おまけ ラナ、最終討伐試験 2
チャーリーが立てた作戦は上手く行きました。
勿論、皆の魔法もあっての話しですが、デニスの渾身の一撃は尻尾どころか頭を切り離してくれましたので、誰も怪我する事無く討伐は済みました。
今回の石蜥蜴は少し大きく、頭だけでも相当な重さですので、男性3名居るとはいえ結果報告は後者になりそうですね。
各々担当地域は分散しておりますし、使った魔力の痕跡でどの班が退治したか調べられますから、不正や見落としの心配はありません。
私達は更に石蜥蜴を討伐するべく、歩みを進める事に致しました。
「おか、おかしいだろ?! こんなの……」
そう言って肩で息をするのはデニスです。それもその筈。かれこれ石蜥蜴4体目の討伐を終えたばかりなのですから。
「流石、討伐依頼が出るだけあるな……とは言えない数だ。他の班も同様か? それとも俺達の班だけか、この遭遇率の高さは」
「さっきは流石に焦ったよ、探知してみればすぐ側に潜んでるんだから。ここのカルスト台地は特に岩が大きい。視界が悪過ぎるね」
そう言ってチャーリーが私を見ます。彼の言いたい事も分かるのです。何故ホムラを使わないのか、と言いたいのでしょう。
「念の為ホムラは上空へ飛ばしておりますよ?けれど、試験は自分の力でやり遂げたいのです」
そう言って、私は態とらしく肩を竦めて見せます。これは試験開始前に宣言していた事ですから、今更変えるつもりは無いのです。
「ラナさんを責めている訳ではないよ。只、有事の際にはお願いしたい。石化だけは避けたいからね」
「承知してますわ。それまでは只遊ばせておく事はご了承願いますね? 久々に外へ出て楽しそうですから」
チャーリーが頷いて、私も一安心です。ホムラを使えば探知も退治も楽でしょう。しかし、私達の成果はごく僅かになってしまいます。
「俺もラナ・レインの意見には賛成だ。最終試験は自分の力を確かめたい」
そう言って、ガイが私に笑いかけます。私はどう反応して良いのか分からず、曖昧に頷きました。どうも、彼を前にすると調子が狂うのです。
「俺だってそうだ。王国騎士団には良い立ち位置で入団したいからな。どっかの誰かさん達はもう勤め先が決まっているから気楽だろうが」
そう言うデニスはガイの方にちらりと視線を送りました。
ガイは1学年におられる王太子殿下の護衛を既に勤めております。彼らは乳兄弟であり、セレンディス家は代々王国騎士団、王宮騎士団、竜騎士団を纏める総団長を担っておりますから、彼にとっては当たり前なのでしょうけれど、他の騎士志望者からはやっかまれる事もあります。
セレンディス家の力は大きく、団への影響力は計り知れませんから。
只、彼が家の権力を振り翳した様子など見た事はありませんけれど。
「誰かさん、なんて濁さずに俺に直接言えば良いだろう、デニス。いや、デニス殿? その様子じゃあ上の階級へ上るのは難しいぞ? もう少し上手く立ち回らないとな。それに、ラナ・レインはまだ王宮騎士団の誘いを決め兼ねている。決まっているのは俺だけだ」
「セレンディス様、此方に話しを振るのは辞めて下さいまし。いずれにせよ、この試験結果で左右されるのですから、デニス・ハウンテンは頑張るしか無いでしょう。文句を言うのは2人の時にして……」
突然私の話しになり、私は慌てて軌道修正を試みました。しかし、デニスは少しむっとした様子で此方に視線を投げて来るものですから、私は続く言葉を飲み込んでしまいました。
「王宮騎士団の誘いを保留? 何でそんな……というか、何でガイ殿は仕方ないとして、チャーリーはさん付けなのに、俺はフルネーム呼びなんだよ?! 3年間学級は一緒だっただろう?! 」
「3年一緒だからと言って、貴方と特に親しく話しをした覚えが無いものですから、名前呼びはどうかと……。それに、チャーリーさんは学級委員長ですから、良く話しますし……」
「……ほう、良く話す……。チャーリー殿、どんな話しをするんだ? 初耳なんだが」
「はあぁ?! 学友って言葉知ってるか?! だから、ラナ・レインは女史だなんだと言われんだぞ! 」
ガイもデニスも何故そんなに怒っているのでしょう?? それに、デニスの方こそ私をフルネーム呼びでしょうに……。
「ちょっとー。こんな魔物が出る場所で言い争いとか辞めてよー。セレンディス様、チャーリーはそんなじゃないから心配要りませんよー。多分ねー」
「ちょっと、ペティさん?? 誤解を招く言い方しないでくれないかなっ!! 僕が後から彼に殺され……じゃない、もう! お二方いい加減にして頂きたい。班の士気が下がる」
チャーリーの鶴の一声で、皆無言になりました。流石纏める力がある御仁です。
皆が押し黙ったので、辺りには静寂が訪れました。
しかし、それにより不穏な音を私は聞いてしまったのです。
「……今、叫び声が聞こえませんでしたか?! 」
其々の顔を確認しますが、誰もが首を傾げています。……という事は、この声は……
「ホムラが別の班の危機を察知した様です!! ……ここから北東、アルギラが居る班です!! 」
「……と言う事はザクセルが率いている班か?! 奴なら大丈夫だと思うんだが、他に何か分かるか? 」
ガイの言う通り、確かにザクセル程の豪腕なら、石蜥蜴如き平気な気も致します。私はホムラと共鳴して、その場を確かめる事に致しました。
私は、ホムラの片割れですから、ホムラの見聞きしたものを共鳴で感じる事が出来るのです。
「……ペティ、デニスと共に本陣へ連絡に戻って! 人手が必要だわっ」
「やっと呼び捨てって、何でだよ! 俺らも行けばっ」
「
「……それが適任だと思うよ、ラナさん。時間が惜しい、皆行くよ!! 」
「チッ! 直ぐ応援を連れて行く!! ペティ行くぞ! 」
「ラナ!! 無茶は駄目だからね?! 」
ペティが私の手を取り、念を押します。私はゆっくりと頷きました。そこで安心してくれたのか、ペティは手を離すとデニスと共に駆け出しました。
「ガイ、石蛇鳥に貴方の氷はどれくらい有効かしら!! 」
「っ?! っ直接見ないと分からんが、奴の頭の魔力瘤を凍らすには少し時間が掛かるかも知れん」
「それまでは私とホムラで注意を引きます!! お二方、行きますよ!! 」
私達3人は、石蛇鳥の居る方向へと駆け出したのでした。
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