第19話服と女性?

「あらいらっしゃい!綺麗な方ばかりね!ゆっくり見ていってね!」


 恰幅の良いおばちゃんのいる服屋に入ると、女性陣は素早く行動し服を漁りだす。この店はカプリの街でも高級ない服が多く売られていて、「伯爵に会うならばここだろう」というアドルフのアドバイスで来た店だ。


「まぁ、俺には縁のなさそうな店だな」

「何言ってやがる。お前さんはいつかきっとこういう服を必要とするだろうから、今のうちに買っておいた方がいいぜ?」


 真顔でそう言うアドルフに対し「まさか」と苦笑するテツだったが、その時はすぐに訪れた。


「あ~ら、いらっしゃい。お兄さん達そんな所で突っ立ってないで、こっちにいらっしゃいな」


 背筋がぞっとし、本能的にその場から逃げようとした二人の腕を誰かが掴み離さない。「ギギギ」と音が鳴りそうな速度で、ゆっくりと二人が振り返ると、そこにはアドルフよりさらに体つきがいい男性2人が笑顔で二人を見つめていた。


「あ~ら!やだ、この子いい体つきしてんじゃない!?これなら沢山似合う服あるわよ!」

「やだ!こっちの子はもの凄い美形よ!王都でもこんな美形の子は中々お目にかかれないわ!食べちゃいたいくらい!」

「何言ってるの!食べるのは可愛いお洋服を着せてからの方がいいわ!」

「そうね!沢山着てもらって素敵な日にしましょうね!」


 悪魔のような会話をするおっさん二人は、真っ白なメイド服に身を包んでいるが、洋服屋に似合わない程発達した筋肉のせいでピチピチになっていた。


 テツとアドルフは本能的に、同時に同じことを考える。


((逃げなきゃ殺される!!))


 しかしテツの筋力をもってしても何故か彼の腕を振り払うことが出来ない。それよりも何故か力が上手く入らない気がした。


「ふふ。逃げちゃだーめ。この店はね、防犯対策のためにお客様の魔力を抑えて弱らせる魔法陣が敷かれているの。とても高かったけど、効果は抜群みたいね!」


 ウィンクをしながら話す男性に対し、「そんなのいらなそうだが」と思うが口が裂けてもそんなことを言える状況ではない。

 

 その後女性陣が服を選びきるまで、二人は玩具のように男たちに弄ばれるのだった。


「お待たせしました!あれ?お二人もお洋服を買われたんですね」

「はは……。ええ、買った、と言うよりか、買わされたいうか、大事な物を奪われた感じでしたが……」

「い、異世界、恐るべし……」


 店に来た時より少しやつれた二人に、彼女たちは首を傾げていた。


「しかしやはり皆絵になるな。とても似合っているじゃないか」


 アドルフの言葉にテツも改めて彼女達の服装に目をやる。


 メアリーはお姫様と分からないように余り派手な色ではないが、白と赤を基調としたワンピースのような恰好である。首に赤のリボンをし、可愛らしさの中にも気品が感じられる服装となっていた。


 レイは黒と赤を基調とした、騎士と言うよりは執事のような格好だ。だがメアリーと同様に赤いリボンや、所々についているフリフリが可愛らしさを演出している。


 メルとミルはゴスロリのような格好だ。メルは青基調、ミルは緑基調だ。ゴスロリと言ってもスカートタイプなので動きやすく護衛しやすい服装となっていた。


 皆、どこに行っても恥ずかしくない、オシャレでとても綺麗だ。


「テツ。見とれすぎだ。まぁ気持ちは分からんでもないがな」


 気が付けばテツは暫く彼女達に見とれてしまっていようだ。それに気が付いていた彼女達もクスクス笑い、テツは頬が熱くなっていくのを感じた。


「貴殿らも上級の冒険者の様ではないか。この店を選んだのは正解のようだな」


 レイに言われ、テツとアドルフは自身の格好を見直す。


 テツは黒と赤を基調とした冒険者の格好だ。地球で着ていてもオシャレだと言われそうな服装だが、慣れないマントが少し気恥ずかしい。


 アドルフは赤と白を基調とした服装をしていた。少しちょい悪親父のような印象を受け、どことなかうラスボス感がある。


 二人とも自身の今の服装には満足である。満足であるが、イコールこの店で良かったとは思わない。もう二度とこの店には来るまいと心に誓った二人だった。


「っと、そろそろ行こう。注目を集めすぎている」


 目の前にいるのは仮にも一国の姫様とその護衛たちだ。その美しい容姿と服装が相まって、道行く人達の注目を集めすぎていた。


「ふふっ。そうですね。行きましょうか」

 

