第44話テツの作戦

「これは戦争ではなく、内乱ですか。それともう一つ確認したいことが、国民の外出時間をずらせますか?」


 王都のとあるカフェの個室。テツがアレクサンドロス第二王子から聞いた情報を纏め、そして考えを話す前に、テツは必要な情報を聞いていた。


「んー、まぁ出来なくはないかな。その理由にもよるけど」


 アレクサンドロス第二王子の答えにテツは頷き、そして自分の考えを話す。


「でしたら、一つの通りを除いて、国民を外出させ道を塞げばいいのでは?そうすればリナ王女は必然的に南の大通りに進むでしょう?」

「それは確かに僕らでも考えたよ。でもそれは難しいな。いくら人々が道を塞ごうと、あそこの通りは見晴らしがいい。もし外からリナ王女が進軍して来たら、それを見た彼らは我先にと道を開けていくだろう。それだと彼女達を一つの道には誘導できないし、彼女達を足止めできても10分程度だろう」


 テツの考えを聞き、あからさまにがっかりしたようにアレクサンドロス第二王子は答える。まぁ仕方ないか。王子がそう考えた時、テツは更に言葉をつづけた。


「いえいえ、ただ外出させるんじゃないですよ。皆で道で酒でも飲ませればいい。そうですね、『タコパ』なんでどうです?地球で若者の間で流行っていたんですよね、『タコパ』って。それにその予想外の単語に彼女達は混乱し足を止めるのでは?」

「……『タコパ』?『タコパ』って何?」


 更に続けるテツの言葉に、アレクサンドロスは目を見開き、次第に笑う。テツはまず『タコパ』を何なのか説明し、そして考えを話す。


 この世界にはタコ焼き器はない。結局テツは一口大のお好み焼きの様な物を作る事にした。小麦粉を水で混ぜ、その中にクラーケンの切り身を入れて混ぜて焼くだけ。ソースは地球のそれと同じものを用意する必要はない。それに合って美味しければなんでもいいだろう。テツは簡単なソースの作り方も同時に教えると約束した。大事なのは「皆が道で飲み食いする事」と「タコパ」という単語なのだから。


 ボブ料理長の話しでは、決戦の日前後に向けて、城では馬鹿みたいに大量の食材を用意します。その量を多少増やしたところで貴族達に気づかれることはないでしょう。それに王子の知っての通り、クラーケンは丸ごと俺が持っています。タコ焼きに必要なのは、小麦粉とタコ。まぁ他のも拘れば色々必要ですが、その二つがあればなんとかなります。つまり、食材に関して言えば低コストで問題なく用意できますね。あ、クラーケンは丸ごと今回の件に使っていいですよ。


 リナ王女達は進軍し、王都へ突入する。だが、そこでは国民が料理と酒を楽しんでいる。そうすれば彼女達の歩みは止まるでしょう。戦いに赴いた先では自国の民がお祭り騒ぎ、予想していても戸惑う光景でしょうね。


 おまけに彼らは「王子が認めたこと」なら簡単にはどかないでしょう。酒が入っていればまともな判断が出来ず、なおのことです。まぁ正常な判断が出来ていても、道には沢山のテーブルに酒に料理。簡単には道は開きません。


 加えて『タコパ』。もしリナ王女達に気が付いた民が、彼女に『タコパ』の事を話したなら最高ですね。彼女は沢山の事で戸惑うでしょう。「何故民が外出している」「何故どかない」「『タコパ』とはなにか。

 

 正常な判断ができない彼女達は必ずこう問います。「全ての道が塞がっているのか」と。南通りだけが空いているとわかれば、彼女達はそこを進むしかありません。


 戦争なら民は殺されているでしょう。でもこれは内乱、ただの政権争い。ならばノアの箱舟達は民を殺すことは絶対で来ません。それが悪手だという事は、脳みそが付いている大人なら誰でも分かる事です。


