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「なぜ見つからん……?」


 先ほどの轟音と閃光は間違いなくこの付近で発せられた。と司馬は未希の支援攻撃があったと目されるビルの屋上で立ちつくしていた。

 もう少し近くで支援を行なっているという予想とは裏腹に更に離れた位置で爆発音とそれに伴う光が瞬いた。


「蔦原たちの場所から480m、一体どんな手品を使ったら攻撃が届くんだ……」


 魔術による射程は実質無限だ。制限は個人の持つ魔力量と技量のみ、それを無視した理論上の数字では果てなく術は直進できる。

 だが個人の魔力量がいかに膨大であったとしても越えられない壁がある。術者自身の知覚だ。

 どんなに離れたところまで攻撃できるといっても相手が見えてなければヒットなどしようもない。


「見えてるのか、この距離で」


 いかんせん見えていたとしても当てるのは至難の技だ。

 直接触れてないものに魔力を作用させ続けることは出来ない。ようは遠方でのコントロールは不可能。最初に術を放った時点で当たるように軌道を調整しなければならない。

 ほんの僅かな誤差で大きなズレとなる距離なら何度か試行してからズレを修正するのが定石。 


「それを、たった一発で当てるのか」


 難易度の高さから誰も使わない長距離攻撃を完璧に自分のモノにしている『白雪未希』という謎の多い医者を名乗る存在に司馬は少し興味が沸いていた。

 実技の授業に出ていない分情報は少ないが、その技量をこの目で見たいと、純粋な魔術への探究心ゆえに。

 そこへ再び爆発音。

 だが、おかしい。どうして一人しかいないはずなのに四方八方から音が聞こえる?

 司馬は違和感を覚え周囲を見渡すと、付近のあらゆる高層建築物の屋上から爆発音と閃光が発せられていた。


「カモフラージュか。にしてもこの数は……骨が折れるな」


 ざっと数えて二十は光があった。それをすべてしらみ潰しに探すとなれば相当時間を稼がれる。


「やってくれたな白雪……!」


 口ではそういう司馬だが、口元が緩んでいる。彼はこの状況楽しんでいるのだ。

 やはり、変人とつるんでいるだけあって司馬も中々の変態のようだ。

 未希が司馬の性分まで計算に入れていたかどうかは不明だが、それでも司馬はすでに未希の術数の手の内にいる。

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