第33話スクルス王

「おお……。これは凄いな」


 カプリの街を出発して10日ほど。いくつかの街を経由して進んだ一行は、漸く王都へとたどり着く事が出来た。王都はこれまでの街と比にならない程大きく、美しかった。


 街は100万人以上が住める作りになっているらしい。100万人と聞くと、地球人からしたら「少ない」と感じるかもしれないが、こちらには高層ビルやマンションなどと言う文化が存在しない。つまり100万人が皆一軒家や宿などに住み、建物は横並びになっているという事だ。街の中を隅々まで歩き回ったら何日かかるか分からないだろう。


 街は中心に行くにつれ、緩やかな上り坂となっているようだ。そしてその中心に位置する場所に堂々とそびえたつのが、このギガ王国の中心にして王城「ギガ王城」だ。真っ白で大きなギガ王城は地球のどの城よりも大きく美しく感じた。この異世界の雰囲気がそう感じさせてくれるのかもしれないが。


 地竜でも通れそうな大きな門を通り、一行は街の中へと入る。中へ入るとその人の多さや活気はまるで渋谷の街を歩いている様だった。色々な種族が街を歩き、馬車が行きかい大通りには競い合うように店が並んでいた。


「な、なぁアドルフさんや。なんで門をくぐって出た大通りから城が見えるんだ?」


 驚き挙動不審なテツに対し、くつくつと笑っているアドルフに思った事を聞いてみた。普通城というものは、門を通ってからある程度複雑な道を歩き、そして城門が見えてくるものだ。その理由としては、敵に攻められたとき、敵が一気に攻めてこれないよう、その勢いを殺すように道を複雑化する。勿論理由はそれだけではないが。


「ああ、良く気づいたなテツさん。だがこの国を作った初代スクルス王が、街の美しさを重視して王都を造ったのさ。城から放射状に街は作られ、建物の高さの制限もある。それにテツさんに言うように、普通の城は都市は複雑な形を造るのが基本だ。だが初代スクルス王はこういったそうだ。「攻めてこられるものなら攻めてきなさい。私は逃げも隠れもしない」と。その為こういった造りになったそうだ」


 城からは、パリの凱旋門から見える景色のように道は綺麗に舗装されているそうだ。しかし豪胆な王だ。自分ならそんな事は言えないだろう。


「まぁ、この国の王族は強いからな。頭がいいのは勿論だが、それだけでは全ての人々が付いてこないと考えた初代スクルス王は、王族に武の腕も求めた。その為現スクルス王はには二つの二つ名がある」


 一つ、「剛剣の王」、一つ「狸オヤジ」。


「まぁ皆、狸オヤジと呼ぶのは影でだけどな。だけどそれを知っているスクルス王は陰で喜んでいるそうだ」


 何故なら政治とは綺麗事だけでは成り立たない、時に騙しあい、化かしあいの毎日だ。「狸オヤジ」と呼ばれたという事は、自分がそれだけ腹芸が上手いと評価されているという事だ、というこという理由だそうだ。

 

 凄い王様だな、とテツが感心していると、アドルフは何故か身なりを整え、馬車の扉に手をかける。


「どうされました?」

「ああ、知っての通り俺は元公爵。城に行けば会いたくない奴らが沢山いるのさ。だから俺はここらで失礼させてもらうよ。用が住んだらこの紙に書いてある宿まで来てくれ。じゃあな」


 メアリーの問いに答えると、アドルフは走る馬車から飛び降り、人ごみの中へ消えていってしまった。全く自由な奴だ、と皆がため息をついた。


 この街に入る際、獣国王女がいると知った門番は急ぎ城に伝え、そして一行は城へと招待された。その為、王都を頼みむことなく馬車は城へと向かっている。


「テツさんは付いてきてくれますよ、ね……。というか逃げられなさそうですね」


 自分も街でも散策しようかと考えていたテツは、その両腕をしっかりとメルとミルに捕まれ潤んだ瞳で見つめられ動くことさえできないでいた。そんな光景にメアリーとレイはくつくつ笑い、テツは苦笑するしかなかった。


 城の門に辿り着くと、直ぐに門が開いた。馬車は長い中庭を通って、白の前で停車する。


「これはこれは。メアリー王女、お久しぶりでございます。また一段と美しくなられましたな」

「お久しぶりでございます、フランツ宰相。お元気そうで何よりです」


 馬車を降りるとすぐに宰相と飛ばれる人が出迎えてくれた。白髪混じりの髪をし丸眼鏡が特徴的な老人だ。恐らく60歳は過ぎているだろうが、その背筋はピンと伸び、気品あふれる男性だ。


「予定よりも大分遅れてしまい申し訳ありませんでした」

「いえ、無事で何よりでした。とりあえず歩きながらお話ししましょう。王にメアリー様の無事なお姿を見せて安心しさせてやってください。メアリー様が運河で行方不明になってからと言うもの「自分が助けに行く」と暴れて大変だったんですから」


 肩をすくめ話す宰相に、メアリーはくすくす笑いながら「なら早くお会いしないと」と言い一行は歩き出した。王とはその座に座り動かず、金を身に纏って太っているというイメージを持っていたテツには彼の話に驚いた。これから本物の王様に会えるのだ。少し楽しみではある。


 城の中に入ると、思わず感嘆の息を漏らす。壁には様々な装飾が施され、床には赤の絨毯が埃一つなく敷かれていた。天井も無駄に高い。城には巨人が住んでいると言われれば信じてしまうほどだ。