 王子はテツの話を聞き、大いに笑った。いや、笑うしかなかった。


 当然彼や、彼に着き従う者たちでこの件についてはかなり話し合われた。だがあまりいい答えは出泣てこなかった。


 金で兵を雇うか?冒険者を使うか?商人を使うか。誰をどう動かすか。だがどれも自国の「王女様」の進軍を止めるまでの理由にはならなかった。


 だが彼は、ただ「料理を楽しみ酒を呑む」事を提案した。勿論、とある商人が「お祭り騒ぎを起こしてしまえばいいのでは?」と提案した。だがそれは却下された。


 いい線言っている気はした。だが、お祭り騒ぎをしていても、それは「王女様」を止める事は出来ないだろう。先も述べた通り、道は城から一直線。人々が道を開きだせば、必ずそれは皆が見て同じことをするはずだ。


 だが皆が等しく「料理を頼み酒を呑め」ばどうなるだろうか。道が埋まるほどのテーブルが並び、皆が「座り込んで」「料理を楽しみ酒を呑む」。安心して酒を呑む彼らは正常は判断が出来ず、道を開くためにも、皆が座り込み、沢山の物が置かれている状況。無理やり進んでも城にたどり着く頃には日が暮れてしまうだろう。


 なんとも料理人らしい答えだ。なんとも彼らしい答えだ。


 王子はそれに賛同し、計画を練った。テツがクラーケンを提供してくれるため、食材費は想像以上に安く上がりそうだ。次に王をどう説得するか。これは王子には考えがあった。「使えるものはなんでも使え」。それがスクルス王の考え。ならば、王子はスクルス王を使えばいい。


 王都に入り込んだ「ノアの箱舟」を捕まえるから、国民の外出禁止日時をずらす許可が欲しい。王子は素直にスクルス王に頼んだ。まさか自分を使うとはと、スクルス王は笑い、王子に許可を出した。もちろんそこには王子とスクルス王の信頼関係があってからこそだが。


 次にどうやって国民にも、他の勢力たちにも気づかれずに実行するか。それは民に愛されたアレクサンドラ王子だから出来る事だった。


 王都で有力の商人たちを少数、それと南を除く信頼できる飲食店のオーナーを十数名だけ集め、彼らのお願いをした。「食材はこちらで用意する。当日、日が昇った後、皆が運営する全ての店舗の前で露店を開き、そして宣伝してくれ」、王子はそう頼んだ。


 彼らは王都で有名な商会や飲食店のオーナー達。その言葉の信頼度や宣伝する実力は折り紙付きだ。いつも助けれらている王子に恩返しをする為に、彼らは快くそれを受諾した。勿論、このお祭り騒ぎを意の一番に始める彼らは、大量の酒も用意しておく。そうすれば、王子の用意した食材とレシピを配るついでの、いい商売もできるからだ。


 勿論王子はその事込で彼らにお願いをしている。食べ物だけでなく、同時に酒も初から出回れば、日が昇る頃には王都には正常な判断ができない酔っぱらいが溢れかえるからだ。


 テツの料理、王子に対する王の信頼度、商人達に対する王子の信頼度。この三つが合わさって初めて実行できる方法だ。単純だが、馬鹿みたいな案だが、本当にそれが出来れば王子にとって最高の方法となる。


 実際それは成功した。誰も予想せず、誰も考え付かなそうな単純な方法だからこそ上手くいいったといってもいいだろう。だれでもできる料理に沢山の酒、それに王子の許可。それがあれば後は国民が勝手に騒いでくれる。


 そんな事があったなど知らないリナ王女は冷静さを失い、同時に予想外な出来事に背を押されたヘンリー王子は天が味方したと勘違いしている。


 テツにはここまで予想できていなかったが、この作戦のもたらす「二人が冷静じゃなくなる」効果も、勿論アレクサンドロス王子は予想し、城の上部の窓から彼らを見て微笑み口を開く。


「さ、仕上げと行こうか。皆頼むよ」


 いつも呑気な彼が覇気のある声で話すと、彼の後ろにいた者達は顔を引き締め行動に移す。


 アレクサンドロス王子が動き出し程なく、城の門をくぐったリナ王女は、沢山の兵を連れほくそ笑んでいるヘンリー王子と対面するのだった。

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