第13話旅の始まり
「それではお二人でパーティーを組む、という事でいいですか?」
ギルドに訪れた二人に受付嬢は確認する。だが二人は声をそろえ答える。
「「いや、パーティーは組まない」」
「え?組まないんですか?だってお二人はお似合い……ではなく旅をするならパーティーを組んでいたほうが何かと便利かと思いますが」
受付嬢の答えに一瞬アドルフは顔をしかめるが、今はそれどころじゃない。
「こんな『ハーレム』という男のロマンも分からん奴と組ん出られるか」
「俺だって『料理道』が分からん奴とは組みたくない」
二人は此処に来るまでの道中、その事で言い争い喧嘩をしていた。
睨みあう二人を見て受付嬢は「ふふ。やっぱりお似合い」と良からぬ妄想をするが、幸か不幸かその言葉は二人には届かなかった。
「でも同じ方向へ向かうのですよね?」
「ああ、こいつは何も死なないおこちゃまだからな。それに一応命の恩人だから」
「俺は何も知らないし、誰かこの世界の事を教えてくれる人は必要だから」
二人とも嫌そうに顔をしかめそう言う。二人ともいい年したおっさんだ。ちょっとした言い争いで、じゃあバイバイなんて子供のようなことはしない。ちゃんと大事な事は理解し受け入れられる。
受付嬢は「ふふ、わかりました」と一枚の紙を差し出す。
「という事はお二人で同じクエストは受ける事が出来ません。ただ採取系や護衛系のクエストはバラバラでも受けることが出来ます。今回『港町カルプ』に向かうのでしたら是非このクエストを受けていってください」
そう言い差し出された一枚の紙を二人は受け取ると、目を通しサインをする。
「ではよろしくお願いしますね」
受付嬢の言葉に二人は頷き、そしてギルドを後にした。
「まぁ実質テツ一人で出来る仕事だけどな」
「だな。まぁそれでも道案内が必要だ」
二人は北門から街を出て次の街へ向かう。港町『カルプ』へは此処から北東へ、街を二つほど超えた所にある。
今回任されたクエストは『採取』だ。だがその総量は多く、とても一人ではこなすことが出来ないだろう。そこでテツの持つアイテムボックスに目を付けた。
「場所はどこだっけ?おホモ山だっけ?」
「止めろ。『オコト山』だテツ。男二人で『おホモ山』に向かうなんてシャレにならないぞ」
このギガ大国は大陸一の大きさの為、その周辺には大小様々な国が存在する。今回行くオコト山は北の国境付近に位置する大きな山だ。
「北にはなんて国があるんだ?」
「北にはいくつかあるが、隣接した大きな国と言えば『ドワーフ大国』『獣国』がある。それと大きくはないが『エルフの里』なんかも有名だな」
北の『異種族の国』、『南の帝国』海を隔て『東の火の国』、『西の教国』。それに囲まれているのがこの『ギガ大国』。
「昔はこの国も半分くらいの大きさらしかったんだが、帝国が異種族を攫い奴隷にするなど酷い行為を繰り返していた。その行為を見逃すわけにはいかないと怒った当時の国王が異種族、火の国と手を組み帝国領を半分奪い、この大きな『ギガ大国』となったわけだ」
奴隷制度と言えば地球にもあったが、あまり馴染みのないテツには嫌悪感を感じる。確かに始まりの街にも奴隷はいたが、皆割と幸せそうな顔をしていたのであまり気にならなかったが。
テツはその事をアドルフに聞いてみる。
「ああ、王国では『奴隷と言えど人間、人として最低限の権利がありそれを粗末に扱ってはならない』と言う決まりがあるからな」
元々奴隷制度とは救済措置だ。生活が出来なくなった人が裕福な家庭に身を売り働かせてもらう。奴隷の首輪は『生涯この人に仕えます』という忠義の印みたいなものだった。
「まぁだが人間の業は深い。いつの間にか奴隷は道具のように扱われるようになっちまった。だからわざわざこの国では奴隷を守る法が出来た」
