4-1
「…………どしよ」
桜は困っていた。
今は月曜日の午後、戦闘訓練の時間なのだが、いつもペアを組んでいる日向は昨日の一件により欠席しているため二人一組であぶれてしまったのだ。
「センセ、あぶれた」
当然のように未希がいないということもありモチベーションが全く上がらない桜だが一応は学生であるため授業を受けなければという意識があるのか、いつも指示を出したあとは見てるだけの三角に報告する。
「ん? ああそうか葵は休みだから奇数になんのか、どっかの組に入れてもらって三人で回したらいんじゃねぇの」
「そう思ったんですが、誰も目を合わせてくれません」
クラスではちょくちょく会話をする人はいるが桜にとっては未希が最優先事項なので特に親密な間柄の生徒はいない、強いて言えば蔦原と司馬とはそれなりに仲良くなっているか。
また、初回での大暴れが日向だけでなく桜にも災いしており、突出した実力を持つ彼女と誰も手合わせをしたがらない。
「しゃあねぇな、おーい、委員長」
「はい? 何でしょうか」
三角が『委員長』と呼びかけて反応したのは、桜も昨日顔を合わせた菊月だった。
「春原があぶれた。お前んとこのペアに入れてやってくれ」
「今日は葵が欠席で戦闘訓練コースの出席者は偶数のはずでは?」
「どうもこうも、いつもどおり白雪のサボリだよ」
むしろ三角からすれば未希がいないことの方がディフォルトになっていたため当然だろといった風である。
「先生、お言葉ですがこんなにも連続して休んでいる――いえ、初回から一度も顔を出していない生徒がいるというのに些か無関心にもほどがあると思います」
その生真面目さゆえに未希が授業に参加していないこともだが、不真面目な態度の三角にも菊月は業を煮やしているらしい。
「別に午前中はいるんだしそこまで気にすることじゃねぇだろ」
「せめて事情はくらいは把握しておくべきだと思います。もしかしたら何かよくないことに巻き込まれているかもしれないんですよ」
未希の『事情』を把握しているがゆえに三角は内心毒づく「言い訳くらい考えていおけよ!」と。
「あまり言いたくはありませんが、素行から見て白雪さんは不良といっても過言ではありません。いつか問題を起こすかもしれませんよ」
それは言い過ぎだろと、流石の三角も反論しようとし思ったが、学校に指定されて無い白衣を羽織っていたり、遅刻しそうになるとバイクで登校したり、授業中隠れて薬品を調合してたりと素行だけでみれば未希は十分に擁護するに値しない不良だった。
「大丈夫だよ、未希なら」
菊月の言葉を否定するのは欠伸まじりの桜の言葉だった。
「未希はそんな無駄なことしないよ」
「無駄なこと?」
「そ、問題なんて、いっちばん未希が嫌いな『無駄』だよ。未希はいつだって細心の注意を払って、そういうのを回避して最大の結果を得ようとしてる。未希が問題に巻き込まれたり、ましてや、問題を起こすなんて絶対にないよ」
桜は少し怒っていた。未希のことを良く知りもしないのに、ちゃんと見てもいないのに想像で彼を決め付けられることが。
「では無駄なことをしないということは『授業に出る』ということも無駄だと、白雪は判断したということか?」
「きっとそうだね。授業より未希にとって重要なことがあるんだ。だから、今ここにいない。けど、それは絶対に無駄なことじゃない」
「それは春原の憶測では?」
「アナタのもね。けど私の方が未希のことを良く知ってる」
試すような物言いに、珍しく桜は挑戦的に答える。
「問題を起こすかどうかはともかく正当な理由なく授業に参加しないのは校則違反だ。規則に沿って後日処罰を受けてもらうのは決定事項だ」
「結局のところ、あなたの言いたいことはそこだけだよね。自分を正当化するために必要以上に未希を悪く言ったよね」
口調は穏やかで、へらっとした笑顔を浮かべている桜だが、パッチリ開いた目は一切笑っていない。
「司馬くんから聞いてるよ。アナタ学年で一番強いらしいね。楽しい人だと思ってたけど、それっぽっちのプライド振りかざして他人をこけ下ろすなんて全然大したことないのね?」
「それは喧嘩を売ってるつもりか?」
「蔦原くんよりマシな売り方でしょ?」
まだ互いのことをよく知らないがため、菊月は桜という少女の
そして同じく桜も菊月のことを知らない。
「いいだろう、プライドなどではなく実力で示してやる、私の正しさを」
菊月を不愉快にさせるものは二つ、規律を乱す不協和音と名ばかりと侮られるコト、ただそれだけ。
剥き出しの敵意を向ける桜とは対照的に静かに視線だけで怒りの態度を見せ付ける菊月。
「ガキってのはつくづく面倒くせぇな……」
まあ、見ようによってはあぶれた桜がグループに入れた。とも取れるのでこれ以上の面倒を拒む三角はそれで良しとすることにしたのだった。
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