第2話パンイチおっさん
徹が目を開けるとそこは何もない草原だった。女神様が言うにはそこは『始まりの草原』と言う名の辺境らしい。
そして辺りを見渡してた徹はあることに気が付く。
なんと太陽が二つあったのだ。まさに異世界と驚くところだが徹は別の事を考え歓喜していた。
野菜をはじめ沢山の食物、生命は太陽の恵みを受け生を受け旨味が増していく。なら太陽が二つあるこの世界の野菜たちは、食物たちはこの現象により一体どんな変化をもたらしたのか。もしかしたらちょっとした野菜も太陽の光を二倍受けさらに美味しくなっているのではないかと。
そんな事を真っ先に考える徹はまさに料理馬鹿だった。
とりあえず徹は女神様に教えてもらった通り「ステータス」と呟く。
『名前:テツ
年齢20歳
性別:男
職業:戦う三ツ星シェフ
スキル:料理スキル全般(調理用、戦闘用)
初級火魔法、初級水魔法、初級氷魔法、鑑定魔法、アイテムボックス(極)』
とだけ書かれていた。
女神様の話によれば自身の身体能力を数値化したものが見える世界もあるらしいがこの世界のステータスはこんなものらしい。
この世界には沢山の国があるが、ここ『ギガ大国』はその中でも一番大きく、そして栄えている国らしい。
「そしてここから西に行けば始まりの街「ルーメン街」があるという事か」
他にもいくつか教えてくれたが大体そんな感じだ。なんとも適当な女神さまだとテツはため息をつく。
だが一度死んだ人間が再び生を受けることはかなり珍しい事らしいのでそこは感謝しておく。
テツは「アイテムボックス」と呟く。すると目の前に小さなブラックホールの様な穴と頭の中にその中身がリスト化され表示される。
その事に驚きながら、中に唯一入っていたものを取り出し身だしなみを整える。
テツは現在この世界ではよくある初心者冒険者の服装をしていて、腰には今取り出した七本の包丁を身に着けている状態だ。
「まずは身体能力の確認だな。「少し強くなる」とはどの程度なのか」
地球にいた頃のテツの年齢は35歳。その年齢になると流石に体の至る所がガタがきはじめ昔の様には動けなかった。だが今は20歳となっている。
テツは軽く準備運動をしてから飛んだり跳ねたり走ったりして見る。
「はは、ははは!!軽い!凄い!なんだこの体は!体が軽いぞ!!」
テツが飛ぶと5mは飛び上がり、走るとまるで風になったように早かった。若かったころでもこんな芸当は出来やしなかった。いや、こんな事地球人にはできないだろう。できたとしたら歴史に名を残すことになっていただろう。
「ん?」
何度か飛び跳ねその体を楽しんでいたテツは遠くにそれを発見し駆け出す。もし見間違いでなければ誰かが何かに襲われていたはずだ。
「……そ!くそ!!なんでこんなことに!!」
そんな声が聞こえ徹は腰に差してあった「洋出刃包丁」を抜くと目標に近づく。
どうやら一人の男性が10匹以上の野犬に襲われている最中だった。
テツは躊躇うことなく一匹の野犬の首筋に包丁を突き刺すと野犬はあっさり倒れ絶命する。
「「は?」」
テツと男性の声が重なる。だがテツは今はそれどころではないと頭を切り替え残りの野犬に包丁を突き刺すと一瞬で全ての野犬を倒してしまう。
「な、なんだこの切れ味は!?」
テツは全ての野犬を倒した後自ら握っている包丁を見て言葉を漏らす。
まるで豆腐を斬っているかのように野犬を斬って見せたそのポテンシャルはまさに一級品。素晴らしい。これならどんな食材でも簡単に斬ってしまうだろう。テツはその事に頬を緩ませる。
「お、おいアンタ!助けてくれてありがとう。とりあえず助かった」
「ん?ああ、構わないが。……アンタ何でこんなところでパンツ一丁なんだ?しかも手足を縛られて。何かのプレイか?」
テツは先ほど助けた男性に話しかけられ振り向くと、男性は何故かパンツ一丁で手足を手錠で縛られ寝そべっていた。しかもこんな誰もいない草原で。彼は変態なのか?
「こ、これには訳があるんだよ!とりあえず助かった。でだ。申し訳ないんだが俺を近くの街まで連れて行ってくれないか?」
「は?その格好のままか?」
「他に方法がないからな。このままでだ」
テツは一瞬彼を助けた事を後悔する。
折角第二の人生を歩もうというときに何が楽しくてパンツ一丁で縛られてるおっさんを抱えて街に行かなきゃならないんだ。そんなことしたら縛った相手が自分だと思われ一緒に変態扱いされてしまう。
「いや、待てよ?もしかして」
ふと何かを思いついたテツは男性に包丁を向け近づく。
「お、おいおい待て待て!ないする気だ!?俺を殺す気か!?いや、襲う気か!?待ってくれ俺はそっちの気はないぞ!?」
何を勘違いしているのか男性は慌てて逃げようとする。パンツ一丁で縛られたおっさんが芋虫のように地面を這いつくばりながら逃げる光景には流石にテツも引いたが今はそれどころじゃない。テツはじりじりとおっさんとの距離を詰めていく。
「おい動くな。ちょっと突き刺すだけだ」
「ちょっと突き刺す!?ふざけるな!俺はそっちの経験はないんだ!頼むからやめてくれ!俺のお尻は誰にも渡さん!!」
「お尻?何の話だ?いいから。痛くしないから」
「痛いかどうかは俺が決めることだ!それはあれだろ?「大丈夫、入れるのは先っぽだけだから」みたいなあれだろ!?そんなの先っぽだけで済むわけないだろ!?」
「いや、刺す時はしっかり根元まで刺すぞ?」
「あああああ!!??やっぱり入れる気なんだ!?くそ!こんな事だったら犬に食われた方がマシだった」
何か勘違いしギャーギャー騒ぐおっさんを押さえつけテツは馬乗りになるとおっさんもとうとう観念したのかぴたりと動きを止め目を強く瞑る。
「お父様、お母様、兄上。妹よ。俺は今日新たな扉を開くようだ。この先どうなるか分からない。だけどお願いだ。次あった時、何も言わずに抱きしめてくれ。俺の願いはそれだけだ」
「おい、力を抜け。力を入れてたら危険だ」
「俺からしたら力を抜いた方が危険なんだがな。まぁいい。さっさと終わらせてくれ。俺の尻があんたを満足させられることを願うよ」
おっさんはそう言うと頬に涙がおちる。そして全身の力を抜き股を広げその時を待つ。
「……じゃ、いくぞ?」
「ああ。初めてだからな。優しくしてくれ」
「安心しろ。俺もこんなことは初めてだ。少し緊張するが、すぐに終わる」
「そうか。俺が初めてで良かったのか?」
「ああ、こんな状況じゃ仕方ない」
「仕方ない、か。俺もつくづく運が悪い男だな。」
そんな会話を交わしツテはそれを思い切り突き立てる。
「さ、終わったぞ?これでもう自分で歩けるだろ?」
「なんだ、案外痛くないものだな……って、へ?」
おっさんが目を開け体を確かめると手足にあった手錠が壊れ取れていた。
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