おまけ 運命の強制力 4
剣に予め炎の魔法をかけて刃自体燃やしておきましたので、硬い表皮でも刺さってくれた様です。剣が駄目になりましたが、脚1本取れたのなら御の字でしょう。
森に住まう
大きさは
そもそも大蜘蛛は集団で生活する種族ですから、この個体だけ無事に森から切り離して始末をつければ、私達は無事に帰れます。ここは踏ん張り所ですね!
「ミレニスさん、もっと此方へ! 走って! 」
彼女に向かい叫びます。
ミレニスさんは大蜘蛛の叫びに驚愕の声を上げましたが、私の掛け声と共に走り出し、足取りはしっかりとしています。流石、暴れ馬に果敢にも飛び乗っただけありますね!!
本当、鍛えるつもりは無いでしょうか? これが終わったら、もう一度誘ってみましょう!!
彼女を追って、大蜘蛛も此方へ向かって来ます。流石、脚が多いだけありますね、1本減った位では何とも無いのか、速くて困ります。
「ホムラ!! 炎の咆哮!! 」
私の掛け声と共に、ホムラが空から炎の
奴の表皮は砂竜よりも硬いので、流石の竜の炎一度と言えど燃えてくれない様です。大蜘蛛は土と水属性。炎は耐性があるとはいえ、硬すぎですよ?!
しかし、上半身が焦げましたので、もう一押しです!
そこへ無事に走り抜いたミレニスさんが私の元へと辿り着きました。顔は青ざめていますが、どこも怪我をされていない様で一安心でございます。
「ラ、ラナ様ぁっ!! 」
「ミレニスさん、良く走り抜きましたね。さあ、シズルの背に乗って下さい! 」
「ラナ様は?! 一緒に逃げましょう?? 」
「大蜘蛛が徒党を組んで平原を荒らしては殿下に合わす顔がございませんから、私はホムラと共にあの個体を潰します! シズル!! 宜しくねっ!! 」
シズルが無事にミレニスさんを背に乗せ、飛び上がったのを横目で確認しつつ、私の目はしっかりと大蜘蛛を捉えておりました。その時ふと、砂竜討伐で出来なかった事を思い出しました。
体内を燃やしてはどうでしょう??
幸い、ここは崩れる心配もございませんし、庇う相手も無し。
炎耐性強の大蜘蛛に、私の魔法が何処まで通用するのか……。ミレニスさんだけでなく、私も修行せねばなりませんし。
そうと決まれば、早速大蜘蛛の中心に意識を集中させて、魔法を発動します。爆発させるイメージでしたが、やはり硬く、そして強固な耐性により上手くは行きませんでした。
「ギャアアァァァッ!!」
まるで人間の様な叫びが即座に上がり、私は眉を寄せました。実は討伐は2度目ですが、それは訓練の一環で他にも人手がありましたし、今回1人で対峙するのは初めてです。が、この叫び声だけは慣れそうにありません。
敵と戦っているというのに、そんな事を考えてしまい、私は一瞬の隙を作ってしまったのでしょう、突然右足に衝撃が走りました。
大蜘蛛が口から煙を吐き出したながら、それでもその上半身の手……の様な前脚から強力な粘膜の糸を出し、私の足に巻き付けていたのです!
その拍子に、情けなくも私は尻餅を着いてしまい、慌てました。敵の前で体制を崩すなんて愚行にも程があります!!
「しまった! ホムラッ!! 」
糸はとにかくじっとりと私の足に纏わり付いていて、恐らく燃やせば炎が伝わり私の足も無事ではありません。しかし、剣を駄目にした私としては、断ち切るには燃やしてしまうしか無いでしょう。
ホムラが直ぐに炎の息を大蜘蛛の上半身へお見舞いし、その瞬間、私の足に向かって炎が走りました。
私は覚悟を決めて、その炎の走る軌道を睨みつけます。が、頭に衝撃が走り、意識が逸れました。
また第2の襲撃なんて洒落になりません!そんな事を思いながら恐る恐る見てみれば、それは……
「きゅ?」
衝撃の犯人は、赤兎でした。
私は呆気に取られ、暫くその赤い瞳を見つめていたのですが、足に痛みが無い事に気付いて、糸が巻き付いているであろう自分の足先を見ました。……が、足に糸は巻き付いていましたが、その糸の先が切れてしまっています。運良く、切れてくれたのでしょうか??
不思議に思っていると、頭に降って来た赤兎と別の赤兎が、足元に転がる様に擦り付いて来て、私は驚きで目を見開きました。赤兎は小さな体で力も無く、他の魔物に捕食されるせいか、臆病な性質です。
それが、
当の大蜘蛛と言えば、ホムラの炎で止めを刺されたのか、ぶすぶすと鈍い音を体から出しながら絶命していました。
私はまだまだ未熟な自分に溜め息が出てしまいます。ホムラがいなければ、1人で上級魔物討伐すら満足に出来ないとは。
「私もまだまだですね……」
「何がまだまだですかー!! ラナ様ぁっ!! 」
その声は空から大きく降って来て、私はミレニスさんがまだシズルの背に乗っていた事を思い出しました。
「シズル! もう大丈夫、ミレニスさんを降ろしてあげて! 」
私がそう言えば、シズルはふわりと静かに私の前に降り立ちました。途端にミレニスさんが駆けて来て、私に抱き付くものですから、座っていた私は彼女諸共倒れ込んでしまいました。
「ミレニスさん?! 突然どうしたのですか? 危ないでしょう?? 」
そう嗜めると、体を起こした彼女は私を見下ろして思い切り睨みつけて来ます。その気迫に、私は二の句が告げずに黙りました。
「危ないのはラナ様です!! 良いですかっ?! 上級魔物は6人の小隊、又は10人の中小隊での討伐が基本だと習いました! それをっ! 1人でっ! 私の為に大切な戦力のシズルちゃんを外してっ!! いくらホムラ君が居るからと言っても、確実とは言えないのに相対するなんてっ!! 」
そこまで言い終えると、彼女はぜーぜーと息を荒くしています。
「いえ、ですが……」
「ですが?! ですが他に何かありますかっ?! 一度戻って、それこそ奴らが徒党を組んでいようとも、騎士団に任せれば良いんですよ! 一網打尽にすれば良いんですよ! それを、まだまだ? まだまだ何ですかっ?? まだまだどころか、上々です! でしょう?! ですよね?? しかも、足を犠牲にしようとしましたよねっ? 明日結婚式をする! 花嫁が! おいそれと! 体を蔑ろにする?! もうっ! もうっ!! 」
「………」
ミレニスさんは顔を真っ赤にして怒っているので、私は黙っていたのですが、そんな姿すら可愛らしい……と言ったら更に怒らせてしまいそうでしたので、私は只黙るのみでございます。
「赤兎が糸を切ってくれなかったら、私はどんな顔してセレンディス様に謝れば良いんですか?! 私の命1つ差し出しても足りないくらいですよっ?? いきなり義兄の命まで差し出さなきゃいけない私の身にもなって下さいよっ?! 」
そこで何故命のやり取りに……いえ、それよりも、
「赤兎が、大蜘蛛の糸を切ってくれたのですかっ?! 」
「そうですよっ?! ニコちゃんが糸を切ってくれなきゃ、私、私ぃ……う、うぇーんっ」
そのまま私に覆い被さり、ミレニスさんは泣き出してしまいました。
私は訳が分からずに、小型化して空を飛び交うホムラとシズルを、彼女を胸に抱きつつ呆然としながら見上げるしかありませんでした。
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