PHAZE2.5 Dr.未希の診断内容

幕間

「僕が学校にいなければどうするつもりだったのかな? 三角先生」


 三角によって保健室に担ぎ込まれた日向をたまたま理事長に報告書を提出に来ていた未希がすぐさま駆けつけ、手早く解熱処置を施したので大事には至らなかった。

 日向は発熱による体力の摩耗からかベッドで静かに熟睡している。

 未希の微笑んでいるのに全く笑っていない目に、三角は返す言葉もない。


「日向も日向だよ。僕に黙って訓練してたなんて、病に対していくらか強くなったといっても、体質の方は抑えることしかできないと言い含めておいたのに」


 それは日向を咎めている、というよりかは日向に信頼されていなかった自分の不甲斐なさを噛み締めているようだった。


「お前のせいじゃない。コイツが強くなりたいって思ったのは黄金の環によって環境が変わったからだ」

「それを防げなかったのは僕だ」

「だから、それは……やめた、どうせ堂々巡りだ」


 意固地になってる未希に何度説いたところで結論が変わるわけが無い。二人の関係を混線させているものを取り除くのは本人達の行動しかない、関係ないと言われればそれまでの三角にどうこうできる問題ではない。


「それで、迅速な対応はありがたいんだが。どうして日曜日に学校にいたんだお前」


 未希の自己嫌悪を止める目的半分、自分への追及から逃れるの半分で三角は話題をすり替える。


「報告だよ。土日の間に方舟内と連絡港周辺の現地調査を行なっていたんだ。調査許可が下りのがこの二日間だけだったからかなり詰め込んだ。僕の担当は技術支援デスクワーク肉体労働フィールドワークじゃないってのに……」


 保健室で事情に通じている養護教諭が淹れてくれたコーヒーを啜りながら未希は不満を溢す。普段の三角に対しての強い口調が弱まっているところから疲弊していることが垣間見える。


「けど、お前としても、調査活動はしておきたかったんじゃねぇの方舟の防備を完璧にしておきたいんなら」

「たった二日しか調査に当てられなかったのが不満なんだ。専門的な機関への立ち入り調査には申請を通す必要があったから時間が圧迫された、これだから人ばかり多い組織は手順ばかり多くなって……」

「お前らのスペックを基準にするな」


 NNNは巨大な組織だ中でも中枢を担うアメリカに本部を置く第二機関の構成員は十万人を越え、それに次いで五万人の日本の第一機関、だが未希の所属する第三機関は僅か七人で構成運営されている。

 たったそれだけで、他の機関と対等な能力を持っているのが未希たち第三機関なので、いささか個々の能力に見劣りするのは仕方ないだろう。


「で? 調査の方はどうだったんだよ、お前のことだ収穫なしってことはないだろ」

「当然、僅か四十八時間されど四十八時間だ徒労には終わらせないさ」


 未希は疲れを誤魔化すために一息にコーヒーを煽り、全身に行き渡らせるように深く呼吸する。


「いずれ情報の共有されることだが、キミには伝えておいた方がいいだろう。とは言え疲れているから要点を掻い摘んで話す詳細は理事長に聞けばいい」


 そう前置きし、未希は理事長に報告した内容の要約を三角に伝えた。


「――というわけだ」

「次の黄金の環の襲撃目標はほぼ方舟に確定、か。ただし詳しい内容把握までは至っていないと」

「追って調査が必要なのと、本格的に防衛作戦を練らなければらない」


 その口ぶりからすると、どうやら作戦立案まで未希は任されているようだ。


「理事長の采配能力には頭が上がらないよ、堂々と僕が動けるように役割を振ってくれてる」

「そりゃ、第一機関ウチの自慢のボスだからな。お前のやりたいことをやらせてやるくらいの度量の広さがなけりゃ勤まらねぇ」


 現在未希は方舟に滞在しているため一時的ではあるが彼への指揮権が第三機関所長から第一機関所長へ委譲されており、事実上理事長直属の実動員となっている。


「自慢話は結構だよ。僕も少し眠いや、仮眠を取らもらう」


 もう日も落ちどっぷりと暗闇に染まっている。寮に戻って休眠をとってもいい時間帯だというのに、仮眠程度に終わらせるということはこれからまだ仕事をしようとしているようだ。


「日向はもう少ししたら起きると思う。責任を持って寮に送り届けてよね、それとちゃんと謝るんだよ」

「わーってるよ、お前はお前でほどほどにしろよ」

「それは了解しかねるかな」

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