おまけ ラナ、最終討伐試験 4

「しっかし、本当にびっくりしたわー。まさか上級討伐対象を2人で退治しちゃう? 私、無茶はしないでって言ったよね?? あれ、私の勘違いかなー? 」


「ひたいっぺっペティ?! 頬を抓らないで! 」


事情説明が終わり、怪我人も運ばれ本陣へと戻ると、私は何故かペティに頬を抓られておりました。流石騎士科です、力が強く容赦がありません。


「正確には1人で、だ。俺は石化した石蛇鳥コカトリスを粉砕したに過ぎない。ホムラに気を取られた石蛇鳥のくちばしを雷魔法で押し切ったラナの勝ちだった。押し切ったと言うか、叩き割ったと言うのか……」


そう言うガイは、ペティの行動を止めてもくれません。彼から若干の怒りが感じ取れますが、態と止めない……なんてしてませんわよね?!私の頬が千切れますよ?!


「まあまあ、ペティさん。そのくらいにしてあげないと、ラナさんの頬が千切れてしまうよ。気持ちは分かるけれどね? 」


チャーリーまでもが、きちんと止めてくれないとは、これは由々しき事態です!!何故、石蛇鳥を退治出来たと言うのに、皆怒ってるんでしょうか?!


「あーゆー時は時間稼ぎをして、教官らが到着するのを待つもんだろ?それを力技で押し切るとか、レイン家はどんな教えをしてんだよ。確かに飛竜を使った見本みたいな戦い方なのかも知れないが……あの石蛇鳥の残骸に立つ光景は流石に俺も引くわ」


デニスに引かれようとも何とも無いのですが、ちょっと悲しいです。

それに、有事の際とはいえ、ホムラの力を借りてしまいましたし……これは、試験事態やり直しかも知れません。


「もう……皆、確かに試験は失敗してしまったから怒るのは無理も無いですが、仕方ないではないですか!私、次こそは頑張りますし……」


そう言って皆の顔を確認すれば、各々目を見開いていたり、口をぽかんと開けていたりと様々です。私、変な事を言ってしまったでしょうか?ペティなんてやっと手を離してくれましたし……。


「ラナ?試験は無事終わったって教官が言って……無かったかも知れないけどー。やり直しする訳無いでしょー?? 」


「まさか、このまま皆座学の追試……?! なんて事っ!! 」


私が驚くと、デニスが呆れた様に溜め息を吐きました。


「あのな、石蜥蜴バジリスクは4体も倒すわ、石蛇鳥コカトリスを倒すわ、これ以上どうやって点を稼ぐんだよ?! 」


「今まで、上級討伐対象を退治してみせた試験は数える程度で、しかも班同士協力してやっと、らしいよ? 」


チャーリーの説明を聞き、私は安心致しました。

……と言う事は、私達は無事に試験を通過出来たと言う事でしょうか?


「それは……良かったですわ。皆の怪我も大した事が無かったのは不幸中の幸いでしたから」


「だーかーらー、私達が怒ってるのはそーゆー事じゃないのー!! 」


「ラナさんの戦闘での判断力は凄まじいのに、何でこう……」


「……俺、こんなの命いくつあっても足りねーや。ガイ殿に任せた」


ん? デニスは何をガイに任せたと言うのでしょう??


「デニスに言われる筋合いは無いが……でも、そうだな。ラナ・レイン、お前は根本的なものが分かって無い様だ。学園へ戻ったら皆から説教ものだな? なあ、皆? 」


そうガイが言えば、皆うんうんと頷きます。おかしいです、労いはあれど説教なんて何故受けねばならないのでしょうか?!




