第47話食事会

「じゃあ頼むぞボブ。俺たちのこの一か月の成果見せつけてやろうぜ」

「ああ、勿論だ。こんな最高の舞台を用意してくれて感謝する」


 ボブとテツは握った拳をコツンとぶつけ、そしてテツは出口に向かって歩き出す。


「テメェら、気合入れろ!俺達の実力を示す最高の機会だ!」

「「「「おう!!」」」」


 そんな頼もしい叫び声を背に聞き、テツは厨房を後にする。


 いつものお付きのメイドに連れられ、テツは長い廊下を静かに歩く。此処に来たときに比べ、季節は変わり過ごしやすい陽気となっていた。吹き抜ける暖かい風が頬を撫で、テツの気持ちを落ち着かせてくれる。


 コツン、コツンと会場に近づいていくと、廊下の一角で見知った顔が壁に体を預けテツを待っていた。


「よう相棒。その顔は上手く行ったみたいだな」

「勿論だ。相棒のアイディアのおかげさ。もうひと頑張り頼むぞ」

「任せておけ」


 テツとアドルフは握った拳をぶつけ、二人は並んで歩き出す。メイドはそんな信頼しきった男二人の背中を見つめ、なんかそういうのいいな、と自分の手を見つめ、そして二人に慌てて二人に着いていった。


「ったくこっちは疲れているのに」

「一体何なんだ。俺は早く領地に帰って、さっさと山のように溜まった書類を片付けなければならないのに」


 場所は城内で一番広い庭の一角。普段は来賓を接待する為だったり、城の者が休んだりと、その目的は様々な為、皆が楽しめるようにそこの庭の手入れは常に完璧で様々な花が植えてあった。


 そんな場所に集められた、今回の戦いに参加した貴族や一部の兵士、文官などがいた。通例なら、時期国王が決まった時や、戦争の終わりなどには、場内の大広間で立食パーティが行われるはずだった。だが今回、アレクサンドロス王子の強い希望により、庭で着席した形の食事が行われることになっている。


 気温は暖かくなってきた為、その辺に文句をいうものはいない。庭には沢山の魔法で光る街灯が立ち並んでる為、日が暮れだしたこの時間でもまだ明るい。


 だが彼らが何故これほどにまでいら立っているというと、まずは自軍が負けたことが原因だろう。本来なら今頃彼らはワイングラス片手に、楽しくパーティに参加し、時期国王を支える重役として昇格しているはずだった。


 それがどうだ。予想にしていなかったアレクサンドロス王子が勝利を治め、時期国王に選ばれてしまった。遊び人がこの国を治めるなど、自分達がアレクサンドロス王子に仕えなければならないのかと皆が不満に思っていた。


 それに加え、本来なら時期国王が選ばれた後、簡単なパーティが行われ、早々に自らの治める領地に帰れるはずだった。だが城にはいりこんだノアの箱舟の一員は思った以上に多く、それを捕まえるのにかなりの時間を要してしまった。その為、こうして食事会が開かれるのが日暮れの時間になってしまったのだ。


 その為皆が不満を口にするのは仕方のない事とも言える。仕えたくもない時期国王。予定外の食事会。領地には溜まった仕事。誰もが深くため息をついていた。


 庭には全ての貴族、その部下の筆頭騎士が座れるほど長いテーブルが数列並んでいた。そこには皆の名前が書き記された紙が置かれ、メイド達がそれを確認しながら彼らを席に案内する。


 当然王族は王族で集まり、皆の顔が見えるよう一番城側に置かれていたテーブルに着席する。そこに遅れてきたスクルス王とアレクサンドロス王子が着席すると、皆が静まりその言葉を待ち、食事会は幕を開けた。


「皆の者。予定外の食事会に参加してもらい感謝する。まず初めに、此度の戦いご苦労だった。今回勝利を手にし、時期国王に選んだのはアレクサンドロスだが、皆が奮闘し自ら仕える者の為に努力したことは儂の耳にも届いておる。それに加え、ノアの箱舟をあぶりだすために皆努力したことも。皆の者、ご苦労じゃった。今日は食事を、酒を存分に楽しみ英気を養うとよい」


 スクルス王は皆が聞こえる様に、ゆっくりはっきりと皆を見回しながら話した。王の言葉に、皆それぞれ思う所はあるだろうが、自分達の事も称賛されたため何とか気持ちを抑えて拍手をする。拍手が収まるのを確認して、スクルス王は言葉を続ける。


「さて、今回このような場を用意したのは、皆も知っての通りアレクサンドロス自身じゃ。時期国王になる彼から話がある。皆の者、よく聞くように」


 スクルス王はそう話すと着席し、今度はアレクサンドロス王子立ち上がる。だが先ほどと違い、その顔を王の方に向けていた貴族たちの半数以上は、アレクサンドロス王子が立ち上がるタイミングで目を伏せ違う場所を見つめてしまっていた。


 次にこの国を治め、自らの上司となる者に対しあまりにも失礼な態度だったが、アレクサンドロス王子自身これは仕方のない事だと思った。彼らはまだ自分を認めてはいない。だが、だからこそ今日このような場を用意した。アレクサンドロス王子は普段とは違い、覇気のある声で話を始めた。


「皆の者。此度の戦いご苦労だった。特に僕の元で働いてくれた者達には感謝の言葉しかない。僕は君たちのおかげで此度戦いきることが出来、そして勝利を収める事が出来た。君たちには今後も僕の元で働き、僕を支えて欲しい」


 アレクサンドロス王子らしくない、今まで聞いたことのない覇気のある声。彼が放つ存在感はまるで戦場でのスクルス王の様だった。その為、目を伏せていた者たちが、驚いたように一斉に彼を見る。あれが遊び人?あれがアレクサンドロス王子だと?


