「さて、仕切り直しといこうやないか」

「そうだな、いろいろゴチャゴチャあったが、ようやく雪辱を果たせる!」


 調子が戻った。というか本来の目的にプラスして私怨を思い出した二人の面倒なのは、妙に血の気が多くやる気に満ち溢れている。


「桜、手はず通り」

「りょーかい」


 最初に動き出すのは好戦的な気性になっている面倒な二人組み、その初動を見てから第六の二人はあらかじめ示し合わせた行動に移る。


「切り替え《スイッチ》!」


 それぞれに立ち位置を交代し、迫ってくる相手とは別の方、日向は菊月に、桜は蔦原へと一対一の形を取ったのだ。


「悪いが、俺たちにとってお前らの因縁なんてのはな!」

「砂粒一つ分の価値も無いんだよね!」


 大体にして蔦原は一方的に因縁つけてきただけだし、桜は菊月に一勝しているため再戦になんの執着はない。

 それよりも確実な勝ちの方が重要なので、躊躇い無く彼らの想いを踏みにじる。


「少しは空気を読め! そんなんやから友達少ないんやろ!」

「お前が言うな!」


 言葉では蔦原に反応するが、日向は目の前の菊月との交戦に集中する。


「私は一向に構わんさ、春原の相手など……別に…………今でなくとも……!」


 強がっている割には、心底残念そうな表情が前面に出ている。ということを触れるのは無粋だと流石の日向も理解していた。


「だが悪手だったな。近接偏重の春原を近接不利な蔦原に当てたつもりだろうが、お前が私を攻略できるかどうかは別問題だ」


 柄を短く持った槍を近づく日向に突き出す、当然得意の電気と合わせて。


「それもクリア済みだ。端から俺たちは一番の脅威であるお前らにだけ焦点を絞った対策しか立てていない」


 まさか同じ隊にいるとは思っていなかったが。それでも、日向と桜がこの学校にやってきて一番厄介だと感じた相手をメタ最重要警戒対象として対策を張っていたのだ。

 そして、菊月への対抗策は――。


「絶縁体のグローブか……!?」

「少し違うが、一々、説明してやる義理はない」


 槍の刃を日向は拳でいなし、射程距離に菊月を捉える。

 高熱を発する日向の拳に備えられた竜爪、高熱の物質は電気抵抗が増し、加えて絶縁体のゴム手袋で素肌を保護しているため、肉体に電気を通さないようにしているのだ。


「電撃を攻略した程度で、私に太刀打ちできると思うな!」


 正確に頭を狙って放たれた拳を首の最小の動作だけで躱し、引き際に柄を長く持ち直し追撃の斬り払いを見舞いつつ距離を開ける。


「ただでは引かないか……」

「接近対策の電撃が攻略されたのなら、槍らしい戦い方をすべきだろ?」


 切り替えが早い、駄目になった手を直ぐに切り離して別の手を取る。

 自分の代名詞とも呼べる技に見切りをつけるなんて、そうそう出来ることではない。


「ドクターと同じ合理主義タイプか。苦手だな」


 それに間合いを取るのが巧い、電撃も囮というわけではないだろうが、槍使いとしての動きも精錬されている。

 剣や腕は近づかなければ攻撃が届かないが、槍はその上の距離から一方的に叩ける。


「電気対策でお前をあの堅物に当てたのだろうが、槍と剣、間合いの勝負で分が悪い、あてが外れたか?」


 特にこの演習の結果に左右されることのないケイカは、やや上空で文字通り高みの見物を決め込んでいた。


「まあけど、問題は無い」


 なんとか間合いを詰めようとする日向、それを阻止すべく槍を振るう菊月。

 突き出される槍には身を捩り、斬り払いには拳を打ち付けることで対処するが一歩踏み込めない。

 打ち合った拳と槍は互いに譲ることなく空いた距離での鍔競り合いを繰り広げる。


「どうした、腰に下げてる刀は飾りか!」

「まだ出番じゃねぇんだよ」


 カウンターを得手とする薊一刀流だが、思うように近付けなければ必殺の一撃もただの棒振りでしかない。


――トン、トン


 通信機から二回、合図が入る。

 それは日向の緊張感を緩ませると同時に、安心を響き渡らせる音だった。


「お前らに最強の射手がいるのかどうかは知らんが、少なくともウチには――」


『――発射Feuer


 半身を退いた日向の傍を細い白銀が一筋、空を貫いた。


「最高の狙撃手スナイパーがいる」


 日向の近くを通り抜けたソレは真っ直ぐに菊月と衝突し、跳ね飛ばす。

 遅れてやってくる爆発音と同時に日向は菊月を追う。


「零ノ型――枝垂柳シダレヤナギ


 仰け反りながら飛ばされた菊月に拳を地面に対し垂直に放つ。

 起点がわからない連続した攻撃に追加して、地面に杭で打ち付けられたような衝撃を受けた菊月は混乱していた。


「忘れたのか? これは小隊行動を想定した演習なんだぜ」


 目の前の日向との一騎打ち、一対一の状況が複数発生していると認識していた菊月は前提であるチームによる連携を失念していた。

 日向は遥か後方にいる支援者にサムズアップして感謝を表明する。


『気を抜いてはいけない、まだ菊月さんは戦闘続行可能だ』


 冷静に日向を嗜めるのは、未希。

 彼は直線距離で500m離れているどこかのビルで戦場を観察していた。菊月を撃ち抜いた骨董品アンティークを担ぎながら。


「白雪か。だが、アイツは司馬が追っていたはず」


 えずきながらも立ち上がる菊月。

 絶対防御結界下とはいえ日向の攻撃をノーガードで受けながら戦闘を再開できる状態とは学年最強の名は伊達ではないらしい。


「確かに司馬もかくれんぼが上手いようだが、ウチのドクターはもっとかくれんぼが上手い、アイツはガチで

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