海へ行こう(下の二)

「………」

「? なんだ、さっきからぼーとして」

「………」

「おーいー旭? 訊いてるか? おーい、? そろそろ訊いてくれないと拗ねるぞ~………………良いのか! 拗ねるぞ! 本気だぞ!」

「ん」

「ええ、そんなけ………」


俺は陽愛が好きなのか。いいや、多分好きだ。陽愛………。陽愛の事を考えると複雑な気持ちになる。


この気持ちに気づけて嬉しい。でも、そこで生まれるのがこれからは普通に接しれるのかだ。いや、だって、気づいた代わりには意識をしない訳がない。


あ………………………………………………………………………………。


俺は気づいてしまった。そうだ、俺はあいつとキスをしてしまったんだ。そんなので陽愛と付き合っても良いのか………いやいや、まず付き合えるかも怪しいんだから、うん、考えるのはよそう。


「ねえ、旭? 何がいいの?」

「………ん? え」


いつの間にか隣には陽愛が居た。まだ俺のパーカーを着ている。うん、可愛い、じゃなくて! 何で!? あれ、暉は? さっきまで居たじゃないか。


辺りを見渡す。


「?」


居たには居た。でも、何か落ち込んでる。海の家の入り口である階段辺りで座り、指で砂を円を描く様に弄っていた。その隣で慰めるか美空が何か言っている。ちょっと遠くて聞こえない。


「で、何?」


陽愛が顔をぐぃっと近づけて来て聞いてくる。近い近い! おいおい、無理無理、陽愛の吐息もあたるし、耐えられるか! えっと、前はどう耐えたっけ………無理、そんな事を考える余裕なんてない。


「無理ぃぃぃぃぃ!!」

「え。ちょっと! 昼飯どうするのよ!」


俺は耐えられなくなり走って逃げ出してしまった。何でだよ、何で普段通りに出来ないんだ。


***


「ハァハァ………」


息を切らした所で、足を止める。場所は……、殆ど、と言うか全く人が居ない岩場に来てしまっていた。


近くにあった座れそうな大きめの岩に腰を下ろす。ごつごつと岩の感覚があるが、別に気にする程痛くもないのでそのまま座る事にした。


「はあ、どうしたら良いんだ」


陽愛、陽愛、陽愛………………………あーあ! くそ、考えようとしても陽愛の事しか考えられない。もう、いっそのこと告白してこの気持ちを晴らすか………いや、それは怖いし、今は無理する事はないだろう。だとしたら、どうしたら良いんだろう、この気持ちを。


「あ、居た居た。おい、旭!」

「ん。暉」


あー、この端正な顔立ちが今だけ腹立つ。俺は多分、そこまで不細工でもないと思うが、カッコ良くもない。普通の顔をしていると思う。と言うか、そもそも普通の顔って何? 顔立ちがはっきりしない人? それとも目立つ所がない顔? うーん、頭痛くなってきた。


「まあ、何でも良いが、お前を殴らせろ」

「はあ? 殴りたいのはこっちだ。ボケ」


そんなお互い怒り気味の会話を挟みつつ、暉が俺の隣に座ってきた。大きいは大きい岩なのだが、元々大きめの岩に二人で座っても狭いとは感じない。


沈黙が続く。お互いに何も喋ろうとはしない。暉は何をしに来たんだろうか。いや、俺を探しに来てくれたのか。ちら、と暉を見ると、空を見上げていた。くっ、やっぱりこの顔ムカつく。


「………」

「………」

「………なあ、暉、その、俺」

「陽愛ちゃんが好きか」

「え。!?」


え、待ってくれ。何て言った、暉は………。


人に話したら少しはこの気持ちが落ち着くかなって思ったのに暉はなんて言ったんだ。


えっと、確か、陽愛ちゃんが好きか、だよな。待て待て、それは質問的に聞いたのか確信的に言ったのかどっちだ。質問みたいな聞き方じゃなかったよな。てことは、確信があって言ったのか。だが、何で直ぐに気づかれた? 俺はそんな素振り………いや、逃げ出したのでバレたのか? いやいや、でも、あんなけでバレる訳がない。うーん、でも暉は勘がいいし………。


「その顔だとそうなのか。はあ、やっとか」

「え。やっと?」

「お前なあ、幾ら何でも遅過ぎだろ」

「??」


手を頭に当てやれやれ、と言った感じに呆れていた。だが、俺は理解出来なかった。何故呆れてるのか、やっと、と言う単語にも頭の理解が追い付いてなかった。


「で、告白はするのか?」

「え。あ、いや………しない」

「何で?」

「………」

「言えない事か。すまん、訊いて」

「いや、違う。その、えっと、怖いんだ。その、今の関係が壊れそうで」


もしフラれるたとしたら、陽愛とこれからどう付き合って行けば良いのだろうか。そんな事をついつい考えてしまう。はあ、陽愛は俺の事を好きなんだろうか。それを確かめるには告白をするしかない、でも、怖い。どうしたら良いんだろう。


「まあ、俺は何も言わん。自分のペースでやれよ。あ、でもあんまり遅いと言うからな?」

「………………おう。ありがとう」

「はっ、俺は何もやってない。さっさと戻るぞ」

「あ、その前に何時から気づいてた?」

「うーん。小学生の時から?」

「マジかよ」


そんな前から俺は陽愛が好きだったのか、気づかなかった。ちょっと驚きが隠せないかも。


暉は岩から立ち上り、『来いよ』とだけ言って先に歩いて行ってしまった。


はあ、やっぱりまだ複雑な気持ちがある。これから陽愛とどう接すれば良いのかすらまだ分からない。でも、暉のお陰で一つの回答には至った。


封印しよう。こんな気持ち。暉はやっと、とか言うけど、まだ早かったんだ、気づくのは。いや、ごめん、はっきり言う。


逃げるんだ、怖いから。もし、陽愛が、と言う暗い考えばかりしてしまう。だったら、今は心の奥底にしまって、何時も通りにするだけ。



うーん、何時も通りに出来るかな。いや、するんだ。じゃなきゃ、悩み苦しむだけだから。


俺は暉の後を追った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る