 カプリ伯爵邸では、メイドは皆短いスカートをはいていたが、ここでは踝近くまである古典的なメイド服を着ているようだ。あれは服屋の彼女(?)達の趣味なのだろう。


 長い階段を上がり、長く広い廊下を歩くと、今度は無駄にでかい扉の前で立ち止まる。扉は木で出来ているようだが、細かな模様が施されている。全くこの城を作った人達には感心させられてばかりだ、地球にも様々な城があったが、この城はその中でも一等に凄い。


「獣国、第二王女、メアリー様の、おなぁぁぁりぃぃぃ!!」


 扉の横にいた騎士が叫ぶと、扉はゆっくりと音を立てて開いた。あ、これ本当に言うんだ、とテツは笑い転げそうになるのを必死に抑え扉が開くのを待つ。「おなぁぁぁりぃぃぃ」が聞けただけで来た甲斐があったなとテツは思った。


 表情を引き締め中へと入ると、赤い絨毯が真っ直ぐ敷かれ、その先には王空席の座がある。両脇には騎士や貴族が沢山並んでいた。一応非公式の来国ではあったが、ここまで騒ぎが大きくなってしまったのだ。最早メアリーの来国は皆が知っているようだ。


 部屋の三分の二程進み、空席の王座の前で立ち止まると、後ろから声がして見覚えのある男性が入ってきた。


 以前共に戦った騎士隊長のケイトだ。どうやら南西の戦いを終え帰ってきたらしい。全く騎士と言う職業には休みがないらしい。


 ケイトと目があい、お互い軽く会釈をしたところで「王の、おなぁぁぁりぃぃぃ」という声の後、一人の男性が部屋へと入ってきた。

 

 20台に見える容姿をしているが、恐らく本当の年齢はそれよりも上だろう。だがそう見えてしまうほどに若く、着飾った服の上からでも彼がしっかりと鍛えているのがわかる。金色の髪をオールバックにし、はっきりとした目鼻立ちをしている。さぞ女性にはモテるだろう。


 彼が入ってくるタイミングで一行は膝を付き、両脇にいた騎士や貴族たちも頭を垂れた。


「面を上げよ」


 王の一言で皆姿勢を正す。王は玉座に座り、優しいまなざしでメアリーを見つめた。


「メアリー王女よ。遠路はるばるご苦労であった。そして無事で何よりである。本来なら私自ら助けに行きたかったのだが、皆に止められてしまってな」


 王の言葉に、横にいた宰相は酷く疲れた顔をしていた。本当に止めるのには苦労したのだろう。


「お会いできて光栄です、スクルス王よ。ご心配かけ、申し訳ありませんでした。それとスクルス王に万が一があっては一大事です。止めた部下達の判断は正しいかと」


 そう言うメアリーに、スクルス王はくつくつ笑い「そうかもな」と呟いた。


「さて、非公式に来てもらうはずが、こうして大ごとになってしまった事は申し訳ない。だが、最早隠してはいられない状況だと理解してくれ。早速だが、騎士ケイトよ。報告を頼む」

「ハッ!!」


 王の言葉にケイトはすぐさま反応し、そして皆に聞こえる様にゆっくりはっきりと話し始めた。


「皆様のご存知の通り、約一か月ほど前に、獣国から来国するはずのメアリー王女の乗る船が難破したと受け、すぐさま救出へ。そこで大型のAランクの魔物、クラーケン、そしてその後サーペントと遭遇、討伐いたしました!そしてとある情報を頼りに、王都の警備を強化した後、私は南西へ。情報通り、そこでも大型の魔物を確認、討伐に成功しました!しかし南西では二つの小さな町が消滅しました!」


 ケイトの報告を受け、王は頷き、そして部屋全体を見回す。


「聞いての通り、突然現れた大型の魔物が三度、この国に現れている。それほどの魔物なら、この国に来る前に必ず目撃情報があるはず。だが今回、それがなく突然現れた。この異常な状況からくる結論は一つ。この国は攻撃を受けているという事だ。他でもなく、我がギガ大国がだ。それに対し、我が結論は一つだ。攻撃されたなら、反撃するまで。相手が誰であろうと、大陸一の強さと規模を誇るこのギガ王国は不滅だ。誰にも負けん。舐められたままでいるな。相手に思い知らせてやれ。我が子らよ。剣を抜け。敵を切り裂き、世界に知らせよ。我がギガ大国こそが最強だと」


 王はゆっくりと、そして語る。そしてそれを聞いた騎士たちは剣を抜き、胸の前で構え、貴族たちは頭を垂れ部屋から出て行った。流石王様だとテツは思う。話す時の声の高さ、大きさまでしっかり考えられ、声は聞きやすく一語一句頭に入ってくる。


 そして何よりそのカリスマ性だろう。「覇気がある」とはこのことかもしれない。目の前で座り話す男性が、部屋に入ってきた時よりも何倍も大きく見えた。気が付けば、テツの体は熱く、その手には汗ばんでいた。王の熱に当てられたのだろう。これが本物の「王様」か。一瞬で彼に引き付けられていた自分に驚く。


 貴族や騎士達が居なくなると、一同は別室へ案内される。これからこれまでの詳細や、これからの事を詳しく話し合うそうだ。何故か自分も連れていかれ、話しが長くなりそうな予感がしてきたテツは、アドルフと一緒に逃げればよかったとため息をつくのだった。

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