 アレクサンドロス王子に労われた者たちは嬉しそうに何度も頷く。自らが信じた者が勝利したこともあるが、「これから自分の元で働き支えろ」という事は、彼が国王となった際には、自分達には優遇された立場が与えられるという事。彼らにとっては勝利と昇格が決まった最高の瞬間だった。


「さて、皆が僕の勝利を認めていない事は分かっている。皆が僕を認めておらず、僕の元で働くことを不満に思っている事も」


 アレクサンドロス王子の言葉で、再び多くの者がその視線を逸らす。それをアレクサンドロス王子はゆっくりと確認し、そして言葉を続ける。


「だがこの場ではっきりと言おう。僕はヘンリー王子よりも剣の腕が立ち、リナ王女よりも政治に詳しくそれを上手く行えると」


 声高々に宣言したその言葉に多くの者は驚き、そして彼を睨んだ。当然アレクサンドロス王子の横にいたヘンリー王子とリナ王女もだ。当然だろう。二人はその実力を何度も皆の前で示してきた。それを見ていた者達も、そんな彼らを知っているからこそ、彼らに付いてきたのだ。


「今回、二人の敗因は何だったか、皆の者は分かるか?何故僕が勝利を収めたかを考えた者はいるか?」


 だがアレクサンドロス王子は怯まない。そんな彼は、声を落とす事無く皆にゆっくりと問いかける。それに対し、皆は悔しく思いながらも、目線を伏せる。確かに何故だろうか。これまで二人は武功を示してきた。それに対し、アレクサンドロス王子はあまり目立ったことはしていない。それでも尚、彼はこうして勝利を掴んで見せた。誰もがその問いに答えられず、庭が静寂に包まれた。それを確認した後、アレクサンドロス王子は口を開く。


「いいかい?初代国王様はなんといった?「使えるものは使え」そう言ったはずだ。今回の戦い、いや、今回だけではない。今までヘンリー王子もリナ王女も、いや、皆の者がそうだろう。自らを、自ら仕える者だけを信じ、そして行動してこなかったか?」


 皆がその言葉に耳を傾け、そして考え出したことを確認した後、アレクサンドロス王子は話をつづけた。


 ヘンリー王子は確かに戦場で武功を上げた。リナ王女も確かに政策に力を注いできた。だが僕から言わせたらそれだけでは駄目だ。人の上に立つという事は、自らの力を示すことも大事だが、同時に如何に人を使えるか、その力も必要となってくる。君達にも心当たりはあるだろう?領地を治めるために、自ら一人が目立ち動き回ったとしても、出来る事には限界がある。だから部下を使い、多くの人を使わなければ領地運営などできはしない。


 今回の一件。二人は動きすぎたんだ。自らが目立つために、それを王にアピールするために。だからこそ僕は二人の行動も、その考えも容易く見抜くことが出来た。二人は、皆はもっと広い視野を持つことが必要だったんだ。


 国とは人だ。人が居て、街があって、そして国がある。君たちは君達だけで戦っていたつもりなんだろう。だが僕は国民すらも使い、国を使って君達と戦っていた。そもそもの規模が違うんだよ。そして今回、僕は外出禁止命令を出した王の決定を覆した。つまり僕は王すらも使って見せた。二人がしなかった事だ。二人は王を使わず、自らだけで戦っていたからね。悪い事じゃないけど、それでは僕には勝てないよ。


 皆思う所あるのだろう。確かに二人は、常に自らが目立ちそれが国民や王の耳に届くよう常に動いてきた。つまり、アレクサンドロス王子からあすれば、二人だけを見ていれば、その裏で部下たちがどのように動くかなどは容易く見抜くことが出来た。何故なら二人が目立つ勝ち方だけをする彼らだ。なら部下たちはそうなるように動くからだ。


 だがアレクサンドロス王子は違った。自ら「遊び人」として遊んでいる様に見せかけ、その裏で部下たちを上手く使って見せた。誰もがアレクサンドロス王子を注視しなかっただろう。


「おかげで僕の元には優秀な部下たちが集った。これは強がっているわけではなく、やろうとおもえば僕も自らが目立つ方法だってあったはずだ。だが僕はそうしなかった。僕の知る国王とは、人を上手く使い、そして必要ならば自ら剣を振るうことのできる人だからだ。実際今回皆は国王様に上手く使われただろう?そして最終的には国王様は自らも剣を振るおつもりだった。まぁ、今回はそうならなかったけど」


