第39話相談事1

「あら王子!遊んでばかりいないで働きなさいよ!ほら、このリンゴあげるから」

「お、王子また来たのか!どうだ?アンタに言われた通りこの剣をちょっと鍛え直してみたんだ!」

「あ、王子王子!ちょっと来てくださいよ!この前相談してた出店の件で」

「おーじー!暇ならあそぼー!」

「王子!聞いてくださいよ!王子の言う通りにしたらあの子と付き合えたんだ!」


 城下町を歩き、城から離れだんだんと人ごみが多くなってきた頃、王子は沢山の人に親しそうに声を掛けられていた。アドルフからは、簡単な王子たちのイメージしか聞いていなかった為、実際彼らがどんな人なのかは知らない。城に戻ったら、ボブたちにでも王子たちの話を聞いておくか、国民に寄り添い頼りにされている彼を見てテツは思った。


「なぁアンタ、王子っていつもこんなに皆に話しかけられているのか?というか、そういいうのって大丈夫なのか?仮にも王子なんだろ?」


 アレクサンドロス第二王子が青年から恋バナをされ、それを微笑みながら聞いている時、テツは先ほどまで王子と話していた恰幅のいいおばちゃんに話を聞いた。


「んん?って事はアンタこの辺の人じゃないね?王子は貴族の方々からは遊び人なんていわれてるけど、実際は国民に寄り添ういい王子様なんだよ。あたしゃ政治の事はよくわかんないけど、顔も見たことのない他の王子様より、ああいう人が王様になってほしいと思うし、皆そう言っているさ。ってアンタよく見たらいい男だね!もしかして王子の彼しかい?あたしゃそういう話が大好きなんだ!」


 おばちゃんの最後の話はちょっと意味が分からないので無視しても、どうやら王子は皆に愛されているようだ。他の人にも話を聞いたが、噂通りの人ではないらしい。ただ貴族から良く思われていない部分はあるようだ。


 遊び人アレクサンドロス第二王子。頭もよく剣の腕もたつ。その為彼が王都で歩き回っていても襲う人間はもういない。何故ならそういった輩は、護衛の騎士達が駆けつける前に必ず王子が倒してしまうからだ。以前そういった事が何度もあり、それでも堂々と振舞う王子に恐れをなし、今では彼を襲う人間はいない。


 同時に彼は国民に寄り添う。不正をする業者などがいたら自ら駆けつけ問題を解決している。だがその問題の業者が貴族の傘下だったことは少なくない。貴族の後ろ盾があるからこそ好き放題していた業者も、その相手が王子だと分かると皆降参していく。国民からしたら英雄だが、それを良く思わない貴族は少なくない。


 だが国民に寄り添う、と言えば聞こえがいいが、寄り添いすぎる王子にも問題があるようだ。貴族とは面子が大事。地球の政治家とは違い、あまり国民に顔を見せるのをいいと思わない人は少なくないらしい。貴族とは権力であり、法であり、力である。いざと言うときに国民を正し、粛清する日露尾もある。


 この世界には法治国家はない。地球とは根本的に考え方が違うため、王子の意見が正しいのか、貴族の考え方が正しいのか、その判断をする為にはテツの知識では足りない。だが、今のテツにはアレクサンドロス第二王子の行動は好ましく映っていた。


「ごめんごめん。皆話をしだすと長いんだから。結構いい時間になっちゃったね」


 城から出て二時間は経っただろうか。歩いた距離的には大したことないが、皆が我先にと王子と話したがっていた為中々抜け出さずこんな時間になってしまっていた。


「いいえ、城下町を歩くのは初めてだったもので、中々楽しめましたよ」


 微笑み答えるテツに、王子は「なら余計に悪かったね、ちゃんと案内してあげればよかった」と言うが、実際テツは楽しんでいた。王子と一緒にいるというだけで、皆気をよくして色々話しかけてくれたり、人によってはちょっとした物をくれたりした。この世界の人と料理以外の話を色々話す機会なんてあまりなかった為、テツにとって新鮮で楽しい時間となった。何故か女性たちに、縁談を申し込まれたり、王子との関係をしつこく聞かれたりしたがその話はどうでもいいだろう。