 だが流石王女様。そんな数多くの視線を気にすることなく、堂々と歩き出した。しかしどこにでも面倒な輩はいるものだ。数歩歩いたところで冒険者のような恰好をした男性四人に絡まれてしまった。


「おいおい、めちゃくちゃ美人じゃねぇか。なぁ姉ちゃん達。俺達と遊びに行かね?」

「おい、俺こっちの二人めちゃくちゃ好みだわ!なぁ名前なんて言うの?」


 男達は彼女達が口を開く間も与えず、次々に質問し、その肩に腕を回そうとする。


「おい、悪いがこの人らは俺達の連れなんだ。邪魔しないでもらおうか?」


 その手をテツとアドルフが振り払い、彼女たちの前に立つ。


「ああ?なんだテメェら。今俺たちが話しかけているんだろ」

「その前に俺たちが話していたし、俺たちの連れなんだ。他を当たってくれ」

「はぁ?ふざけんなよ!な、こんなおっさんと一緒より俺達といた方が楽しいぜ?色々いい事も教えられるしさ」


 彼らは二人を押しのけ彼女達に話しかけようと必死だ。どこの世界にも人の話を聞かない人間はいるものだな、とテツはため息が出る。


「悪いことは言わない。そこをどいてくれ」

「はぁ?殺すぞテメェ。さっさとどけよ」


 人の話を聞いてくれ、とテツは顔を顰める。彼らは引かなければ酷い目にあうだろう。後ろでは剣の柄に手を欠けたレイが待ち構えている。彼女の実力は相当のものだ。目の前の彼らでは太刀打ちできないだろう。それだけでなく、後ろにいる女性の一人は一国の王女様だ。それに手を出せば彼らの死刑は免れない。


 アドルフが目で合図を送ってくる。「こいつらは駄目だ。さっさと片付けよう」と。仕方なくテツも包丁の柄に手をやる。が、それを引き抜くことなく、事態は収束することとなる。


「あ~ら、元気なお客様ね。私達の店の前で暴れるなんていい度胸じゃな~い?」

「本当ね。でも若くて元気な事はいい事だわ。お姉さん達感じちゃう」


 その動きはテツでなければ見逃していただろう。先ほどテツとアドルフの服を見繕った女性(?)二人が一瞬のうちに男たちの背後に回り、そして首根っこを掴んでしまった。


「お、おい!?なんだ!?誰だおっさん!!」


 男は思わず叫ぶ。だがその一言が致命的となることは男たちは知らなかったのだ。


「おい、誰が男だコラ。殺すぞ?ん?犯すぞ?」


 テツとアドルフにギリギリ聞こえるくらいの小さな声で、女性(?)二人は男たちにささやき、その手を強めた。


 相当強く首をにぎったのだろう。その手を振り払おうと暴れる彼らの抵抗は空しく、直ぐに顔を青くして動かなくなってしまった。


「あら~。この子達素直ね。もしかしてお姉さん達に食べられたいのかしら?」


 女性(?)二人は男たちをそのまま店なのかに引きづりこんでいく。いきなりの出来事に、一同はあっけに取られ、何が何だか分からなかった。


「皆様!!ここにいらっしゃる方々は、先ほどうちの店で服を買われていった方です!皆さまもよろしければご覧になっていってください!!」


 店から可愛らしい女性がそう声を上げる。方々、と言うのはどうやらテツたち一同のようだ。テツが辺りをみまわすと想像以上に人が集まってしまっていた。この機に人を呼び込もう、と言う魂胆らしい。


 テツとアドルフは兎も角、後ろの4人は一国のお姫様とその護衛たち。誰が見ても容姿端麗な彼女達が着ている服は、より一層輝いて見えた。それを見ていた人達は我先にと店の中へ流れ込んでいく。


 暫くすると、店の中からは女性の楽しげな声と、数人の男達の悲鳴が店の中に響き渡っていた。

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