だが帝国で未だに『奴隷は道具』という風習があるらしい。一度そうなってしまえばそれを変える事は難しく、法を変えたとしても長い年月がかかるだろう、というアドルフの意見だった。
「成程な。胸糞悪い話だ」
「お前さんがそう感じてくれる人間で良かったよ」
見渡す限りの草原を二人はゆっくりと歩きながらそう話す。時頼始まりの街を拠点にしている新人冒険者達が二人を追い越し走り去っていったり、商人たちがこちらに会釈をしながら馬車に乗り通り過ぎていく。
二人は先日の地竜のローストビーフ丼の件で町中の人に顔が知れ渡っている。特に商人からは「あの時はありがとうございました」とお礼を言われることが多い。どうやら彼らはあの騒ぎの中近くで商売をし、かなり儲けていたらしい。全くしたたかな事だ。
「しかし異種族か。ドワーフって言ったらあれだろ?小さくてずんぐりむっくりで、男女共に髭が生えてて鍛冶ばかりして気難しくて」
「半分正解だ。と言うかなんだその設定は。女性に髭が生えているわけないだろ。怖いわそんな女」
どうやら地球に伝わる童話の中のドワーフは、あくまで架空の設定だったようだ。
「平均的に背はあまり高くないが、ずんぐりむっくりばかりじゃないぞ?当然スタイルの言い美人だっている。まぁ気難しいのは否定できんがな。鍛冶が得意と言うか、皆器用なんだ。建設だって彼らの十八番だ」
エルフに関しては大体地球のそれと同じ認識だった。耳が長く皆美男美女。魔法と弓が得意で非力。獣人と言うのは人間に耳や尻尾が付いていて魔法は逃げてだが身体能力が高いらしい。
「まぁだからこそ人攫いにはよく合うらしいから人間を良く思っていない奴が多い。お前も気をつけろテツ。いくら美人だからって、気軽に尻を触ると殺されるぞ」
「俺はそんな事はしない。するとしたらお前だろアドルフ。と言うか経験済みか?」
「……昔酒場でちょっとな。あの時は死ぬかと思った」
全く何してんだと二人は笑いながら草原の街道を進む。テツの今の年齢は20歳だが元々アドルフと同じ35歳。アドルフもそれを知っているからか、二人は気兼ねなく話し話に花を咲かせていた。
「しかしお前さん本当に童貞か?今はまぁ女神さまのおかげなのかもしれないが、それでもその容姿を見るからに前世でもかなりモテただろう?」
「モテた、と自分で言うのはアレだが、まぁ確かにそれなりに言い寄られたな」
「なら何で童貞なんだ?本当に男の方が?」
「やめろ。そんなんじゃない。……ただダメなんだ。どうしても女性の前だと営業モードになってしまう。一種の自己防衛のようなものなんだろうが」
テツはイケメンだ。特に今は女神さまのおかげもあり、エルフにも負けてないような容姿をしている。
「かー!!もったいねぇ。もったいねぇよお前さん!!よし決めた!次の街に行ったら俺がお前さんに女を教えてやる!」
「いらん!俺は初めては好きになった相手とがいいんだ!」
「乙女か!そんなんだから童貞は駄目なんだ。いいか?女ってのは……」
「馬鹿野郎!女性は皆お姫様なんだ!そんなんじゃ……」
「何だとこの童貞!」
「やんのか変態パンツが!」
時に喧嘩し、時に笑い合い、そして語り続ける。
二人は会話が途切れることなく歩き続けた。
爽やかな風が草原を吹き抜け、二人を撫で突き抜ける。
二つある太陽が辺りを暖かく包み込み、今日は絶好の旅日和だ。
地球では料理ばかりして、友人とのんびり語らい遊ぶ機会などそうなかった。
一度死んでしまったが、それでもテツは今の生活が好きになっている。
こんな日も、まぁありだな、と感じはにかんだ。
「おいテツ!何笑ってやがる!いいか!?女の前では俺がパンツ一丁で魔物に襲われていた事は内緒だ!俺とお前との出会いはそれは壮絶でかっこいいものだったんだ!いいな!?っておい!聞いてるのかテツ!!」
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