 現在二人は、大通りから少し離れた裏路地にある、高級そうなカフェの個室に来ていた。王子曰くここは誰にも聞かれたくない話などをするときに使うらしい。個室に入る時、何故か女性定員がさりげなく、「どっちが受けですか?攻めですか?」と息を荒げて聞いてきた時は驚いたが。意味が分からず戸惑っていると王子が「僕が攻めなんだ」と言い、女性店員が鼻血を出して倒れていた。この店の何か特別な暗号なのかもしれない。


「さて、漸く君と落ち着いて話が出来るね。とりあえず何か頼もうか」


 先ほどとは別の女性店員を呼び、王子が飲み物とちょっとしたお菓子を注文していく。改めて見ると、まだあどけなさが残るが、他の王子に比べ彼が一番王様に似ているかもしれない。綺麗な金髪を肩まで伸ばし、目鼻立ちがしっかりしている。特に目つきが多少鋭い所が王様に似ているかもしれない。だが王様よりも女性らしい美しさもある。その辺は妃様に似たのだろう。


 確か彼とサラ第二王女が王様の第一妃の子共だったか。もう少しそのあたり調べておくんだったなとテツは反省した。


 注文した品が運ばれ、店員が出ていったのを合図に王子が口を開く。


「さ、そろそろ本題に入ろう。実は今僕は困っているんだ。だから君に助けてほしくて、何かアイディアがないか聞きたくて君をこうして連れ出したんだ」


 運ばれてきたハーブティーに手を伸ばしていたテツの動きが止まる。王子が自分に助けて欲しい?一体なんの話だ?


「うん。いきなりこんな事言われても困るよね。とりあえず順を追って話そうか」


 王子は自身の目の前にあるハーブティーを手に取りすする。ちらりとテツを見ると促す素振りを見せたので、テツも伸ばしかけていた手を動かし、目の前にあったハーブティーをすする。恐らくバラに似た花をいくつも使って入れられたのだろう。香りは複雑だが、口の中に花畑が広がるような印象を受け、それだけでリラックスできる。お互い一息ついたところで、王子がカップをテーブルに戻し、そして口を開く。


「テツ君はどうやって次の王様が決められるか知ってる?」

「いえ、申し訳ありませんが、その辺はあまり詳しくないので」


 テツの正直な答えに、王子は頭を数度縦に振り、そして言葉を続ける。


「この国では王が指名するんだ。その時期は分からないが、そろそろだと思う。大体長男が20歳を超えたあたりに決められるのが通例だからね。皆もそれが分かっているから、既に行動を起こし王にそれを示し、そしてそれは間もなく決する」


 今から約一月後、ヘンリー第一王子の案で、王子たちは皆自身を支持する貴族たちを連れ王都を歩くそうだ。事の始まりはヘンリー王子とリナ王女の喧嘩から始まったそうだが、王様はそれを認めたらしい。


「王位を争う時、時には内乱のようになるときがある。誰が力を持ち、誰が誰を支持するのかはっきりさせるためにね。だがそれだど国民にも被害が出るし、そこを他国に狙われ戦争にもつながりかねない。その為王は二人の喧嘩を利用して穏便に済ませるつもりなんだろうね」


 そこまで話すと、王子は一度ハーブティーをすする。それに習ってテツもハーブティーをすするが、今度は味をあまり楽しめなかった。何故コックの自分にそんな話をするのか、突然始まった大きすぎる話に、テツの頭は混乱していたからだ。そして二人がカップをテーブルに戻した時、王子は話を再開する。


「君は組織の事を知っているね?」


 突然切り出された話に、テツは驚きテツは再び固まってしまう。いや、話しだけでない、王子の雰囲気のせいでもあるだろう。


 組織。この世界でそれを意味する事は、テツは一つしか知らない。アドルフから聞いた、彼が戦い続けている相手のことだろう。そして今の王子の雰囲気。先ほどまでの柔らかな雰囲気はなく、まるで王様の前に座っているような、自分の心の内まで見られているよう気分になる。この人は間違いなくあの王様の子だ。鋭く見据えられたその眼を見て、テツはそう感じていた。

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