二章:夢

息抜き:風邪

これはまだ旭が”好き“と言う気持ちに気づいていない頃のお話。あと、作者がただ書きたかったお話です(笑)






「ゴホッ、ゴホッ」


あー、暑い。それに視界が朧気でくらくらする。それに頭が痛い。

今は冬なのに何故暑いんだろう。とても不思議だ。


いや、勘づいてはいる。これは、風邪ではないんだろうか、と。

でも、ここ数年、俺は風邪……と言うか病気にすらなった事がない。これは凄いと思う。母さんは『あんたがバカだからでしょ』と言われた。でも、反論はしない。だって真実だし、毎回テスト前に徹夜して勉強するぐらいで殆どテストでは赤点かギリギリラインだから。


それで、昨日もテスト勉強をしてたが、不意にも寝てしまった。うん、でも、テストまでまだある。大丈夫だろ。


「ゴホッ、ゴホッ」


さっきから咳が止まらない。やはり、風邪か? いやいや、俺が引くはずないだろ。”バカは風邪を引かない“って言うからな!



「それは、バカは風邪にすら気づかないからって事よ! 安静に寝てなさい」


リビングに着いた頃、陽愛が朝食を作ってくれており、何時も通りに席に座ると、いきなり体温計を投げられ、『計れ』と言われたので計ると、なんと! 39.7℃と表示された。


まじか、と驚いた。バカでも風邪を引くんだな~。


そして、今は自分の部屋のベットで寝かされている。


「うーん。暇だ」

「安静にしてなさいよ? 今日は私も一緒に居てあげるから」

「ん? 学校行けよ」

「良いわよ、今日ぐらい。それに、おばさんはお母さんと出掛けるって言ってたから」


うーむ。病人の息子を放って遊びに行く母さんに文句を言いたい。最近は良く一人にされる事が多いから慣れてきたと言えば慣れたけど、流石に病気の時ぐらいは面倒をみろよ。


陽愛が居るとゲームが出来ないと思ったから学校に行けって言ったんだけど……ま、いっか。ずっとは居ないだろうし、その時やれば良いさ。




「……」

「……」

「……?」

「どうしたの?」

「いや、その、何時帰るんだ?」


あれから二時間近く陽愛はずっと部屋にある椅子に座っている。俺の部屋にある漫画を読むか、スマホを弄ってるだけ。

因みに俺のスマホは陽愛にちゃっかり取られている。


俺も暇だから弄りたいが、安静、と言って陽愛は渡してくれない。ひでぇよな、自分はやってるのに俺にはやらせてくれないって。


「陽愛、スマホくれよー」

「駄目。静かに寝てなさい」

「ええ、寝れる訳ねーだろ。陽愛が居るんだから!」

「ふーん、そう。なら出て行ってあげる。三十分毎に見に来るけど、その時に寝てなかったら物理的に寝かせるからね?」

「お、おう」


病人に物理か。うーん、たまに俺に対する当たりが強い様な気がする。


そして、陽愛は部屋を出て行く。直ぐには動かない。陽愛が嘘を吐いて直ぐに確認に来るかもしれない。


それから、数分待ったが来る気配はなかった。


じゃあ、早速スマホを…………ない。

陽愛は俺の部屋にある茶色のローテーブルに置いていたはず。ちっ、ちゃっかり持っていかれた。


うーん、どうしたものか。何か身体も怠いし、テレビゲームをやる気にはなれない。でも、今はゲームをしたい。


「はあ、仕方ない。漫画読むか」


パソコンも触る気が起きない。だとしたら後は漫画しかない。でも、身体が怠くて動く気がしないから取るのがめんどくさい。


だったら、大人しくしとけと思われるが、それはそれで暇過ぎて落ち着かない。


「よいしょっと」


くら、と身体がよろつく。間一髪、右足が支えてくれた。あぶねぇ、後ちょっとで転ぶところだった。


「あれ……?」


脚に力が入らなくその場に膝着く。何とかそこでも踏ん張ろうとするが、力が入らなくその場に倒れ込む。


頭がくらくらして思考が働かない。

視界が朧気で、何だか息遣いも荒い。

身体に力が入らない。それに寒い。


あれ、結構ヤバい? おいおい、まじか。どうしよう。陽愛は三十分毎に見に来るって言っていたけど、まだ三十分は経たないし。それに心配させるのも悪いからなあ。


「……くそ、立てねぇ」


風邪ってここまで身体に影響を与えるものだっけ? うーん、酷い場合は肺炎になるって聞いた事もあるし、与えるのか。



やば、目蓋が重くなってきた。でも、このまま寝たら陽愛に要らん心配を掛けるし。だからと言って身体が動く訳でもない。


朦朧とする意識の中、ドアが開く音が微かに聞こえた。


「旭!? 大丈夫!?」

「ひ、……な」


陽愛の慌てる声を聞いた。でも、それ以上は何を言ってるのか分からなく俺の意識は深い眠りに着いてしまった。



**


「……」


目を覚ますと、俺はベットに横たわっていた。察するに陽愛が寝かせてくれたんだろう。


まだ身体は怠いし、頭も痛い。でも、最初よりはマシになっている。身体は怠いだけで動くし、頭の痛さも然程痛いと言う訳でもない。朧気な視界は今ははっきりとしたものになっている。


「あ、起きたんだ」


部屋のドアが開き、陽愛が入ってきた。手にはお盆があり、その上には小さめの土鍋がある。


陽愛はお盆を一旦、テーブルの上に置き此方にやってくる。


「どう?」

「最初よりマシになったよ。ありがとうな、陽愛」

「どういたしまして。はあ、最初っから大人しくしてればああはならなかったのに」


陽愛に深い溜め息をつかれる。ジト目で見られ始める。


「なんだよ」

「バーカ」

「くっ……仰る通りです」

「よろしい。ちょっと待ってて」


バーカか。確かにその通りだ。大人しくしてればしんどい思いはしないで済んだだろうに。陽愛にも心配を掛けたし何やってんだろ、もう二度と陽愛に迷惑は掛けないって決めたのにな。


「はい、あーん」


陽愛がさっき持ってきたお盆を膝に乗せ、お盆の上には湯気が出ておりまだ熱そうな玉子のお粥がある。陽愛はそれをスプーンてすくい、俺に差し出してくるり


俺は口を開けてスプーンの先端を口の中に入れる。その瞬間、口の中にお粥の熱が広がる。


「あっつ!!」

「冷まさないのが悪いわよ。ふーふー。ほら、あーん」


俺はもう一度お粥がすくわれたスプーンを口に入れる。


熱い。でも、さっきみたいに飲み込めない訳ではない。


ごっくんと飲み込む。うん、とっても優しい味だ。ちょっと味が物足りない気もするが今の状態なら丁度良いのかもしれない。それに、噛む必要がないぐらい米は柔らかく仕上がっておりとても食べやすい。


「陽愛、もう一口」

「はいはい」


それからは陽愛にお粥を食べさせて貰い、完食をしたら大人しく寝に入った。



次の日には風邪は治ってしまい、嫌々なテストにも間に合ってしまった。



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