあ、行きましょう!」


もう力ずくでも良いから離そうとしたが、アルシェの『絶対に何が何でも離れる気はないですよ?』と物語っていた顔を見たら不思議と無理矢理離す気は無くなってしまった。


こんなところ陽愛にでも見られたら、俺は明日からどう生きて行くかいや、出てくる時は……要らんフラグは立てないでおこう。


「……おい、歩きづらいからもう少し離れてくれ」

「我慢して下さい」

「離れないと本当に無理矢理離すぞ?」

「…………仕方ないですね、これで良いですか?」


ぎゅっと抱き締められていた腕がほんの少しだけ離してくれた。まだあれの感触はあり、まだ歩きづらい。


「もう少しお願い」

「………」

「もうちょっと」

「まだですか」

「うん、と言うか、腕を組まないといけないのか?」

「はい!」

「……そうか」


別に腕を組まなくとも、手を繋げば良いのではと思ったが、何かそれはそれで俺がアルシェと手を繋ぎたいって言ってるようなものだから言いたくない。でも、抱き締めれらるのは普通に恥ずかしい。いや、手を繋ぐのだって恥ずかしいし、友達でもやる事ではない。


でもなあ、それぐらいで断念しないとこいつ一向に離れる気は無いだろうと分かりたくもないのに分かってしまう。


「アルシェ。その、どっちかと言うと……」

「? どっちかと言うと?」


いざ言おうとすると口が動かない。陽愛なら何も言わず握るんだが、さすがにアルシェには断りを入れた方がいいだろうし。でも、女子に手を握っていいかなんて十六年の人生で一度も訊いた事がない。陽愛となら自然とできるんだけどなあ。


「あの、えっと………手を、繋がないか?」

「え」


アルシェは口を大きく開けたままこっちをじっと見てくる。確かにいつもならこんな事は言わないけど。そこまで驚くもどうかと思うんだが。うーん、やっぱり、女子に手を繋ぐかって訊くのは恥ずかしいな。アルシェと目線を合わせられない。


そして、暫くお互い沈黙した後、アルシェが抱き締めていた腕から離れ、にやっと笑ってこう言ってきた。


「はあ。仕方ないですね、なら、そっちにしてあげますよ」


後ろで手を組んで、にやにや、としながらこっちを見てくれるアルシェ。言い方と顔にはイラッとするが、頼んだのはこっちだから我慢しよう。


「……はいはい、お願いするよ」

「"お願いします"でしょ?」

「調子に乗るな! ほら」


さっと手を差し伸ばす。一瞬驚いたアルシェだが、直ぐににやり、と笑って手を握ってくれた。肌荒れなど一切なく、柔らかくすべすべした女子の手だ。


「でも、まあ、自分から言えた事は褒めてあげましょう」

「はいはい。早く入るぞ」


さっきから上から目線なアルシェに適当にあしらって、前に歩き始める。横にいるアルシェは不服そうな顔しているがそれも無視して、視線を店に移す。



「で、ここに何の用が?」

「……うん、まあ、あれだよ」

「あれって何ですか。はあ、どうせここに買いに来たんでしょうね」


「……」


片目を閉じて、呆れた顔でこっちを見てくるアルシェ。俺はさっと目を横に逸らした。


鏡張りになっている店前には多種多様なぬいぐるみ達が並べてあり、ここからでも見える店内にも愛くるしいぬいぐるみ達がたくさんと見える。


陽愛に何をあげようかと悩んでいて、結局何も思い付かなかったから暉に聞いたら、『無難に可愛い熊さんのぬいぐるみでもあげたら?』と言われたのでここに来た。


外装と言い、外から見える内装だけでも男子一人では入りづらい店だから、アルシェが居て良かったと思うが、当の本人はご立腹の様子だ。


「貴方は私とデート中に他の女のプレゼントを買う様な人にまでなったんですか?」

「いや、俺はまだ誰のって言ってないんだけど?」

「陽愛へでしょ? さっき黙ったのが良い証拠です」

「……」

「はい、また黙りましたね。………何で私には何も無いんですか」

「うーん、買おうかと一度は迷ったが、金ないから止めた」

「そんな理由!? はあ、もう良いです。早く行きましょう」

「え? はいんの?」


頬に一発ビンタはくらうかなって覚悟はしていたのに、まさかの店に入ろうと言う言葉。さすがに罪悪感にさいなまれる。


仕方ない、予算も多分足りるだろうし、一つぐらい何かを買ってやるか。


そう思いつつ、アルシェと手を繋ぎながら店へと入って行った。



それからは何事もなくアルシェとのお出掛けは終わりを告げた。

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俺と幼馴染の彼女は夫婦以上の仲で恋人未満 南河原 候 @sgrkou

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