第7話地竜

「ま、とりあえずこれでも聞きな」


 ギルマスと呼ばれた女性は一つのガラス玉を取り出し何か操作する。


『……かったんだ!何でこんなクエスト受けたんだよリーダー!』

『仕方ないだろ!ギルドからの強制クエストだ!断ればそれなりの金を取られるかランク降格だぞ!!』

『確かに。でも俺達がこんな討伐クエストなんて無理だろう!!今まで金払って傭兵にやらせてきた俺たちがまともな戦闘なんてできないぞ!!』


 なるほど、ボイスレコーダーのような物か、とテツは気が付く。あのガラス玉がどういう原理で動いているかは分からないがあれも魔法で動く所謂『魔道具』の一種なんだろう。


 その声は明らかにクレイグ達の物で、彼らはそれを聞いて顔を青くする。


『そうよ!!今までみたいに誰か臨時パーティーを雇って騙して身ぐるみはがして殺せばよかったんだわ!』

『分かってる。分かってる!!皆まで言うな!今回は仕方ないだろう!体調不良とでも言ってクエスト破棄しよう!』

『ああ、それがいい。馬鹿なギルドは気が付かないだろうさ』

『そうね。違約金は痛いけどこの前身ぐるみはがした、アドルフ、だっけ?あのおっさんで結構稼がしてもらったしね』

『ああ、あれは久々にいいカモだった。お前がちょっと色仕掛けしただけで付いてきたもんなあのおっさん』

『ふふ。ちょっとパンツ見せただけで鼻の舌のばして。絶対童貞よあのオヤジ』


 ここまで聞けば誰もが真実にたどり着くだろう。まぁ同時に余計な情報まで漏らされてテツの隣でアドルフも一緒に顔を青くしているが。


「さ、何か言い訳はあるか?冒険者クレイグ?」


 ギルマスは微笑みクレイグに問いただすが、その眼は明らかに笑っていおらず体からは殺気が漏れ出て冒険者たちは皆冷汗をかく。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!そんなものは作りものだ!くそ!俺たちは騙されたのか!誰だ!こんなことをしやがったのは!」


 だがクレイグは往生際悪く反論する。が、それもギルマスの殺気によりすぐに口が開けなくなる。


「これは録音機だ。各ギルド、そしていくつかの王国兵の駐屯所に存在する『取り調べ用』のな。かなり貴重なものだが今回は重要案件だったので私が直に持ち出し録音した。気が付かなかったか?今回私はお前達にずっとついて回っていたのだぞ?」


 その言葉にクレイグは口を開け言葉を失う。ギルドマスターが自らそう言っているのならばもうこの状況はどうあがいてもひっくり返らないからだ。


「く、くそ!!何でギルマスが出てきやがった!こんな汚い方法で!だからテメェはいつまでも結婚出来ねぇんだクソアマが!!ヒッ!?」


 クレイグは言いすぎた。誰もがそう思った瞬間辺りの温度が下がる。


「いいか?今回私が忙しい中、男たちの約束を断ってまで、自ら出向いたのは私のギルドでランクを詐称している奴がいたからだ!男達とのデートよりもギルドの信頼をを裏切る奴は万死に値するからだ!沢山の男達に言い寄られている私でさえ許せず見逃せない事態だったからだ!分かるか!?」


 ギルマスから発せられた殺気によりクレイグ達はしりもちを着き身動きが取れなくなる。いや、他の冒険者たちもだ。皆身動きが取れない。そしてその中で皆同じことを思う。


((((ギルマスが男に言い寄られてるとことなんて見たことねぇよ))))


 だが誰もそれを口にしない。いや、出来ないい。それを口にした瞬間それは『死』を意味するからだ。


 だがその中でただ一人動いた人間がいた。テツだ。


 テツは振り返りまじまじとギルマスを観察する。確かに彼女は容姿端麗だ。しかもギルドマスターという事はそれなりに地位も高いだろう。こう言う女性がこの世界ではモテるのかと考えていた。


「ああ?てめぇは何見てやがる」


 そんな自分をまじまじと見つめるテツに対しギルマスは殺気をぶつける。


 だがテツはそんな事に気が付かないとでも言うかのように冷静に、そして綺麗な所作で彼女の問いに答える。


「いえ、思わず見とれてしまいまして。貴方のような女性が沢山の男性に言い寄られるのは納得しました。ご気分を悪くされたなら謝罪します」

「……へ?」


 テツの予想がいな言葉にギルマスは殺気を止め、そしてみるみると顔を赤くする。


 テツは自分では気が付いていないがかなりのイケメンだ。元々そうだったのだが、女神様が予想外の力を与えた際に、その容姿も異世界で違和感のないように変えていた。しかしうっかり力を与え過ぎた際にその容姿も大きく変えてしまい、今のテツはかなりの美男子と言えるだろう。


 そしてテツは前世も童貞だ。何せ仕事しかしてこなかった人間だ。だが世界を歩き回り接客業をしてきた彼にとって女性を褒めるという事は挨拶のような物だ。


 お客様の気を良くして食事を楽しんでもらう。それが見についていたテツはついつい初対面のギルドマスターにそれをやってしまう。


 だがテツは知らなかったがこのギルドマスターは男に褒められ慣れていない。常に全線で戦いその力を示してきた彼女は一種の化け物、そんな彼女を口説こうなんて男はそういなかったからだ。


「わ、私褒められてる?」


 思わぬ反撃に顔を真っ赤にし固まるギルマス。


 だがその時間がまずかった。


「ね、ねぇ今あれを使えば逃げられるんじゃない?」

「で、でもあれは緊急時用にとっておいた方が」

「馬鹿!今がその緊急時じゃない!ほらかして!!」


 クレイグ達は逃げ出すために以前手に入れた一枚の羊皮紙を取り出し魔力を込める。


 すると羊皮紙に描かれた一つの魔法陣から、ドス黒い魔力と黒い煙が飛び出し辺りを覆う。


「な、なんだこれ!話と違うぞ!!」

「わ、私悪くないわ……キャーーー!!??」


 その黒い瘴気はクレイグ達三人を包み、そして彼らは消えてしまった。


 誰もが何が起きたかわからず戸惑っているその時、黒い瘴気が一つの大きな塊となりその姿を現す。


「じ、地竜、だと!?」


 ギルド前の大通りを埋め尽くすほどの大きさの地竜がその姿を現し、そして街全体に聞こえるほどの叫び声を上げた。

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