第42話街宣運動

「やはりヘンリー第一王子だな。政治もさることながら、常に戦場に駆けつけ指揮をする勇敢さは、スクルス王を同様英雄の素質を持ってらっしゃるんだ」

「あの凛々しいお姿。一度でいいから名前を呼ばれてみたいわ」


 テツ達が王都に気て約一か月が経った。現在王都では、王子達による街宣運動が行われていた。今日から三日間、貴族の当主自ら王子達と共に馬に乗り王都をゆっくりと歩く。期間が三日間設けられているのは王都が広いため、一日では東西南北の大通りを周り切れない為だ。


 ヘンリー第一王子は王都の貴族及び騎士隊長達に囲まれて進む。王都は国の中心、その貴族たちを束ねるヘンリー王子が時期王にふさわしいと考えるものは多かった。


「いやいや、頭がきれて武の才もある。女性なのにあの堂々としたお姿。次期国王にはリナ第一王女様がなっていただかなくては」

「妃さまに似てお美しい。私達もリナ第一王女がいいと思うわ。女性の王様の方がきっとこの国をもっと豊かにしてくださるはず」


 ヘンリー王子とは別の大通りを、王都周辺の貴族達を連れ進むリナ第一王女。真に国を支えているのは周辺の貴族達だと考えるものは少なくなく、彼女もまたヘンリー王子同様時期国王の有力候補者だ。


 勿論周辺貴族を連れて北からといって、国の警備は怠っていない。ほとんどの兵士は自らの領地の警備にあたらせている為、党首達は少数で王都に来ている。それでもヘンリー王子に負けない数の有権者を集めている。彼女が時期国王と言われるのも納得できる。


「おお、初めてお姿を見た気がする。なんかこう、神秘的な美しさがあるんだな」

「他の王子達に負けないくらい頭がよくて、政治関係でも貴族たちが助言を求めるそうだぞ。だが残念なことにまだお若い。あと5年後だったら、もしかしたら第一有力候補者だったかもな」


 ヘンリー第一王子とリナ第一王女と比べると、サラ第二王女は連れている貴族達の数が少なかった。それどころか、貴族や騎士ではなく、文官なども連れている様に見える。


 少し引っ込み思案な彼女は、こうして民の前に姿を現すのは初めてのことだった。だがそれでも民は彼女の事を知っている。勿論名前を、と言う意味ではなく、彼女は政治家としてすでにその才を発揮していた。多くの民がその事を知ってはいるが、他の王子達に比べやはり支持率が少ない気がした。


「はっはっは!俺は王子を応援してるからな!この前はありがとうな!」

「よっ!民の味方の王子!俺達皆あんたに感謝してるんだからな!今日はかっこいいじゃねぇか!」


 他の王子達に比べ、熱狂的な信者がいるわけではない。だが遊び人アレクサンドロス第二王子は多くの国民に知られ、そして指示されていた。その理由には彼が連れて歩くのは貴族だけでなく、文官、騎士、大国筆頭商人など、立場に関係なく様々な人々を連れているという理由があった。立場に関係なく、分け隔てることなく多くの人々を連れているのが国民から愛される理由の一つだろう。


 彼らは様々な想いを抱きながら堂々と王都を歩く。その三日間は王都はお祭り騒ぎとなり、わざわざ辺境や他国から彼らを見いに来るものも多かった。勿論、その分トラブルは様々な所で起きる。だがそれを予想し、王都全ての場所に兵を配備している為、あまり大ごとになる前にトラブルは解決され、なんとか街宣運動が行われた三日間は無事終了するのだった。


 その後五日間、未だお祭り騒ぎが収まらない城下町とは違い、城の中は今にも張り裂けそうなほど空気が張り詰めている。多くの支持者たちが城に留まり、自分の指示する者が時期国王に選ばれるのを待っているからだ。


 そこでも小さなトラブルや小競り合いなどはあったものの、わざわざ兵が出るような問題にはならなかった。自分達が騒げば、自分の指示する者に迷惑がかかり、それがスクルス王の耳に届けばその者は部下の面倒も見れないと判断されてしまう恐れがあるからだ。


 城の中は不気味なほど静かだった。水面下では様々な思惑が交差しているが、先ほど述べた理由から誰も声を大にして騒ぎはしない。


 その中でスクルス王は既に自室に籠り、次の国王にふさわしいものを考えていた。彼に会えるのはごく少数の限られた者、給仕を行うメイドと、宰相くらいのものだろう。その為多くの貴族達は、自らが領地の名産品を多く持ち込んでいた。会う事が出来ないのならと、料理地の名産品を献上し、国王に少しでもアピールするために。


 その中には沢山の食材も持ち込まれていた。その為城の中とはうって変わって、厨房は普段にもまして騒がしく、忙しかった。


「北のカプリ伯爵様より、沢山の魚介類が届きました!!」

「手の空いてる奴は冷蔵庫を整理して、空いてる場所にそれをぶち込んどけ!絶対誰が何を持ってきたか分からなくならないように入念にチェックして記帳しとけよ!」


 想定していた数より多くの献上品の持ち込みがあったため、厨房の冷蔵庫だけでは足らず、メイド達も総出で城内の冷蔵庫にそれらが運ばれる。城内で働く者たちが「こんなお祭り騒ぎ早く終わってくれ」と顔を青くして働く中、ボブとテツだけは笑っていた。


「これだけ物が集まれば、予定通り事が運べるな。頼むぜボブ」

「任せろ。俺達のこれまでの成果を、そしてこの一か月お前との研究の成果を見せつけられる最高の機会だ。ここで全力を出し切れなきゃ男じゃねぇよ」


 驚くほど料理馬鹿で、同時にそのかっこいい背中をコックたちは見つめ、そして歯を食いしばる。皆が実感している。テツが来てから様々な料理を作り、昇華させ、今の自分達はこの世界においてトップレベルに達している。予想以上に忙しい毎日に皆倒れそうなほど疲れているが、それでも笑うあの二人に皆が憧れ、付いていきたいと思っている。


 最後まで二人をサポートし、そして乗り切る。それが出来れば自分達はあの二人の背に少しは近づける。ここが正念場だ。ここで逃げ出してはいけない。


 疲れ果てたメイド達は厨房に逃げ込むが、彼らの目に見えるほどの闘志に溢れる姿に感化され、彼女達も歯を食いしばり仕事に戻る。そんな彼女たちの想いは伝わり、白全体の給仕たちは最後まで倒れることなく仕事をこなす。貴族たちが知ることはないだろうが、この城を支える者達は一丸となり、このお祭り騒ぎを支え乗り切ろうとしている。


 そして四日が過ぎた。スクルス王が宰相に一言伝え、それは瞬く間に城全体に伝わる。


「明日の午後正午過ぎ、謁見の間に集まれ、とのことです」


 その知らせを受け、皆が動き出す。


 ヘンリー第一王子は部下を集め指示を出し、リナ第一王女は王都を出て王都の外で待機していた兵たちと合流。サラ王女は自室にて側近のメイドに何かを伝え、アレクサンドロス第二王子はただ微笑み部下たちの報告を聞いていた。


 そして次の日、日の出と共に皆が動き出す。それぞれの想いを抱きながら、この国の未来をかけた戦いの火ぶたが切って落とされた。

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