その後本当に皆から説教を受けて、精神的にボロボロになった私に待ち受けていたのが、歴代最高得点を叩き出した稀代の竜使いという、何とも微妙な渾名でした。




ーーーーーー




「まさか、セレンディス様の粘り勝ちとはねー。結婚報告を受けた時、あの時は笑ったよねー。終にあの鈍いラナ・レインが捕まった! って」


そう言ってころころと笑うのは、同窓生のペティです。あの後無事に王宮騎士団へ入団したペティは、何とデニスと婚約しています。今はまだ仕事に専念したいと、婚姻は先延ばし状態です。


今日は久方ぶりに彼女からセレンディス家に訪ねてくれたのです。

私とガイの結婚式では生憎仕事で遠征に行っておりましたから出席出来ず、その後ちょくちょく遊びに来てくれるのですが、会うとついつい思い出話が長くなってしまいます。


「ねーおかあさま、それでコカトリスのほかはー? どんなおしごとをされたのー? 」


「お仕事って言うのかなー。でも、デビィ坊やにはまだ分からないよねー」


ペティはそう言って、デイビットの頭を撫でます。今年4歳になる息子は、魔物退治の話しに興味深々です。


「それはそれは怖〜い魔物を退治したのよ? さあ、その話しはまた今度してあげるから、剣の稽古へ行ってらっしゃい」


「はーいっ! ホムラ、おいでー!! 」


そう元気良く返事をして、デイビットは駆け出しました。ホムラが見ていてくれるので安心ですね。


「……で、私の何処ら辺が鈍いんでしょう? ペティ? 」


私はペティをひと睨み致します。先程の台詞、しっかりと聞いていましたからね?!

そんな私を意に介さず、ペティはにんまりと悪い笑みを浮かべました。


「だーって、皆が説教しないと自分を大事にしろって事も伝わらないし、セレンディス様を意識しまくってる癖に分かって無かった様だしー? 騎士科の女子の間ではいつ気付くんだろーってやきもきしてたんだからー! 」


そんな事全然知りませんでしたが?!


「わ、私そんなに意識してました……? その、ガイを……」


「してたしてた! だって、あの頃ラナはデニスには何とも思ってなかったでしょー? あんなに突っかかって来られてたのに。それに比べてセレンディス様は始終優しいのに、貴女ったらつんつんしてさー。もー、見ていて可笑しかったんだから! まあ、無事纏まって良かった……嘘でしょ?! 子供も居てそんな真っ赤になるのー!? 」


確かにそう言われると私、かなりガイを意識していたんですね。そう思うと頬が赤くなるのを止められません。


「これは、セレンディス様過保護にもなるわー。あー! 私も出世云々より結婚しよっかなー? デニスがうるさくて……でも」


「でも……」


「「アリアナ様が可愛い過ぎて、離れ難い」」


私達は声を揃えて言い切りました。


「でしょう? 」


「そうなのー。ラナが言うだけあるわー。あの方可愛いし美しいし……全力でお護りしたくなっちゃうのよー」


「羨ましい……私だって、復帰出来るならば復帰したいですのにっ!! ペティばかり狡いです! 」


そうなのです。王宮騎士団へ入団したペティは、今や王太子妃であるアリアナ様の護衛なのです。私が取って変わりたいのですが、生憎と今……


「そのお腹で何言ってるんだかー。良い? ラナは本当に無茶をするから、女神様がそうしない様にと守るべき子供を授けたんだから、黙って子育てしてなさい」


そうなのです。私は今身重の身なのです。

2人目ですので慣れたものなのですが、ガイは兎に角私を動かせてはくれないので、そこが不満といえば不満です。

しかし、こうやって友人が遊びに来てくれますから、我が儘は言えませんね。


ですが、


「いいえ、産まれたら即復帰致しますわ!! ペティは安心してデニスと結婚して下さいね? 」


「まー、私を追い出しにかけようってそうは行かないからー! 今や私は王太子妃護衛騎士隊隊長ですからー! 」


「私だって稀代の竜使いですから、復帰したら直ぐ勘を取り戻してみせます! 」


そう言って、ペティと私は顔を付き合わせたのですが、何方からとも無く笑ってしまいました。


私は何となしに空を見上げます。ここ暫く飛んでいない空は真っ青に晴れ、お嬢様の瞳の色と同じ色です。


「先ずはホムラと共に飛ぶ所からね」


「ほら、そうやってまた無茶しそうになるー」



私達の笑い声は、澄んだ高い空へと溶けて消えて行くのでした。


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