お出掛け(デート)と言ったら(上)

(なんなんだ。あいつは)


朝の出来事を思いだして首を横に少し傾げる。あの転校生──アルシェが突然弁当なんて物作って渡して来やがった。


そりゃあ、怪しむ。されては怪しまずにはいられない。この弁当には変な薬でも入ってるか?──


「………はぁ」


弁当ともう一つだけ嫌な事があった。それは全男子生徒(多分全員)からはりむしろにされている事だ。

あの野郎が人目を気にせず皆が見てる所で弁当を渡したからそれが学校中に広まり男子生徒達から廊下を通ったり、教室に入るだけで嫉妬の目で見られる──いや、睨まれるかな。


そして唯一の暉は、


「良かったじゃん。これでまた(陽愛ちゃんとの)距離が縮まるじゃないか」


そんな事をニコニコしながら言ってきたから頭にチョップをいれて、いまこうして教室を出てきたんだ。


陽愛にはどう思われたか、陽愛に──って、何でまた陽愛の事を………。


止めておこう。考えるだけで違う疑問で頭が痛くなってくる。


「旭」


その呼び声にビクッ、と身体が反応する。俺も振り向こうか悩む。結局俺は振り向いて声の主と目を合わせる。


「陽愛………どうかしたか?」

「うーん。はい、これ」


陽愛は四方形の形してて青色の風呂敷に包まれた物を指先で一撮みしながら俺の目の前に差し出してきた。


そう、これはだ。何時も俺が食べてて、食べ飽きない物。


「まぁ、旭には要らないか。アルシェのがあるし」

「え。あ、待って!」


そう言うと陽愛は弁当を引っ込めてしまい、俺は咄嗟に手が前に出てそれを止めようとする。


「何?」

「えっと、その、食べるからくれ」

「はあ? いや、あんたにはアルシェのが」

「食べるから! それも食べるからくれ!」


陽愛の肩を掴んで俺は強くせがんだ。


「? まぁ、良いけど本当に食べるの?」

「当たり前だ。陽愛が作ってくれたんだから食べるに決まってるだろ?」

「………そう、なら、はい」


陽愛は弁当を渡してくれた。


「ありがとうな。何時も」

「まぁ、よ?」

「………」


陽愛のその言葉に言葉が詰まる。なんて、言ったら良いのだろう。普通にアルシェと出掛ける………いや、それはなんか嫌だ。だったらどう説明するか………。


「ひ、陽愛その、日曜日は用事が入ちまって、土曜日に行かないか?」

「ふーん。珍しいね。まぁ、良いけど。何の用事なの?」

「えっと、その、暉と映画を」

「ふーん」


あれ、何か反応が………。


「何かあったか?」

「いや、何も」

「そ、そうか」


何か反応が変に見えたけど、大丈夫だよな?


その後、陽愛とは一言も交わさず一緒に教室に戻った。



***(陽愛視点)




珍しい。旭が私に何か隠し事をした。いや、別に今まで無かったとは言わないけど、中学三年になったら旭は包み隠さず話してくれる様になったと思っている。


そこまで私が気にする事じゃないけど、どうしても旭の事だと気にしてしまう。


「旭が嘘をつく………なんだろう?」


旭が嘘をつくとしたら、何か欲しい物がある時ぐらいしかない。今回もそうなのかな? でも、何か違う。長年一緒に居るからそれぐらいなら見て分かる。


何時もとは何か違う。私に嘘をつく理由──


「分かんないや」


長年一緒に居ても今回の事は分かんない。何時もとは違う嘘つき方だから今の私には分からない。それに、さっきも言ったけど私が気にする必要は無いから、うん、もう、考えないでおこう。


「よし、明日のお弁当のおかず考えよ~♪」


今日は野菜多めのお弁当にしたから、明日のメインはお肉かな? なるべく旭が美味しいって言った物を作ってあげたいから、うーん、そうだ。ハンバーグでも作ろうかな。


「そうと決まれば、早速買い出しに!」




「────っで、俺を呼んだと」

「うん。どうせ暇でしょ?」

「そうだけど、うーん。まぁ、良いや」


旭は渋々納得した感じで肩を落とした。ふふ、私には逆らえないんだから悩む必要は無く黙って付いて来れば良いのに。何に悩む必要があるのかな?


「はい、これ持って」

「え。カート使えば」

「ん。カート使うと道が混雑してる時に通れないでしょ?」


奥様方の戦場バーゲンセールとかに勝てないからカートは要らない。まぁ、カートを使わないだけだけど。


「では──今からお肉の半額セールを行います!!」


「行くよ! 旭!」

「へ? いや、待て!」


呆然としていた旭の腕を引っ張り奥様方の戦場バーゲンセールへと向かった。その時に旭が『待て!』と止める様な言葉がそんなの無視。戦場バーゲンに急ぐ。




「えへへ! 買えた~♪、買えた~♪」

「うっ………よ、良かったな」

「はぁ。だらしない」


あんなけでバテるとかほんっとだらしない。


「では──卵の半額セールを開始します!」


その言葉に私は目をキラつかせる。それを見た旭は顔を真っ青に染めたけど、それも無視して遠慮無く次への戦場バーゲンへと連れ出す。



「む、無理………もう、疲れた」

「ん。もう大丈夫だよ。買いたい物は一通り買えたし、後はそれを家まで運ぶだけ」

「はは………まさか、俺一人に持たせないよな?」


旭は地面に置いてある買い物袋三つを指指して訊いてくる。それぞれに重たい物は入ってるから三つ持て家に帰れば多分腕は筋肉痛にでもなるじゃない? 運動してないと。


だから、と言って持つ気は無いから全部旭に持たせるけど。


「じゃ、帰るよ~」

「………はぁ、はいはい」

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