 アレクサンドロス王子の言葉に、皆がスクルス王を見る。確かにそうだ。今回の一件、自分達だけでなく、ノアの箱舟の者たちでさえ、スクルス王の掌の上にいた。


「時には自ら剣を振るい、戦場を駆け巡ることも大事だろう。だが先も述べた通り、それだけでは限界がある。だから僕は剣の腕も磨きながら、部下を育て、人を上手く使う事にこの18年間を費やしてきた。最終的にそれが国を上手く動かす事になるからだ」


 二人は自らが目立つことだけを考えていた。アレクサンドロス王子とは考え方が根本的に違う。確かにそれだけでは、一部の者はついてくるだろうが、それでは国は運営できない。アレクサンドロス王子は二人よりももっと広い視野で物事を見てきたのだ。


「先ほども言ったが、だからと言って僕は二人に武力でも知略でも負ける気はない。それを示せと言うなら僕は今後それを示していこう。君たちの納得いくまで、僕はその力を振るう事をここで誓おう」


 正直ヘンリー王子は自分よりアレクサンドロス王子の方が剣の腕が立つのは知っていた。実際戦ったわけではないが、彼が訓練をしている姿を何度も見たことがある。素人では分からないかもしれないが、それなりに腕が立つと、見るだけで相手の腕が分かるものだ。でも、だからこそ、ヘンリー王子は何度も戦場を駆け回り、その武功を示してきた。彼に負けないよう、自分の中にある彼に対しての嫉妬心を抑える様に。


 リナ王女も政策でアレクサンドロスの方が頭が切れる事は知っていた。そして彼には妹のサラ王女が付いていた。彼はサラと何度も話し合い、そしてサラを使って上手く政治を行ってきた。だからこそ、リナ王女も負けじと頑張ってきた。


 結局二人は、アレクサンドロスが出来る事を認めたくなかったのだ。自らが一番だと信じ、自らが目立つことを考えてきた。だがアレクサンドロスはもっと広い視野で、国を動かしてきた。そもそも戦っている土俵が違ったのだ。


「少し話が長くなってしまったね。まぁ僕にそれが出来るかどうかは、今後皆が僕を見て判断してくれればいい。だからしっかりと僕の元で、僕を見ていてくれよ?じゃないと僕のかっこいい所を見逃してしまうからね」


 アレクサンドロス王子は不敵に笑って見せる。その姿は先ほど、謁見のまで皆がみたスクルス王とその姿が重なって見せた。


 そこで皆が気が付く。やはり狸オヤジの子も狸だったと。結局皆はこの二人にずっと騙されてきたのだ。スクルス王には掌で転がされ、アレクサンドロス王子にはその本性を騙されてきた。


「未来の話はここまでにしよう。ここで僕が言いたかったことは、僕のこと以外にもある。それは、国とは人だという事だ」


 実際、君達が上手く政策を打ち立てたって、それを実行する民が付いてこなければ意味がない。今回の長き戦いにおいて、この中でどれほどの人が君達に力を貸しただろうか?


 当時の問いに、皆がハッとなり過去を思い出す。今回の件で皆が勢力を広めるため、多少強引にでも商会をなどを動かそうとした。だがそれはことごとく民に潰されて苦い思いをしてきた。だが実際、その裏にはアレクサンドロス王子がいたのだ。彼が皆の勢力を広げさせないために裏で暗躍し、民を上手く使って見せたのだ。


「皆が今考えている様に、そういう事だよ。いくら自分達だけ頑張った所で、人には限界がある。「使えるものは上手く使う」。それが大事なんだ。正し、合法的に、人道的に、ね」


 商会や民を味方につけたアレクサンドロス王子。ヘンリー王子とリナ王女の情報網は貴族や兵士からによるものだが、アレクサンドロス王子の情報もは国そのものだ。勝てないはずだ。そう考える者が増え、これまで民を見下していた者の心が動いた。


「まぁ、それについても、今後少しずつ考えを変えていけばいい。僕の力になるからさ」


 少しづつ、少人数だが、アレクサンドロス王子を見る目が変わってきた者が増えてきた。今まで目を伏せていた者達が、真っ直ぐと王子の目を見る様になってきた。


「うん。何人かは僕のめ目を見て話を聞いてくれるようになってきたね。だが、まだそれは半数だけだ。僕から言いたいことは、まだまだあるけれど、とりあえず食事にしようか。こうピリピリしていたら話が頭に入ってこれないだろうからね」


 このタイミングで食事?皆が疑問に思っている時、アレクサンドラの言葉合図にメイド達が皆の前に食事を運んでいく。


「ああ、そうだ。今回の料理はコース料理になっていてね。折角だから、コックを代表して彼に料理説明をしてもらおうと思う。皆、存分に楽しむように」


 アレクサンドロス王子の言葉で、皆が王族のテーブルの横に立ち、一人の男性を見つける。


「皆様、今晩は。今回、料理を解説させて頂きます、「テツ」と申します。コック一同誠心誠意作らせて頂きましたので、宜しければ耳を傾け、そして料理を存分に楽しんでもらえると幸いです」

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